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最高戦力

 すぐにわかった。


 一瞬で察しがついた。


 琴葉の言う『あの人』は、俺が今視界の中心に捉えているソイツ(・・・)だってことに。



「……」


「……」



 ソイツは、東京拠点から出てすぐの何もない宙空を踏みしめて自然体で突っ立っていた。


 ソイツは色素の薄い肌に、空色の瞳という外国人の容姿をしていた。


 またソイツは思わず息を飲むほどに、男か女かの判断がつかないほどに綺麗だった。


 さらにソイツは、鈍色の鎧のように見える機器を身につけていた。


 そして黙ってにらみつける俺に対して、ソイツは終始無言だった。



「俺の名前は城本剣太郎。アンタは誰だ? 」



 まずはダメ元で質問をする。例の如くソイツは俺の鑑定を超えるスキルレベルの偽装を使ってステータスを隠していたから。



「……」



 だが返ってくるのは予想違わずの『無』。


 こちらを値踏みしているわけでも無く、観察しているわけでもない、そのスカイブルーの瞳には何一つ感情が込められていないように見えた。


 本当に埒が明かない。


 本当なら今すぐでも【魔王】と同じ気配を漂わせるソイツをビル街の上空から排除したかった


 だけどそれは出来ない。


 この瞬間に、俺が周りの被害を考えず戦い始めることだけは不可能だ。


 なぜなら気づいてしまったから。


 【索敵】と【鑑定】の合成技で。


 俺とソイツの足下にある街で。


 何千、何万という単位の人が……気絶したまま放置されていることを。



「この状況を創り出したのはアンタだな? 何が目的だ? 」


「……」



 やはりと言うべきか。


 先見通りと言うべきか。


 ソイツは何も答えない。


 一切の感情を示そうとしない表情の奥底で、空間そのものを歪ませるような殺気をひしひしと発し続けているというのに。


 ソイツが使った虐殺術の余波で人々の意識を消し飛ばしたことは明らかなのに。


 畜生……完全に膠着状態だ。


 相手の素性も、力量も分からなければ……見た目から判断できる情報以外は何も得られていない。


 このままだと……俺はコイツのことをただただこうやって睨みつけることしか出来ない。


 そう。


 もし仮にずっと……このまま(・・・・)だったとしたら。



「……来たか」



 思わず心中で呟いたつもりの声を口から漏らす。ずっと待ち続けていた合図が俺の耳に飛び込んだのをキッカケにして。


 これで状況は一変する。


 どこからともなく現れたホルダーが眼下の街から一人ずつ、少しずつ被害者たちを運び出す。


 コレを俺はずっと待っていた。このために意味もない問答を続けて、時間を稼いでいた。


 この作業が終われば俺に嵌っていた枷はすべて取り除かれる。


 つまり、俺は今から目と鼻の先にいるソイツを、周りのことは考えずに好きなだけ右手に持ったバットでぶちのめすことができるようになるということ。



「こんな大それたことをしでかした理由も、名前も、全部今から聞き出してやる」



 そのように脅し文句を吐き捨てた……まさにその時。強烈な違和感が俺の体を貫いた。



 ……あれ?


 そういえばコイツ……なんですぐ俺に襲いかかって来なかったんだ?


 なんで街にいた人らを気絶させたままで留めてたんだ?


 だってコイツに下で失神している人らを守る理由は無いはずだ。むしろ殺さずに、気を失わせることで、俺に対する人質のように機能させようとしていたはずだ。


 だったら人質が救出され開放される前の、思う存分に戦えない俺に攻撃を加えないと意味がない。


 そんな簡単なこと誰でもわかっているはずなのに。



『ケンタロウさんが日本中を回ることになった外国人のホルダーの暴動も全部オトリで……ブラフ』



 先ほど聞いた琴葉の言葉を信じるとするなら……本当に、何か別の理由があったのか? 他の目的があったのか?


 そして俺は自分自身が心の中でした言動を振り返る。



『コレを俺はずっと待っていた(・・・・・)。このために意味もない問答を続けて――』



 まさか……今までのって全部……



『間違いないです。【あの人】が何かを始めるつもりです』



 ……時間稼ぎ(・・・・)





「―――――――――――――――――――――」





 直後、俺の推察を全て肯定するように、上空から眩い光と強烈なプレッシャーが同時に放たれる。


 目を細めた先、光の中から現れたのは【あの人】に引けを取らない強者の気配を漂わせた9人の男女(・・・・・)の姿だった。







 誰にも知られていない、どこかの空間で。


 男は1人、とある空の様子が映し出されたモニターの前でくぐもった笑みを浮かべていた。



「ファーストブラッド……たしかに君は変わったよ。君と君が守ろうとするモノを害す敵に対しては『命を奪っても仕方がない』という一種の諦めをもってして冷静に対処出来るようになった。そこまではアリスの報告通りだね……」



 まるで天から見下ろしているかのような上から目線で男は尚も独り言を続ける。


 どこにも届くことの無い意見をベラベラと喋り続ける。



「でもね……守ってばかりじゃダメなんだ。発生した事象に対して、後手後手の対応をするだけじゃぁすぐに限界は来てしまう。敵に対しては攻めなきゃ。動きを事前に叩き潰さなきゃ。でないとあまりにも悠長過ぎる。でないと本当に守りたいモノは守れない。だから僕らに隙を与えてしまったんだ。すぐには集まりきれなかった|連合軍『最高戦力(・・・・)』を全員終結させるための時間(・・)を」



 そして、これまでの全ての状況をコントロールしきった男は過去最高の笑みを浮かべた。



「さて、そろそろ上げようか。正真正銘、真の――『開戦の狼煙』を」


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