神とは?
一瞬だけ理解できなかった。
考えが及ばなかった。
思考が追い付かなかった。
俺に向かって男が何を言ったのか。
何と言って問いかけたのか。
何を伝えようとしているのか。
「……お前……何を……なんで……」
でもすぐに俺の思考と理解は追い付いて、混乱し、愕然とした。
どうしてだ……?
おかしい……。
ありえない……。
なぜコイツが知ってる……?
誰にも言っていない、誰にも言えない、俺の、俺だけの――――。
「そんなに怯える必要は無いさ。別に君だけじゃないよ。『もう一つの意思』……内なる声に耳を傾けている者は」
「……ッッ!? 」
コイツ……!?
「ホルダーなら誰もがそうさ。危険を顧みずダンジョンに潜り、モンスターを命がけで打倒し、レベルアップに魅せられた人間であるならば。誰一人として例外は無い。アレクシスも。ブルーノも。ディビットも。リュミエール姉妹も。リチャードも。女王も。魔女も。そして他ならぬボク自身もね」
いったい何を知っている!?
「分かりやすいね。ボクが『何かを知ってる』んじゃないかと疑っている顔だ。期待している表情だ。残念ながら城本剣太郎君、ボクと君ではとりたてて知識に差は無いと思うよ。『ダンジョンの真実』も、『なぜモンスターが人間を襲うか』も、知らないただのしがないホルダーの一人さ。でも――――」
つい先ほどまで命がけの戦いをしていたことなんて忘れてしまったように、女と見まがうような顔をした男は、ひたすら困惑する俺のことなんてお構いなしのこれまでの寡黙さを投げ捨てた少しの興奮を滲ませた饒舌さで……語り始める。
「なぜ『ホルダーが生まれたか』についてだけは君よりも詳しいと思うよ。多分ね」
ホルダーについての話を。
「君は覚えているかい? この一文を。この宗教的な一節を――『神が与えしレベルアップの奇跡を授かりし者よ。魔界に、迷宮に、人界にはびこる魔を打ち滅ぼす力の一つとなれ』」
「……」
「これは保持者が初めてモンスターを討伐し、初めてステータスを開く時に誰もが見ることになる文言――これを見て城本剣太郎君、君は何か引っかかりはしなかったかい? 」
「……」
「ダンジョンには人間を憎み、襲いかかってくるモンスターがいる。戦いに飢えた鬼がいる。ずる賢い悪魔がいる。強大なドラゴンがいる。モンスターの極致である【魔王】と呼ばれる存在だっている。最初に見た一文に書かれた通りこの世界には確かに倒すべき『魔』が溢れかえっている。だけどね――『神』の存在が示唆されたのはここだけ。いるとだけ書かれていて、それっきりだ。もちろんボクらの前に姿を現すことも無い……」
「……」
「ボクは考えたんだ。ここで言う『神』は本当にボクらが想像する神なのかと。あちらの世界の神なのか。こちらの世界の神なのか。別の何かを便宜上、神という名前に言い換えただけなんじゃないかと」
「……」
「それじゃあボクらに『奇跡』を与えてくれた『神』って何なんだろう? ダンジョン? 初めて倒したモンスター? 古代神性文字? それともボクら自身? 」
「……」
「かなり長く調べたよ。ボクなりに。ボクと同じことを考えている協力者や、これまでに創って来た色々な伝手を頼りつつね。自分の身に起こった大きすぎる変化について、何も知らないままなのは気持ちが悪いから……そしてボクはたどり着いた。『神』とは何かについてという問いに対しての一つの『答え』に」
「……『答え』」
「城本剣太郎君。君も一度は耳にしたことがあるだろう? 【魔王】の対となる存在として描かれた世界を救う英雄――そう――――」
――――『【勇者】サマさ』




