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成長への『鍵』

 迷宮から叩き出されて家に帰るまでの道のりを俺はよく覚えてない。唯一記憶しているのは、家を出てからあまりにも早く帰ってきた俺を見てギョッとした母親と妹の顔だけだった。シャワーで汗と汚れを落とした後、ベットに正面から倒れこむ。


 今日は心も身体もつかれた。あんなに楽しみにしていた『迷宮』探索がこんな結果に終わるなんて……。まさかあんな危険性が迷宮に隠されていたなんて……。あんな強者がいるなんて……。


 ぐるぐると答えのでない思考を脳裏で回す。こんなことをしても仕方がないことは自分でも分かっている。今やっていることは全部無駄だ。


 だけどあの恐ろしい『迷宮(ダンジョン)』に行ったこと事態は無駄じゃない。あそこに行ったからこそ得たモノは確かにあった。


 うつぶせから仰向けに寝返る。天井を見上げながら『剣士の迷宮』での記憶を思い返していく。


 人を殺してもポイントが入ること。異世界人は必ずしも友好的じゃないこと。そして何よりも、レベル100超えの実力。あの程度のダンジョンならダンジョンごとぶった切って攻略できてしまうことだ。


 惜しむらくはレベル3桁の人がボスと戦うところを全く見れなかったこと。それだけは本当に残念だった。


 いやモンスターをダンジョンごとぶった切るってなんだよ? やってることがエグすぎる。ていうか斬られた範囲広すぎだろ。いくら刃がデカかろうとあんなの絶対剣の間合いじゃなかったって。


 一通り逆ギレするとモヤモヤがスッキリしてきた。まあ遥か上を見てもしょうがない。今日は最高に運が良かった。それだけで十分だ。しばらくは入れたダンジョンで地道にポイントを稼ごう。


 気持ちは整理できた。今後の方針も決まる。後は行動に移すだけなんだけど……今日はどうしても、もう何もやる気が起きなかった。



「剣太郎~大丈夫? なにか怪我とかしてない? 朝ごはんどうする? 」



 しばらく部屋にこもっていると母さんが扉の前から声をかけてきた。そういえば何の説明も無しに行ってすぐ帰ってきたからな。心配かけてしまったようだ。



「いや身体は何とも無いよ……朝ごはんは今日はちょっといいや」



【自動回復】スキルさまさまだ。俺の身体中の怪我は後も残らず綺麗さっぱり消えていた。



「あぁ~そう? ならいいんだけど……あとアンタ帰省もしてたから掃除しばらくやってないでしょ? 今日は天気いいんだからやっときなさいよ」




 母親の言葉通り、土曜の午前は掃除に充てることにした。やることの無い帰宅部だ。時間はたっぷりある。簡単な部屋掃除ぐらいは自分でやるよ。


 と言っても掃除は時間のかかるタイプとかからないタイプがいる。


 俺は前者。一度しまっていたものを引っ張り出すと昔の記憶に浸ってしまってやたら時間がかかってしまう。


 今日も中学の時の自身の美術の作品の下手さ加減に笑ったり、小学校の卒アルの自分の作文を読んで共感性羞恥に襲われたりなどしてあっという間に貴重な休日の午前は消えていく。


 そんなスローペースでも掃除は着実に進んでいき最後にクローゼットが残る。意を決して開くとホコリが盛大に舞った。せき込みながらも中を確認した。



「もう着なそうな服と……冬服の入ったケースと……なんだコレ? 」



 俺はまたもや面白そうなものを見つけてしまった。クローゼットの奥に置かれた古いダンボール。取り出すと蓋に子供の下手糞な字で『すてるな』と書いてある。



「これって小学校の時の俺の字かなぁ? 何入ってんだろ? 」



 開くとすぐに目に入ってきたのはどれも懐かしさを感じる雑貨やおもちゃの数々。といっても小学生どころか低学年・幼稚園時代の覚えてるかも怪しい古~いモノがほとんどだ。ガチャガチャ音を立てて漁ると子供用のプラスチックの小さいバットが出てきた。


 しばらくそれを眺めていると唐突に思い出す。そうだ。バットに『武装強化液』をもう一度つけてみようとしてたんだった。


 掃除が長引く原因の一つの『他の用事を思い出してやり始める』を思いっきりしてしまっていることに俺は思い至らない。


 そしてバットを手に持った後に気付く。『武装強化液』が見当たらないことを。これまた掃除が長引く原因の一つの『途中で探し物をし始める』をやってしまったが俺には作戦があった。



「【鑑定】! 」



 視界が一気に青ざめていく。もうこのスキルによる視覚の変化にも慣れたものだった。【鑑定】スキルは現実のものを鑑定できない。本来ならこっちでは無用の長物。だけど『迷宮産の代物』を探し出すにはとても便利だった。



「あーあこんなとこにあったよ……」



 作戦は成功した。ベットのすぐわきに探していた小瓶は落ちていた。だけど話はそれで終わりじゃなかった。



「まったく……誰がこんな……ところ……に…………え? 」



 【鑑定】スキルは反応していた。『捨てるな』と書かれたガラクタばかりの古いダンボールの中身に。


 恐る恐る中を覗きこむ。そしてすぐに発見した。


 スキルが反応していたモノの正体を。



「『鍵』……? 」



 それは金属製の、やたら意匠の凝った古い大きな一本のカギだった。持ってみてもそれほど重量があるわけでも仕掛けがあるわけでもない。その流れで【鑑定】の説明を読んだ後にぶっ飛んだ。思わずその『鍵』を取り落とす。


 なんで? なんでこんなやばいブツが俺の子供のころの思い出から出てきやがったんだ!? 


 心臓がバクバクとなっていた。


 呼吸は止まりかけていた。



『魔王の鍵:使用回数制限〔58/60回〕

      Lv100以上の魔王からランダムでドロップ。

      使用すると1日の間いずれかの『上級ダンジョン』へ

      の入口をその場に創り出す。最大使用回数は60回。』


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