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真の奥の手

 それは誰の目から見ても勝敗を決定づける致命的な一撃だった。



「いぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



 つんざくような絶叫と共に空に吹き上がったのは大量の血液。オリヴィア・ダイアナ・ステュアートの右肩が割り砕かれることで生じた『真っ赤な噴水』は割り砕かれた地面にボタボタと垂れ落ちていった。


 

「はぁー……っ! はぁー……ッ! はぁー……」 



 もはや『現代に生きる貴族の血族』が持つべき威厳はどこにも無い。荒々しく息を吐き出しながら、突き刺すような痛みに必死に耐える表情はまるで野生の獣のよう。


 

「まだやるつもりか……? 」



 対する少年はと言うとあれだけ動き回っていたのに息一つ漏らさず、汗一つ流さない余裕っぷりで直前まで戦っていた敵に声をかける。その問いかけは実質的な降伏勧告でもあった。



「なんで……? どうして……? なんで……? わからない……なんでなのよ……? 私の『(サーヴァント)』がこんなに――」 



 だが抜け殻になってしまった女王に誰かからの言葉は届かない。肩を抑えて蹲り、自分の敗北が受け入れられない様子でただただ虚ろ気に自問自答を繰り返す。



「――不思議に思っているのか? お前の『影』……2000万(・・・・・・)もの[魔力]が込められた『最強の手札』が俺に簡単に攻略されたのが? 」


「……ッ!? 」



 そして、そんな様子を見た少年は一つ息を吐くとバットを肩に担ぎ、滔滔と説明をし始める。

『なぜオリヴィア(お前)が俺を倒せなかったのか』を。



「まさしく図星って顔だな……たしかに全ステータスが20倍になった後のアンタの[魔力]は俺にとって一番の脅威だった。身体から漏れた残滓が放たれるだけで重力やら、物理法則やらをそのまま捻じ曲げてしまいそうな気配と迫力があった」


「……」


「……だけど惜しかったな。【女王の従者クイーンズ・サーヴァント】は【魔法】じゃない。[魔力]によって効力を使用できるただの【スキル】だ。そのデカすぎる[魔力]を直接威力としてぶち込める【魔法】が一つでもあれば結果は変わっていたかもしれなかったのに」


「…………」


「戦い方にも妙に変な拘り(・・)が見られたな。出来るだけ自分の手で倒そうと躍起になっていただろ? これは『称号』……≪鮮血の淑女(ブラッディ―マリー)≫の効果『返り血(・・・)を直接浴びた状態だと得られる経験値1.1倍』を欲しがり過ぎた結果だな。もしもお前が『影』と連携して攻めてきたらこんなに簡単に決着はつかなかったはずだ」

 

「………………」


「総じてお前は俺を舐めて――――いや【女王の世界クイーンズ・フィールド】を発動した後の自分自身に驕り過ぎた(・・・・・)。だから『影』を精密に操作しなかった。だから『切り札』を使った後の俺に隙を晒してしまった。負けた理由はそんなもんだ」


「……………………ねえ? 」


「なんだよ? 」


「もしワタシが油断せず戦ったのなら勝ってたの? 」


「さあな。そいつはやってみないとわかんねーだろ」



 少年が油断の一切ない視線をかしずく後頭部に注ぐ中、沈黙を保ち続けた女王は返って来た答えに対して静かな嗤い声(・・・)をあげた。



「ええ……そうよね……その通りよね……やってみなければ分からないわよね……」


「あ”? 」


「でもボーヤは本当にこのワタシより特別なのかもしれないわ。正攻法で勝てないかもしれないなら……こんな『()』はどうかしら? 」



 そして女王は肩を抑えたままゆっくりと起き上がり、指を一度打ち鳴らす。すると彼女の背後から『2体の新たな影』が音もなく現れる。



「やってみないと分からないとは言ったけどな……アンタが重傷を負っている今は(・・)何度やっても結果は同じだと思うぜ。こっちは強力な手下を無視して、傷だらけで動きが鈍いアンタ自身を直接叩けばいいんだからな」


「確かに……そうよね。でもこれはただの影(・・・・)じゃないわ」


「……え? 」


「アナタが絶対に無視できない『特別』な影よ」



 そう、女王が微笑を漏らした直後、影の頭部に当たる部分が消え去り、その中身(・・)が露わになった。


 カメラにも……上空で様子を伺うトップランカーにも……――少年にも。






「……マサヒラ」



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