ただ『彼』のために
世界第四位――【王の影】アレックス・クロウラーの人生は常に『彼』とともにある。
『彼』のために生き、『彼』を思考の中心に据えて、『彼』のために働き、『彼』の前に立つ障害を払い、逆に『彼』の邪魔をしてしまった時は自らを罰し、『彼』のために力をつけ……二人がホルダーになる遥か以前から、尽くし続けてきたアレックスは自身のそのような生き方に満足していた。自分の選んだ選択を誇りに思っていた。
なぜならアレックスは『彼』に深く、大きく感謝していたから。
人生に絶望し、堕落し、自暴自棄になっていたアレックスを救ってくれたのは子供に無関心な父親でも、遊び呆けてほとんど家に帰ってこない母親でも、憎しみしか向けてこない兄弟でも、上辺だけの関係の友人でもなく……他ならぬ『彼』だったのだから。
ゆえにアレックスは耐えられた。
『寄生虫』と周囲から蔑まれても、悪し様に『犬』と罵られても、『汚点』と称されたとしても、上級ダンジョンに1人取り残されても、半殺しに近い訓練を施されても、ストレスで一睡もできなくなっても辛くもなんともなかった。
どんなに倫理に反するような"お願い"を『彼』からされようと、アレックスは『君のためになるなら』と言い喜んで実行した。
たとえほんの少しの情はあった幼馴染でも、『彼』が命ずれば一切の躊躇なく手にかけた。相手が血の分けた強大であろうとも関係が無かった。
アレックスにとって世界とは、ただひたすらに『彼』とそれ以外だった。
しかしアレックスはただ盲目なだけではなかった。
『彼』が自分に向ける数々の善意と友愛の裏に『何か』別の目的があることをアレックスは、直接言われずとも気づいて居たのだ。けれど自分がまんまと騙されて利用されているのだけなのだとしても……それでもアレックスは『構わない』と思っていた。
『彼』だけがアレックスの生きがいであり、生きる意味だったから。
だからアレックスは何の疑問も抱かなかった。
『彼』がアレックスに、ファーストブラッドが打倒した他のトップランカーたちの身体を誰にもバレないように集めるように指示した時も。
『彼』のために鍛え上げてきたスキルレベル800にも届く【暗殺】スキルで任務を滞りなく遂行した。
だからアレックスは止めなかった。
『彼』が集めさせたまだ息のあるトップランカーにトドメを刺そうとしていることを知っても。
思い惑うことなく、死にかけた6体の身体を『彼』の前に差し出した。
そしてアレックスは最期まで恐れることはなかった。
いつからか他人には見せぬ狂気に侵されていた『彼』のことを。
経験値のために自らの命を投げ出し、その身を賭して奉じてきた『彼』から首から上を刎ねられた瞬間でさえも。
それが【王の影】と呼ばれた一人のホルダーの人生、20年の時を生きたアレックスクロウラーの壮絶な最期だった。




