初めての蘇生魔術
落ち着け。息を深く吸って、いったん状況を整理しろ。
まず優先すべきなのは……『自衛』からだ。
「『不死化』! 」
……よし。これで俺の命はしばらく保証される。これで考える時間はたっぷり出来たぞ。中東人がどうして死んだのかをな。
まずコイツの浅黒い身体には俺が加えた以外の目立った外傷がない。銃による狙撃などの物理的攻撃を受けた線は低いはず。
そして、ずっと様子は観察していたけれど致命的な『状態異常』の類にかかってる様子も無かった。まあ【鑑定】でわざわざ確認したわけじゃないから……ハッキリとそうだとは言えないが。
あと考えられるのは何らかの超遠隔使用が可能な【スキル】を食らったというもの。【索敵】は継続的に使用しているため半径数キロ圏内の不審な動きをしたホルダーなら補足できるはずなんだ。
それとも、まさか居るって言うのか? 『隠者のローブ』を使ってきたコイツ等と同じように【索敵】や『偽装看破』で見つけることのできない暗殺者が……まだここに。
「『ショックウェーブ』」
思い付いたら即行動。
矢継ぎ早に発動させた魔力の衝撃波は廃病院をビリビリと揺らしながら待合室の隅から隅まで拡散していく。波が障害物に当たった様子は一切無い。どうやら本当にこの部屋には俺とコイツ等以外には人がいないらしい。
これでも無いとなると……後は……なんだ?
「……はぁ~」
『どう? 理由は分かりそう? 』
「ぜーんぜんダメだ。何も分からない」
『剣太郎君でもかー。う~ん……』
俺たちはそれから数分間熟考した。人1人死んだっていうのにお互いに冷静過ぎる気もしたけれど……まあ、今はいい。そのまま考えとアイディアを出して重ねていった末……木ノ本は思い付く。
『ねえ、剣太郎君。また直接本人から聞いてみない? 』
この最高の治癒術師にしか出来ないとんでもないやり方を。
「――……っていう都内の西の方にある閉鎖してすっかり寂れた病院でホームページもまだ残ってるはずだ。今いる場所はその一階待合室の……ちょうど中心……くらいかな」
『オッケー、大体の場所は掴めたよ。剣太郎君は、その場から動かないでね? 』
頼まれた事は現在の居場所の詳細な位置情報を教えること。ただそれだけ。だけど世界最高と呼ばれるヒーラーにとってはそれだけで十分なんだという。
『それじゃあ始めるよ―――――――――「遠隔蘇生」』
その時、俺は確かに感じ取った。
羽田空港の時にも感じた神懸かった『正の力』の波動を。
心を満たすほど大きくなった多幸感を。
今なら何でも出来ると錯覚するほどの全能感を。
どこかからやって来て中東人の身体の中に雪崩れ込んでいく莫大な魔力は見る見るうちに溶け込んでいっていた。
『……ふぅー。終わったよ。どう? 成功した? 』
「バッチリだ。ちゃんと生き返ってるよ。まだ起き上がってこないけど」
話には聞いてたけど……マジで死んだ奴を生き返らせれるんだな……。それも見てなくても、距離が離れていてもお構いなしで。
『結構距離が遠かったからすぐには目は覚めないと思うから……それまで待って』
「分かった」
いや本当にスゲーよ。蘇生魔術使えるの木ノ本だけなんだろ? そりゃあ世界最高って言われるだけありますわ。
俺が感嘆の息を密かにつく間、木ノ本は新たにもう一つこの状況を打破する手段を考え付いていた。
『まあ、起きるのを待つ以外にも「話を聞く方法」は居ないことも無いんだけど……』
「え? なにそれ? 」
俺が盛大に食いつくと、元同級生は口にする。
少しだけ歯切れが悪そうに。
『その廃病院の近くに1人居るんだ。私の知り合いっていうか、後輩かな? 人が隠している情報を引き出す「プロ」がね』




