おかしい
さあ、遂にここまでやって来た。
短いようで長い道のりだったが残すところあと二人。
順風満帆と言えるかどうかは分からないけれど、何とか思い描いた通りにやってこれた。その上、完全に予定外の所在がずっと分からなかったマサヒラたちの確保することさえも成功した。起きて来る兆しは一切無いけれど、今すぐ対処が必要な【状態異常】もかけられていないから一先ず安心だ。
本当は東京からこの二人をどうにか逃がしてあげたいところなんだけど……。
「……まあ許してくれなそうだよな。アンタ等は」
独り言をつぶやきながら見上げた空の上には二人の男がいる。
俺と同じか、少し上のように見える外国人の二人組は身体のどこにも力みの入ってない自然体で、悠々とこちらを見下ろしていた。
一見すると隙だらけのように見えるけど、ソレが罠であることは流石に分かる。頭上の二人からは[魔力]の一片も、一ミリの殺意も感じ取れないけれど、こちらが油断した瞬間一気に襲い掛かって来る気配だけはビンビン感じ取れる。
さてさて、ここからどうしようか?
残存魔力はこれまでに節約したお陰で100万後半は確保できている。体力の方も温存に温存を重ねたお陰でまだまだ動けそうだ。
けれど意識が戻ってないマサヒラたちが傍にいる以上、こちらから下手に動くことは出来ない。かといって防戦一方な状態と言うのも好ましくない。
「…………」
「「…………」」
お互い先への思考を巡らせているせいか。そこから数分間、無言のにらみ合いが続いた。こうしている間も周囲の残骸はガラガラと音を立てて崩れ、焼け残った炎が徐々に徐々に燃え広がっていくが今は良い。
現状、最も必要なのはこちらを値踏みするように見つめる二人の情報と、その目的。こうして戦いを続けている内に俺はこの襲撃者たちの意図が良く分からなくなってしまったんだ。
もしも当初の予想通り、狙いが俺にあるのなら何故コイツ等は一気に襲い掛かってこなかったのか? 連携が不可能なほどに仲が悪いのかもしれないけど、ご丁寧に一人ずつ戦いを挑んでくるなんて愚の骨頂過ぎる。余りにもおかしい。
そしておかしな部分と言ったらもう一つある。やたら敵が俺のことを侮って来てくれたこと。
見下してくれたからこそ、舐めてくれたからこそ、俺はこれまでの戦いを優位に進めることが出来たんだ。
だけどさすがにおかしくはないか?
俺は一切の【偽装】を施してなかったんだぞ?
襲い掛かって来たレベル100を超えて来るホルダー達全員が、俺の力を都合よく過小評価してくれるなんてことが本当にあるんだろうか?
何故か、この時の俺はこう思っていた。
何かこの戦いの裏には別の目的があるんじゃないか、と。
そして、それは今残っている二人の内の1人――――澄んだ空と同じ色の瞳を持つ男が関係しているんじゃないか、と
――俺にはそう思えて仕方が無かった。
「……ッッ!! 」
直後、想像を絶する悪寒が背中を奔る。後方で横たわるマサヒラたちの身体を見て、あることに気付いてしまったからだ。
なぜ見落としていたのか、なぜ見逃していたのか自分でも全くわからない、けれど間違いない。絶対にあるはずなのに、確実に、着実に、俺の認識の外へ消え去っている。
いつだ!?
いつの間に!?
そんな隙があったか!?
俺はどこから――
「【虐殺術】――」
そして空の上で俺の動揺を見た男は悠然と口を開く。
強大な[魔力]に相応しい【魔王】と同じ気配を漂わせて。




