表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
319/558

捻じれ

 現在――日本は過去類を見ないほどの危機(・・)に陥っている。


 結果として、剣太郎を含んだ数百人近いホルダーが日本各地を駆け回ることになるほどに。



 だがあくまで動いているのは数百人(・・・)……その事実に気づいて対応をして居るのは日本在住のホルダー全体のほんの一部でしかない。他大多数のホルダーや非ホルダーたちは今も悠々と自分たちの日常を過ごし続けていた。



 なぜこのような認識の齟齬(・・・・・)が起きてしまったのか?



 まず理由の一つとして挙げられるのは『迷宮庁』ひいてはその前身である『迷宮課』の持つ秘密体質にある。


 これまで幾度となく社会の裏側で、国家の崩壊と転覆を防いできた実績のある公安部迷宮課だが、反対に『公表』や『公開』といったオモテ(・・・)での活動のノウハウが殆ど無い。そんな組織であるにも関わらず『迷宮庁』は他団体からの干渉を嫌って、自分たちの身内だけで組閣し、その結果として彼らは物事を対処する際に『まずは隠す』というクセが出来ていたのだ。



 さらにもう一つ考えられる要因は、人々が『危険(・・)に慣れてしまった』ことにある。


 慣れ、適応、適合、他様々に言いようは色々あるが言いたいことは同じ。


 街中で当たり前のように発生するモンスター。


 街なかの火事は今や日常茶飯事。


 高レベルモンスターの討伐によって電車の遅延や交通網の麻痺し、交通事故を超える数で発生するホルダー同士のトラブルや暴力事件は頻発。


 その目をダンジョンの中にまで広げれば、その危険性や事件の数は枚挙にいとまがないほどになってしまった。


 これらの事例を見れば、誰の目にも明らかだ。


 以前は世界で一番平和であると言われていた日本の治安がここまで悪化したのは紛れもなくレベルがこの世界に生まれたせいであることは。


 そしてそんな世界でも日本人が逞しく日常を過ごせているのもまたレベルがあるおかげであることも明確である。

 

 モンスターに対する恐怖を、街で起こる破壊がどれほどの被害を生むのかを、現代人が気にしなくなったのはその過程で起きた弊害の一つ。


 発生する爆発事故をいちいち気にしていたらキリが無い。モンスター一匹に怯えていては外出の一つも出来なくなる。


 まるで集団催眠にかかったかのように日本人は口を揃えてそう言った。


 だからこそ、そんな認識だったからこそ、剣太郎たちのような『情報を知っている者』と『知らない者』とでは捻じれ(・・・)が生じた。


 危機感の有無という、重大で、致命的な『捻じれ』が。


――そして今。



「はーい、こんばんわー! 今日も21時ピッタシから、ダンジョン配信始めたいと思いまーす! 」



――その捻じれの影響で一つの悲劇が起きようとしていた。



「今日みんなと一緒に潜るのは『新緑の迷宮シンリョクノメイキュウ』って最近見つかったダンジョンなんだけどー……中に絶景スポットがいっぱいあるんだってー! たのしみー! 」



――とあるトンネルの前でスマホを片手に話すのは一人の女性ホルダー。画面には文字(コメント)が下から上へと流れている。



『はやくはやく』


『ソロで大丈夫なの? 』


「はいはーい、まーそう焦らない焦らない! あとワタシ一人で大丈夫かって? なんとこのダンジョン……設定レベルが初心者向けなんです! レベル40のワタシならよゆーよゆーぅー……………………――ん? 」



――女性はその時、フードを被った小さな人影を見た。



「おいオマエ……『日本人』か? 」



――女性は小さな人影から話しかけられて困惑した。



「えと……ボク……何歳? こんな時間にこんなとこいると危ないよ? 」



――なぜならその人影は女性の眼には子供のようにしか映らなかったから。



『どうしたん? 』


『なんかあった? 』


『子供……? 』


「…………」


「……えーっとこれって質問待ち……みたいな? 」


「………………」


「……いちおう……はい……日本人、です」






「そうか……なら…………死ね(・・)






――いつもキッカケとなるのは小さな出来事から。例に漏れず、日本中が危機(・・)を知るキッカケとなったのは、このネットの片隅で起きた事件からだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ