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人類の敵

 コイツの“異質さ”は一目見た瞬間から感じていた。


 他のホルダーには見られなかった奇妙な違和感を。


 目が合っただけで感じた生理的嫌悪感を。


 今、こうして戦ってみてハッキリした。


 その感覚の正体がなんだったのか。



「……【鑑定】」



『人体を効率よく解体するスキル』


『自分よりも高レベルの人間との戦いで[力]と[敏捷力]が倍増するスキル』


『人間との戦いで五感と[耐久力]が強化されるスキル』


『敵対した人間との魔力差が大きければ大きいほどに[力]を増強させるスキル』


『人間と戦った時だけ全ステータスが倍増するスキル』


『他人の返り血を浴びると[器用]と[持久力]が上昇するスキル』


『敵対したヒトの痛覚を数千倍にするスキル』


『ヒトの体機能のいずれかをランダムに消失させるスキル』


『ヒトの五感を狂わせる魔法』


『ヒトに何らかの状態異常を付与する魔法』


『ヒトが持つ状態異常を増幅させる魔法』


『人体に魔力を流し込むことで内部から隊組織を破壊する魔法』


『10歳未満の児童を1000人殺すことで手に入る称号』


『70歳以上の老人を2000人以上殺すことで初めて手に入る称号』


『レベルを持たない人間を10000人以上殺すことで初めて手に入る称号』


『24時間以内に人間を1000000人以上殺すことで初めて手に入る称号』


『最も多くの殺人を行ったホルダーのみが獲得できる称号』


『ヒトを殺して手に入る経験値(ポイント)が倍加する称号』……



「あー……見てしまったかな? ボクのステータスを」


「…………『人類の敵(・・・・)』が」


「ハハハハハハハハハハハハハ!! またまた嫌われてしまったようだね! 誉め言葉として受け取っておく……――よッ! 」


「ッ!? 『絶対防御圏域アイソレーションドーム』!! 」



 極端で異常な対・人間(ホルダー)特化。読み上げるのも悍ましい文言が並んだコイツのステータスはただひたすらに人間への殺意と悪意とモンスターへの無関心さで満たされている。



「ふぅ……惜しかったなー……あとちょっとだったのに」


「お前……今、マサヒラを狙っただろ? 」


「……? だから? 」


「……潰す」


「アハハハハハハハ! そうこなくっちゃ! 」



 けれど俺と戦っている間のコイツは終始上機嫌な様子だった。


【虐殺術】によって形成した『刃渡り不明』『形状不明』『切れ味最高』の不可視の刃・数千本(・・・)を縦横無尽、自由自在に振り回し、終始笑みを絶やさず俺に向かってきているのだから。



「随分と余裕そうだな……それとも俺と戦えるのがそんなに嬉しいのか!? 」


「ああ! 嬉しいさ! ホルダーになった時から、この瞬間をずっと、ずう~っと待ち望んでいたんだから! 」



『完全に正気を失ってる』――そんな確信を持たせるには十分なほどに戦っているコイツはイカレてしまっているように見えた。だけど反面、この男はマサヒラとの位置関係を利用することで、俺に【魔法】や『大技』を出させない様に立ち回る冷静さも併せ持っている。


 全く油断できない。


 いったい、いつどんな攻撃が飛んで来るのか……――



「――【外法魔術(ゲホウマジュツ)】」



 ――来た! 『ヒト(・・)に何らかの状態異常を付与する魔法』!



「『圧縮念波』! 」



 この【魔法】……一目見ただけでは、まるで回避が不可能な力のように見える。だけど俺は知っている。この【魔法】の発動条件が薄く散布された粉を吸い込んだ時であることを。


 つまり対処はそれほど難しくない。


 俺に届く前に吹き飛ばせばいいだけだ。



「『ショックウェーブ(全体攻撃)』ではなく『圧縮念波(それ)』を使った理由は後ろの彼らに気を使ったのか……なッ!? 【不幸の宣告(デーモントリック)】!! 」



 しかし追撃は予想の倍は早い。

 

 今度は『ヒトの体機能のいずれかをランダムに消失させるスキル』が絶対に避けきれない最悪のタイミングで迫って来た。


 俺とマサヒラたちの間に滑り込み、放たれた不可視の光線は真っすぐ俺の胸の中心を通り過ぎていった。



「……ッ! ……んぐッ! ……かッ! 」



 息が……出来ない!? 



「避けられなかったことを悔やむ必要は無いよ。一日一回という長すぎる使用間隔があるだけあってこの【スキル】はレベル差を問わずに必中だ……それにどうやら大当たり(・・・・)を引いたようだね? 消えたのは『呼吸』だよ」



 コイツの言った通り俺の身体は息の仕方を忘れてしまったようだった。徐々に意識がもうろうとし始めて、思考は散発的になり、身体からは力が抜けていく。


 それでも俺は気絶する寸前の頭を振り絞り、発声。



「……――『ショックウェーブ』……『超再生』ぃ!! 」



 事前に用意していた『技』を二つ、頭の中で(・・・・)発動させた。



「脳を自爆させ、丸ごと入れ替えたか! 」


「――正解」



 もうこの手順も慣れたもんだ。


 一度やったことあるからな。


 そして【不幸の宣告(デーモントリック)】は対象の脳から伝わった命令の一部をせき止めることが可能な【スキル】。旧い脳みその異常は、新しい脳みそに置き換えて、塗りつぶしてしまえばいい。


 まだ頭はくらくらするが間違いない。


 攻め時はここだ。



「『瞬間移動』――『フルスイング』ッ! 」


「……ッぐぅ!? 」



 まずはいつものコンボをお見舞い。最速で距離を詰めつつ、完全に虚をついたタイミングでバットを全力で振りぬいた。



「『瞬間移動』――――『乱打』ァ! 」


「ぐが! 」



 たまらず全力で防御し、大きく空へ浮き上がった男を今度は下へ――連撃で叩き落す。



「――『魔神斬り』」



 仕上げは究極の大振り。フルスイングを超えるフルスイングをもってして一気に勝負を決めようとした。



「【痛覚解放(ペインコントローラー)】」


()ゥ!? 」



 だが相手は俺と同じレベル200超え。


 やはり簡単な相手じゃない。



「危ない……危ない……危うく持って行かれかけたよ」


「……クソッ! 」



 条件反射的に使用された『敵対したヒトの痛覚を数千倍にするスキル』によってとてつもない繊細さが要求される俺のスイングは大きく歪み、結果バットは空を切ってしまう。


 ……にしてもマジで痛ぇ……! かすり傷がこんなに痛むなんて……重傷を負った時を考えると……マジでゾッとするな……。



「一瞬でも気を抜けば『終わり』だね」


「……お互いにな」



 だけど向こうの戦闘スタイルは大体分かって来た。【虐殺術】による近接戦闘を中心に据えつつ他の【スキル】と【魔法】で足りない遠距離攻撃や隙を補完する形をとっているらしい。


 要は俺とほぼ同じ。


 使っている【スキル】【魔法】が『人間特化』かそうでないかの違いしかない。


 だけどコチラと向こうではレベルに数十の差があり、その差を生んでいるステータスの大小は互いが持つ多種多様な≪称号≫【スキル】の倍率補正を加味しても僅かに俺が上回っている。


 なら対・人間特化のヤバイ【スキル】を使われる前に、このまま基礎スペックの違いで――



「速くて、重くて、上手くて、しぶとくて、固い。笑っちゃうほどに基本に忠実で、笑えないほどに隙が無い。そのうえ『観察眼』もすこぶる良いなんて反則過ぎるよ」


「……なんだ? 」


「君は本当に最強で、最恐で、最高だ。その強さに敵であるボクも思わず憧れてしまうほどに」


「……いったい何を? 」


「だから本当に嫌になる。こんな卑怯な手(・・・・)を使うことでしか君には勝てない自分のことが――」


「!? 」






「【虐殺術】――『屍山血河(シザンケツガ)』」







 はるか上空へ浮き上がった男を中心にして発生した『俺が知らない技』は世界を殺意一色に染め上げていく。


 そして男はゆっくりと横たわったマサヒラの傍らに立つ俺を睥睨し、静かに柔らかくほほ笑んだ。



「教えてあげるよ、ファーストブラッド。一番怖い『偽装』は『偽装』されていることに気付かれない『偽装』だってことをね」




 まるでこの戦いの結末が、この瞬間決まったと確信しているかのように。



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