俺のやるべきこと
「ねーねー。何この『ヒナンカンコク』って奴? 防災訓練でもすんの? 」
「避難勧告は避難勧告でしょ。対象範囲は……東京全域? 」
「東京全域って渋谷もダメ? 」
「多分……そういうことじゃね? 」
「港区方面はもう全面封鎖されてて避難もとっくに終わってるんだってー。ウチらも動かないとヤバそうな感じ? 」
「はぁ? これから遊ぶ予定だったんですけど。誰か弁償してくれんの? 」
「ごめーん。エリカちゃーん。今日そっち行けなさそーう。いやさー。まーた迷宮庁がゴチャゴチャ言って来てんのよー」
「とりあえず誰か理由だけでも教えてくださーい? 」
「しらねーよ。気になるんなら自分で調べろよ」
「困りましたねー。部長。これからの商談どうします? 」
「どうしろって言ったってそんなお前……」
「もしかして学校午前休!? よっしゃー! 」
「部活消えんのマジで熱ぃー! 」
「東京がダメなら舞浜まで行っちゃうの真面目にアリじゃね? 」
「こんなこと前にあったっけー? 」
「確か第三次侵攻の時にも緊急で発令されたとか、されてないとか……」
「えー、知らなーい。あの時アタシあの時ホットスポットの近く住んでなかったしー」
「そーそー。それにここ東京の新宿だよ? 魔境でもなんでも無いじゃん」
「モンスターの一体や二体ぐらいで都心じゃだーれも騒が無いしねー」
「……じゃあ、何で避難勧告でてんの? 」
「……さぁー? 」
分かってる。
一番優先するべきなのは更なる時間稼ぎだ。
コイツ等が『一対一の戦い』に拘っている間に出来るだけここでの戦いを長引かせないといけない。
(舞さん……! 現在の進捗は!? )
(ゴメン! もう少し! あと少しだけお願い! )
(……分かった! )
「ファースト、ブラットォォォ……! 」
出来るだけ派手に。出来うるだけに大胆に。全力を出し尽くしているフリをして、全力でこの勝負を限界まで引っ張る。
「……【念動魔術】」
それこそが現在の俺の役割だ。
「そういえばさーあの『配信』見た? ヤバくない? 」
「配信って? なんのこと? 」
「うっそ!? 知らないの!? 有名人いっぱい出てるよ! 」
「私海外セレブとか興味ないから~」
「避難所ってここから結構離れてんだな―」
「暇だからアレの様子でも見てみるか」
「あー話題になってるやつね。まだやってる? 」
「やってる。やってる。ていうか……これ作り物じゃなくてガチなの? 」
「え、普通にガチで現実の生放送なんでしょ? 」
「お前はホルダーのバトルクリップ見ないから分かんないかもだけどさー。コイツ等のやってることマジでヤバいぞ……」
「本当にわかって言ってんの? そういうお前だってホルダーでも何でもないくせにー」
「うるせ! うるせっ! 」
「同接1000万とか始めて見たんですけど」
「そりゃあそんくらい行くでしょ。ホルダーなら見ちゃうよコレ」
「最近やっとC級になったケンジくんから見てこの人たちってどんなレベルなの? 」
「…………冗談抜きで激ヤバ」
「なあ……配信に映ってるここってさ……」
「ケントもそう思った? だよな? なんか……ちょっと日本っぽいよな? 」
舞さんの報告によると急遽追加で行うことになった避難の進捗はあまり芳しく無いようだ。まあ仕方ないだろう。避難の対象範囲がビル街の一部から東京全域にまで広がってしまったんだから。
まあ、そもそも追加の避難が必要だと舞さんに言ったのは俺なんだけど……。
「おちょくってんのかてめェ! くらえェッ! くそォ! あったらねえ! 」
今戦ってるコイツは平気だ。
目が合っただけで気絶したアイツは対策を考える必要が一切無いし、よく似た容姿の二人組の女子はそもそも俺と戦う気が無さそうに見える。
問題になってくるのは残りの四人。特別な対処が、俺に追加の避難が必要性を感じさせたのは、先ほどから不気味な沈黙を保ち続け、俺の『脅し』が一切通用しない四名の男女たち。どれだけ力の差を見せつけても、どれだけこちらの恐ろしさを誇示しても、虎視眈々と俺の命を狙おうとしてやがるコイツ等は最悪なことに全員が全員『力』を持っていた――――――――"一千万都市東京を一瞬で壊滅させ得る手段"を。
「俺にも見せて! うぉーすっげぇー! ここにいる全員レベル100とっくの昔に超えてんだろーなー」
「そんなの当たり前だろー。殆どトップランカーだぞ映ってる連中。まあ片方は大分押されてるみたいだけど」
「どこの海で戦ってんだろーなー。どうせなら直接見に行きたいよなー」
「おいおい配信に夢中なのはいいけどさー。そろそろ避難しないとヤバくねーか? 」
「いいじゃん、いいじゃん。平気平気。だってここ、東京の端っこのド田舎だぜ? 」
「でもさー……」
「そんなビビんなよ。どうせ大したことねーよ。この『配信』されてる戦いよりは」
もちろんどれだけ人を遠くに移動させたところで限界はある。
そんなことも分かっている。
ただせめて多く、出来るだけ多く時間を稼ぐ必要がある。出来るだけ長く、この海上で食い止めなければならない。
この4人が気まぐれに放った一撃で『数十万人の命』が消失する可能性があるのだから。




