たった一人の援軍
ダメだった。
失敗してしまった。
最優先と考えていた第一目標しか達成することができなかった。
マサヒラと蕪木を取り戻すことまでしか出来なかった。
けれど目論見は惜しくはあった。
本当に本当に今の仕掛けは惜しいと言う他なかった。
成功と失敗の間にあったのは間違いなく紙一重にも満たない差。
0コンマゼロゼロゼロゼロゼロゼロ何秒くらいか遅かったせいで。
わずかに竜王の炎の操作が甘かったせいで。
普段なら問題にもならないほど少し消耗してしまっていたせいで。
上空からの援軍が間に合ってしまった。
「……【火炎魔術】」
あと少し。
たったの一歩。
ほんの数ミリメートル。
残存していた[魔力]。
この場の空気がどれほど乾燥していたのか。
最初に俺が居た地点と女が位置していた場所。
そのどれかが良い方に少しでも違っていたのなら、俺がその身に封じている炎がドロドロに溶かした女の身体から心臓を抉り出して、焼き尽くすことが出来―――――。
「ッ!? 」
……あれ?
俺……今……何を…………考えてた……?
今……何を……やろうと……?
「【狂飆魔術】――『颯』」
「くっ! 」
殺意だけに支配された思考からハッと我に返ることが出来た俺。
「『颯』『颯』『颯』『颯』『颯』『颯』『颯』『颯』『颯』『颯』『颯』『颯』『颯』『颯』『颯』『颯』『颯』『颯』」
「『パワーウォール』! 」
だが、そこから息一つすらつく暇もなく、容赦ない風の追撃が四方八方から襲い掛かって来た。混乱状態の俺に唯一出来たことと言えば前方から来る『風の刃』だけを『念力の壁』で弾き飛ばし、逃走の活路を見出す事だけ。……しかし結果的にこれで良かったんだと思う。
「うおおおおおおおおおおおおおッッ! 」
期せずして俺は、援軍として地上に降り立った術者のすぐ近くへ『間合いを一気に詰める』ことが出来たのだから。
これで彼我の距離は10m未満。
もちろん『技』を使ってる暇は一切無い。
だけど『龍王の炎』を纏っている今の俺には、わざわざ【スキル】に則った定型の動きに頼る必要なんて、この瞬間には全くもって無い。
「『火炎車』! 」
咄嗟の判断で繰り出したのは、回転を利用した棒術『大車輪』と『龍王の蒼い炎』の合わせ技である【火炎車】。これで援軍を戦闘不能の女王もろとも消し飛ばしてやる――そう思っていた。
「【灰塵魔術】」
だが俺がバットに込めた蒼い炎は――
「何だと!? 」
――俺の反対側から放たれたもう一つの『蒼い炎』とぶつかって相殺されてしまう。爺ちゃんからもらった金属バットを覆っていた蒼い力は加速度的にその勢いを減らしていったのだ。
目の前で起きた現象なのだから俺には分かる。今の『相殺』はただ火力と火力でぶつかり合ったわけではなく……俺の炎の勢いを受け流し、一体化し、取り込んでいったものであることを。
もしかして……いいや、まさか……俺の『火炎吸収』と同じ効果を持っているのか……!?。
「【鑑定】! 」
そう、思い至った直後、俺は始めて『上空から助けに来た、たった一人の援軍』のことをハッキリと認識した。
地面に引きずるほどに長い黒髪。雪よりも白い肌。高くも低くもない身長を包みこむ漆黒の衣装。
そして≪三番目の討伐者≫の称号を持つ『彼女』のことを。




