表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
369/558

二つの顔を持つ男

 暴力と熱狂が支配するホルダーの世界において彼の評判は大きく二つに分かれている。比類なき栄光への惜しみなき称賛とまことしやかに囁かれた口にするのも憚れるような噂への恐怖にと。



 一方で彼はまさしく英雄だった。



 彗星の如くホルダーの世界に現れて、あっという間に世界順位を駆け上がっていき一位に。そこからは一度も頂点を譲らずにホルダーの最前線を独走し続け、今も尚その凄まじい成長ペースを維持し続けている。


 主な公式記録では上級ダンジョン最速攻略記録から始まり、魔王の討伐数も世界一位。さらには複数の魔境攻略を経験した世界唯一のホルダーでもある彼は公式対人戦300戦無敗記録も保持している。


 現存している人類生存圏の20パーセント以上は彼の尽力によって奪還出来たと言われており、30を超える国で表彰され、5つの国から勲章を賜われた彼はまさにダンジョン黎明期が生んだ大英雄の1人と言うべき存在だった。



 他方で彼は恐怖の対象だった。 



 英雄と称された彼にも欠点はある。その人界では強すぎる力、能力の凶悪さ、モンスターに問わず敵に対して一切の情けを見せない姿勢や周囲の被害を顧みずにモンスターを討伐する態度……それらは度々批判の対象になりうる要素だった。


 だがそんな声は時間が経つに連れてどんどん小さくなっていく。


 彼が力を見せつけ、何を出来るのかをしらしめ、廃墟の山を積み上げていく内に誰も何も言えなくなり、次第にこんな声が上がり始めることになる。彼には絶対に逆らうな、と。


 そこからだった。彼が周囲の近しい人間、特にホルダーから恐れられるようになったのは。


 そして不幸なことに、彼は秘密主義な人間だった。


 そのため彼の強さに関してはある事、無い事、様々な噂が流れるようになる。


 曰く、彼は人を殺すことでポイントを稼いでいる。


 曰く、彼は快楽殺人鬼の息子である。


 曰く、彼も日課のように人を殺して回っている。 


 曰く、彼は人間の命を紙屑ほどにしか考えていない。


 曰く、曰く、曰く。【偽装】が施され、特別なスキルを用いても見通すことが出来ない彼の力の根源は人々に面白おかしく、少しの怖気を交わらせながら想像され、語られ続けた。


 世界最強の地位を守り続けた彼のことを【覇王(カイザー)】と称すようになってからも。



 そんな彼について誰もが考えていた。


 世界最強の男のスキル構成はいったいどんなものなのだろう、と。


 彼はいかにして世界最強になったんだろう、と。


 そして皆が心中でこうも思っていた。


 このような噂の出処は果たしてどこなんだろう、と。


 なぜこんな音も葉もない話が言われ続けるのだろう、と。



「は……? なんで……!? どうして!? 」


「がっ……え……血? おれ……なにが……なにを……? 」


「【状態異常(デバフ)】? ……いつのまに……」


「【スキル】……それとも【魔法】……? 」


「なに……が……お……こっ……て……」


「はぁ……はぁ……ごほっ! がはっ! 」


「いてぇ……いでぇ……なんだよ……なんなんだよ、これ! 」


「……くる……ぐるじ……いぎが……い……」


「え……わたし……しぬ……の? 」



 まさか、そんな流説を耳にした誰もが考えてもみなかった。


 彼に関するウワサが全て本当であるという可能性を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ