まったく謎
「少し早かったけれど……ユナボマーは予定通り捕縛されたようだね」
「準備は『全て完了』という訳だな? 」
「いよいよ始まっちまうのかー……」
「これでも大分待ちくたびれた方だぞ……次はもっと急がせろ」
「まあまあ。そんなに焦らなくたっていいじゃない? これからたっぷりと楽しめばいいんでしょ? 」
「君らの態度はあまり関心出来んぞ。これから始まるのはまごうこと無き戦争だ。気を引き締めておけ」
「おいおいおい! アンタ正気かよ!? こんだけのメンツが揃っていてまともな戦いになるとでも――」
「はいはーい! 止め止め! 私たちが子競り合いしてどうすんのよー」
「……仕方ねーだろ。元はまったくの別陣営なんだからよ」
「……ですが、今求められているのは一つの敵に対して協調すること」
「その通り。まあそういうことだからさ……仲良くしようよ? ね? 」
「俺たち同士で戦わないって言うのは良いんだけどよー……別に競うのは良いよな? 」
「競う? 」
「何をだ? 」
「『ランカーの撃破数』」
「へえー。なかなか面白そうな事考えるじゃない? 」
「雑魚は数えないってことだな!? いいじゃん! やろうぜ! な? 良いだろ? こんくらいは! 」
「やることに変わりがないのなら……何でも良いさ……よし……じゃあ、そろそろ…………――――始めよう」
まさか今日だけでこの下りを二度もすることになるなんて思っても見なかった。
「さあ……知ってること全部しゃべってもらおうか? 」
「……」
案の定、返って来る『無言の反応』に厳しい視線を向けるのは俺と木ノ本と琴葉と……その他たくさんの『管制官』の人たち。全員が全員、今日という一日を目の前で黙りこくる男のせいで棒に振ることになったメンバーだ。
そして言うまでもなく。俺たちの前で沈黙を貫くのは灰と焼死体の中間状態から、何とか『お話が出来る』程度に復活させてやった【爆弾魔】の男。ステータスの補正を打ち消す『愚者の首輪』を装備させられている今は間違いなく安全な筈なんだが……コイツの眼光はまだナニカを狙っているような煌々とした輝きを依然として放ち続けている。
こうして睨み合ったままの数分間が過ぎ去った。停滞した状況が動き出すキッカケになったのは……
「城本君! 少しずつだけど色々分かってきたよ! 」
……ここから少し離れた場所で迷宮庁からの連絡を受けていた舞さんが戻ってからのことだった。
「城本君が身柄を直接引き渡してくれた『エニス・サイード』は……君の予想通りサウジアラビア出身の順位持ちの一人だったよ。数週間前に所属していた軍から抜けて行方が分からなくなっていたみたい。直近の情報だと49位。なかなか侮れない強さだね」
49位……100人いるランカー全体のちょうど中間くらいか。
「そして琴葉ちゃんが見た記憶にあったウェブサイトは、予想通りダークウェブ上のホルダー向け『闇サイト』。日本に来た理由もそこで見た懸賞金が目当て」
「死因は? 」
「サイトの秘密保持のために使われていた【宣誓】っていうスキルが自動的に発動した結果だね」
「そこまで分かるもんなんだ ? 」
「分かるもんなんですよ」
流石の情報網だ。元は公安ってだけはある。
「それじゃあ……爆弾魔は? 」
その時、明らかに変わった。
舞さんの纏う雰囲気が。顔色が。声音が。
冗談染みたものから真剣で深刻なものへ。
「それがね……ほとんど何も分からないの。どこの国でも登録を行ってない未登録ホルダーってことだけがハッキリしていて……国際的に指名手配されてるわけでも……どこかの組織に所属していたわけでもないみたい」
「え? 」
「困ったね……この【爆弾魔】さん……いったいどこから来たのか。目的が何なのか。――まったく謎だよ」




