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第2階層の騎士

 次へと繋がる『中央の大穴』はいつのまにか出現した。恐らくは60体を狩り終わり、ノルマを達成した時点で開いていたんだろう。グールを狩り尽くすことに夢中だった俺は全く気付かなかった。


 しかしおかげでステータスは十分に上がった。傷はもう治った。休息もこれ以上はいい。疲労感は残っている。だけどポイントをつぎ込んだ持久力がまだ俺を動かしてくれる。



「さあ、次だ……」



 飛び込む。穴の中へ。目の前に表示される『第一階層突破』の文字。身体を包む浮遊感。2階層もまた地面が遠い。



「【念動魔術】……」



 だから俺はスキルを使用して落ちる勢いを殺そうとする……が。



「嘘だろ……!? こんな時に! 」



 使えない。魔法が。発動しない。唐突に。身体に異常はないはずなのに。[魔力]は十分に残っているはずなのに! 


 当然、勢いは殺せない。とっさに受け身を取ったが判断があまりにも直前過ぎた。



「……がっ! ……ぐうっ! ……うぅぅぅぅぅぅ」



 ようやく落下の勢いが止まったのは何度も地面を跳ねてから。肋骨を守るように蹲った俺の体は小刻みに震えていた。


 やっべえ。立ち上がれねえ。もしかして折れてるのか? 


 自分の右足を見やると、足首が真っ黒にはれ上がり、ねじれている。全く力が入らない。どうやら完全に折れているようだった。


 上級ダンジョンはそんな窮地にも容赦が無かった。



「アア……アア…………アアアア! 」



 どこからか響く人間に近いうめき声。声の発生源はすぐにわかった。第2階層の円形の壁。そこには巨大な騎士の像が何体も並び荘厳な神殿のような雰囲気をつくっている。そのうちの一体が声を上げてこちらに向かってゆっくり動き始めたのだ。



「……クッソ! ここでまた"格上"かよ! 」



『Lv.80:バーサーカー・ナイト:オリハルコン製の全身鎧に志半ばで戦死した騎士たちの怨念が宿った姿。』



 8000を超える驚異の[力]と[耐久力]。だが反面、[敏捷]は100もない。


 絶望してから間髪を入れずに確信する。いける(・・・)。これなら倒せる。この鈍さなら殴って逃げれば一方的に攻撃し続けられる。


 脚は折れている。敵は格上。そんな状況の中でした慢心。上級ダンジョンはそんな俺をあざ笑うかのように絶望に叩き落した。



「……え? 」



 見間違いはあり得ない。つい1秒前まで彼我の距離は100メートルは離れていた。そのはずなのに――――騎士の像は今、眼の前で(・・・・)剣を振り被っていた。



「……!! 『パワーウォール』! 」



 ますは判断する時間が欲しい。選択したのは魔術による静止。これで時間を稼ぐ。だが、上級迷宮はまるで生きているかのように最高のタイミングでとびきりの悪意を俺につきつけた。



「だ、『第2階層での魔法使用禁止』ぃ……!? 」 



 騎士は呆然とする俺に構うことなくその力を開放した。溜めていたねじれを戻し、俺に向かって真っ直ぐに振り下ろす。



「……ッッッ!! 『集中治療』! 『超反応』!」



 あれを食らったらだめだ。確実に死ぬ。その予感を元に全力で回避する。


『集中治療:【自動回復】のレベルが5になったときに使用可能。魔力を消費して身体の一部分を集中的に瞬時に回復する。ただし一度すると10分の間、【自動回復】の効果が切れる。』


 今日手に入れた新技をおしげもなく投入。無理やり足を動かせるようにして、即座に瞬間移動。


 予感は正しかった。


 空気がつんざく。発生するかまいたち。割り砕かれる複雑な意匠の入った床面。瓦礫と粉塵が一帯に一瞬で広がる。そして破壊の衝撃は騎士の像の背後に回った俺のことも簡単に吹き飛ばした。


 これが8000の力か……? いやさすがに強すぎる。ここで気づけた。


 このデカブツ【スキル】を使ってやがる……! 


 敏捷値からは考えられない速度。圧倒的すぎる力。間違いない。騎士はこの2つの場面でスキルを使用している。それも俺が持っているのとよく似た。



「モンスターがスキル使ってくるなんてアリかよ……」



 真の絶望に心を支配されそうになった時、さらなる絶望が俺を襲う。



「アア……アア……アア! 」


「嗚呼……嗚呼……嗚呼嗚呼!! 」


「ああ……ああ、あああああ……あああああああ!! 」



 俺は思い出す。この第2階層を突破する条件を。『20体以上のバーサーカー・ナイトの討伐。』つまり出てくるということ。あの反則じみた力の騎士が複数体。


 虚ろな声をあげて段々と壁から滑り出てくる中身のない鎧達。もう知っている。こいつらがいつでも間合いを0に出来ることを。



 またもや騎士の1体が目の前に一瞬で現れた。まるでこっちを舐め腐っているように。


 今度は俺も立ち上がれている。逃げる前にどうにか反撃してやる。そこで気づいた。距離を詰めるのは早くても振るうのは[敏捷]通り遅いことを。


 付け入る弱点はここだと定めバットを振りかぶった俺。騎士もバットを振りかぶる。そこで――――俺は『疾走』スキルで一気に距離をとった(・・・・・・)何もせずに(・・・・・)


 今度は時間の余裕があった。衝撃は俺に届かない。



「あ、危ねぇ……何を俺は勘違いしてるんだ……あれが隙だ、なんて……」



 そう、あのタイミングなら確実に俺の金属バットの打撃で騎士に攻撃が出来た。だが、それだけ。バーサーカーナイトの5000を超える耐久力の前にはそれほどの有効打にはなりえない。


 その後に待っているのは騎士のスキルと8000の[力]が合わさったあの攻撃。もし当てることにこだわっていたら完全に食らっていた。



「……あぁ……あぁ……そういう、ことか…… 」



 そこで俺は全てを理解した。この第二階層の全貌を。


 攻撃は不可能。バーサーカー・ナイトのあの一撃を食らうことになるから。魔術も使うことはできないから。


 回避は可能。だけど騎士の数は数十体以上いる。それがいきなり目の前に現れる。俺はそれを相手に避け続ける必要がある。体力は有限なのに。


 ポイントはもちろん稼げない。攻撃が出来ないから倒すことも出来ない。つまりポイントによる力押しも体力増強も出来ない。



「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」



 呼吸が荒くなる。血流が速くなると右足がズキズキと痛み始めた。当たり前だ。完全に治りきらないうちにスキルで無理やり動かした。その反動が今来たのだ。


 周囲を見回す。騎士の数は今や100を超えそうになっている。


 虚ろな声を上げてノロノロと歩く騎士達。目はもともとないモンスター。だけど俺は感じ取っていた。この場にいる全てのバーサーカー・ナイトがこちらに照準を定めたということを。


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