無知の結末
第十位が思考を巡らせ、その他6名のトップランカーたちが動向を静観し、陰に潜む【カメラマン】の視界情報が全世界に共有されている中、二人の少年による闘いは今まさに始まろうとしている。
気合十分な様子で掌に拳を打ち付けるのは元・世界一位、現・世界五位のトップランカーのリチャードマイルズ。[力][敏捷力][耐久性][持久力][器用][魔力]の基本6項目から【スキル】と【魔法】のスキルレベルに至るまで。ステータスに記載された数値全てをを満遍なく強化したバランス型ホルダーである彼は【万能者】の通称で知られている。
対するもう一人の少年、城本剣太郎に関しては公式記録に当たるモノが何もない。年端もいかないアジア人であること。右手に金属バットを持っていること。嘘か真かレベルが200を超えていること。それら一目見て分かる以外の情報以外は全てが謎。
『リックと向かい合ってる彼……見覚えが無いっていうか、初めて見る顔だな』
『誰だろう? 歳は未成年くらいに見えるけど』
『アジア人は特に幼く見えるって話だからな。意外と成人はしてたりするかもね』
『画質これ以上は上げられないのかな? 結構タイプかもー』
『ね。日本国内では有名だったりするのかなー? 』
『謎の男のことはどーでもいいけどさー、ボクは推しの顔を久しぶりに見れたからとりあえず満足だよ』
『そもそも何なのこれ? なんでトップランカーがほぼ全員集まってるの? 』
『みんなで仲良く食事会って雰囲気でも無いな』
『そもそも場所が海じゃん』
『正確には海じゃなくて空中な? 』
『それにしても過剰戦力だな。コイツ等だけで大国の一つや二つくらいは簡単に消し飛ばせそうだ』
『内輪もめって奴じゃない? それか単純な力比べ? 』
『リック以外のトップランカーでこんくらいの子供居たっけ? 』
『若さで言ったら中国の天才少年がいるじゃん』
『まだ10歳かそこらだろ? ここまで大きくなってはなかったはずだ』
『つまり誰も知らないってこと? 』
『誰でもいいから教えてくれよ。俺たちの前にいる彼が集団幻覚じゃないんだとしたら、いったいどこの誰なんだ? 』
聴衆の殆どはざわついていた。今や世界を股にかけた超有名人であるトップランカーの中に混ざった唯一の異物についての人々の注目は集まり続けていた。ホルダーも、ホルダーでない者も、謎の少年の一挙手一投足を逃すまいと彼の様子を映し出した画面にくぎ付けになった。
一方で、その場に居たトップランカーたちの反応は期待半分・疑念半分といった微妙なもので占められていた。
そもそも彼らは知らなかった。第八位と第九位がどのように撃破されたのか。瞬殺された2人が本当に実力勝負で負けたのか。はたまた何かしらの策にまんまとハマってしまったのか。
なにせ倒された二人の内一人は勝手に突っ走って人知れず敗北し、もう一人は逃走中の背中を狙われたとあっては残された人間には何の情報も残らない。
ブルーノが真っ先に向かって行ったのも。それを見たリチャードが少年に一対一の勝負を挑めたのも。慎重なはずのアレクシスもこの状況を最後は容認することが出来たのも。トップランカーたちの間にどこか漂う余裕と侮りが生まれたのも。要因を突き詰めていけば全て――――彼らが知らなかったという事実に帰結する。
期待はずれと言わざるを得ないほどに歯ごたえの無かった『とある島国の制圧作戦』。その最終局面に現れのだた『なぜか高い懸賞金を名指しでかけられていた未登録ホルダー』のことを。彼が何者であるのかを。トップランカーたちはただただ知らなかった。
「……【棍棒術】」
「なんだァ? やっぱりその金属バットがお前の武器なのかァ? 『伝説のアイツ』に憧れでももってたりすんのォ? 」
しかし歴史と過去は証明している。
「『乱打』」
「おォ? 結構、は、――や――――――――……いィっっ……ぎィッッ!! 」
「「「!? 」」」
『無知な状態を放置した者』には常に悲惨な最期が待っているという事を。




