本命
男は嗤う。
「アハハハハハハハハハハ!! 元・一位クンめっちゃボコボコにされてるじゃん! ダッッサ! ダッセェエー! あれだけ大口叩いてたのにさぁあー! 」
余りにも予想通りの戦いの結末に腹を抱える。
「このマッチアップはちょっと可哀そう過ぎやしない? 彼……リックくんは今回の作戦で一位に返り咲こうとしてたんだよ? なのにさー……こんな無様なとこ数千万人に見られちゃったらさー……フフフ……ブプッ……ハハハハハハハハハハ! 」
ガマンしようにも耐えきれないといった様子で吹き出す。
「業界では【万能者】なんて呼ばれて持ち上げられてるみたいだけどさー……正直な事言うとリック君はただただ器用貧乏なんだよねー。完全上位互換のホンモノの万能と比べちゃうとさー……やっぱり大事だね。『身の程を知る』ってやつは」
そして、一しきり笑い続けた男は息を少し吐きだすと、しみじみと持論を呟いた。
『お楽しみのところ失礼します、参謀殿。配信の方はどうです? 特に問題は? 』
カメラマンが男に声をかけたのは、そんな見計らったようなタイミングだった。
「こっちでモニターしている限りだと目立った支障は見られないですねー。視聴者数もとんでもないことになっているんですが、今のところサイトのサーバー負荷も確認できませんし、しばらくこのままで良いでしょう。――流石はダンジョンメタル製。100億人の同時使用にも耐えられると謳うだけあるようです」
『それを聞けて良かった。こちらも苦心して撮影してるかいがあります』
「やはり『生』は違いますか? 」
『ええ、それはもう! レンズ越しとは違って熱も音も振動も直接伝わってきますからね! 命の危険と隣り合わせな迫力満点の一大スペクタクルですよ! 』
「そんな貴方から見てどうです? やはり『彼』は――――」
『――――強いです。間違いなく。ただでさえ圧倒的なのに、現在の彼の戦いぶりからはまだ底を見せてない様にさえ感じます』
「やはりそうですか? 」
『随分と嬉しそうですね? 伝説の彼の抹消を第一目標に設定していたアナタ達にとっては悪い知らせなので――――? 』
そこで【カメラマン】はハッとしたように言葉を切る。自分の余りにも踏み込んだ物言いが相手の機嫌を損ねてしまったのではと憂いたから。
しかし実際に返って来た反応は彼の想像とは全く別のモノだった。
「フフフフ。カメラマンさん。特に気にする必要はありません。ここまでは全て我々の『想定通り』ですからね」
『え? 』
男は嗤った。
今度は愉悦感を滲ませた含み笑いで。
「頭でっかちな第十位が使い物にならないのも、第九位が先走って瞬殺されるのも、第八位が逃げ出すのも、同率6位の姉妹が事態を静観するのも、第五位が手も足も出ないのも……――全て我々の描いた筋書き通り。彼ら6名の上位ランカーの役割は日本と言う国の国力を削れた時点で終わっているのです」
『そうなの……ですか? 』
「ハイ。だからアナタが我々の心配をする必要は無いですよ。彼が最強のホルダーであることはこちらも分かり切っています。これまでに入手したデータを見てもその事実は明らか……つまり作戦の是非はここからの4人にかかっているのです」
『ここからの4人……』
「彼らにだけは可能性があります。『伝説』を打ち倒す可能性がね」




