経験値(ポイント)
ホルダーにとっての『最重要事項』と言っても過言ではない経験値の獲得には、システム上で目に見える形での説明が無いけれど、ある程度の法則性は存在する。
もちろんモンスターを討伐し、死体が変化した黒い霧を吸い込むことが確実でいちばん簡単な方法であるのは変わらない。
しかしポイントを得るために残された手はそれだけではないし、討伐と一口に言っても種類の内訳は様々だ。
まず1人でモンスターを倒した場合。このケースはシンプルだ。モンスターを倒したことで得られるポイントすべてが自分1人にそっくりそのまま入る。
もちろん倒したモンスターのレベルが自分より高ければ高いほどに入手できるポイントは多くなるし、自分よりもレベルが大きく下回るモンスターをどれだけ倒してもポイントを得ることは出来ないことは誰であっても変わらない。
だけどモンスターに関して一番多くポイントを稼げる方法であることもまた不変であり、経験値を稼ぐために『この手段』をホルダーの殆どが選択する理由もそのような部分にあるのだろう。
次に複数人でモンスターを倒した時。この場合は少し複雑な『貢献度』と言う概念が絡んでくる。
誰が一番モンスターの攻撃を防いだか。誰が一番長くモンスターと戦ったのか。誰が一番モンスターに傷を負わせたのか。誰が一番モンスターとの戦線維持に貢献したか。誰がモンスターにトドメを刺したのか。
与えたダメージ量、仲間に施した回復量、自信の運動量や魔力消費量、その他様々な要因を評価したうえでポイントが自動で分配されるようになっている。
だから誰かに守られてるだけのホルダーは経験値を得ることは出来ないし、同じパーティーメンバーがどれほど強力なモンスターを倒してもサボってる人間に加算されるポイントたかが知れた量になってしまう。
ここまでがモンスターを討伐に成功した場合のポイント換算。
そして実は『失敗した時』でもポイントを取得できるケースがある。
自分よりも遥かにレベル差があるモンスターと戦う、もしくは不幸にも高レベルモンスターに襲われてしまった状況だ。
先述した通りモンスターのレベルが高ければ高いほどに手に入れられるポイントは大きくなる。だけどそのケースにおいて、ポイントを得たいだけなんだったら必ずしも倒す必要は無い。
強者からの猛攻にひたすら耐える。
強者との戦いで生き残る。
強者から逃走を成功させる。
このような事例でも少なくないポイントを獲得することがシステム上、可能になっている。
つまりはモンスターを相手する時、一番重要になってくるのはレベル。ステータスの大小ではなく、彼我のレベル差がどれほどあるのかが獲得できるポイントに影響しているんだ。
そう……これこそが俺の知るポイントについてのルール。経験則と伝え聞いた知識から来る認識だった。
だがらこれ以上は知らない。
俺にはわからない。
いったい人間を殺した場合に得られる経験値にはどんなルールがあるのか。
どれほどポイントを多くもらえるのか。逆にもらえないのか。
レベルの大小や有無は関係あるのか。
【剣神】の事例しか知らない俺には分からなかった。
そんなこと分かるわけが無かった。
「……まだ上がるのか! 」
だけど現に今、俺は直面している。
人を山のように殺すことで凄まじい速度での成長を遂げるこの殺戮者を。
止めようにも止められない、傷つけようにも傷つけられない、殺そうにも殺し切れない、俺が見た中で最も凶悪で残酷なホルダーを。
「世界最高の殺傷能力を持っていた【死神】が君に成す術もなく一方的に敗北した理由は彼が『致命的なミス』を犯したからだ」
「ジェイドはあの日、あまりに多くを殺し過ぎた。正義感の強い君を挑発するには十数人死なせれば十分だったのにも関わらず『一帯丸ごと皆殺し』にしてしまった。君に楽をさせてしまった。君に周囲を気にせずに戦える環境をむざむざ自ら提供してしまったんだ」
「モンスターと違って人間は思考する生き物なのに。情もあるし、命にかかわる攻撃や、防御を躊躇ってしまうことだってあるのに。多分【即死魔術】に頼り切っていたせいだろうね。殺し合いの感度が鈍ってしまったんだ。殺そうとする相手を観察し、分析するという基本をジェイドは怠ったってしまった……」
「だけどボクは違う。ボクは君が一番嫌だと感じる選択肢を選び続ける。後ろの彼らをボクは『絶対に殺してあげない』。殺さない様に尽力する。まあ君はボクのいう事なんて信用しないだろうけど……君はそれだと力を思う存分に発揮することは途端に難しくなってしまう。なぜなら君はまだ割り切れていないから。『無関係の人の命』を大義のために切り捨てることが出来るほどには」
俺には自信があった。
他のどのホルダーにも引けを取らない程に膨大な戦闘経験を積んでいるという自負があった。
「分かってるだろうけど君に助けは来ないし、来させない。その程度の妨害なら簡単だ。君は今一人だけだけど、ボクにはまだ仲間がいるからね」
でも、それは違った。
それは恐ろしい勘違いだった。
この男の対人戦闘経験は文字通り『桁が違う』。
『龍王の炎』を使おうとする途端にマサヒラが狙われるのも、勝負を決めに行こうとした間際に痛覚を刺激して来るのも、外部に連絡を取ろうとして延々と失敗し続けているのも、全てコイツの計算通り。
「だから君にはその『重り』をずっとつけたまま最後まで踊ってもらうよ。ずっと……ずぅ~っと……ボクがファーストブラッドのレベルに追いつくその時まで」
もう認めるしかない。
この戦いの主導権は、とっくの昔に握られていたのだということを。




