今後の指針
魔境を攻略した俺たちに待っていたのは幾つかの得難い『攻略報酬』と……衝撃的で、猟奇的なニュースの『一報』だった。
「「連続襲撃事件? 」」
「都内の地下闘技場が集中的に狙われてるみたいだね。この3日間に20件も。手口と現場の状況が全く同じだから同一犯の可能性が高いって」
地下闘技場。
一度マサヒラに聞いたことがある。何でも政府公認でホルダーが暴力を振るえる数少ない場所なんだとか。その運営には反社会的組織が関わってたり、違法賭博が行われてたり、禁止薬物が出回っているなどなど……何かと黒い噂が絶えない場所ではあるらしい。だけどわざわざ潰して回るほどの理由があるんだろうか? そんな荒くれ者が集う場所を個人で襲撃するほどの強い恨みが……?
「舞さんは捜査に参加しなくていいの? 」
「私は元公安は公安でも迷宮課の戦闘班だからね。捜査の基本については一通り仕込まれてるけどさ、そっち方面は基本的に専門外なの。今は絵里の護衛の【管制官】だしね」
「そっか」
「でも、もしこの件が『テロ』として認定されたら……もちろん話は全く違ってくるよ」
「……テロ」
テロとテロリスト。そんな物騒な存在、自分には全く縁の無いモノだと思っていたし、日本で起こることなんて有り得ない遠い国で起きる出来事だとも思ってた。
だけど俺は正面から戦うことにもなった。テロリストとしか形容しようがない『組織』と。
実際に目の当たりにした。羽田空港襲撃という大規模なテロ行為を。
そんなテロにヒロ叔父さん……そして俺の家族が関わっているかもしれないことを爺ちゃんの手紙で知ってしまった今、とても他人事だとは思えない。
それに、もしかすれば都内の事件の方も『組織』が関わっていないとは言い切れないからだ。
「二人はこれからどうするの? 」
「とりあえずは東京に戻ろうと思ってる。なんであんな【予言】を私たちにしたのかの理由もぜひ聞きたいしね」
「それにかなり溜まってるんだ。無理やり止めておいた仕事がね」
「なるほど……仕事か」
そういえばそうだった。
すっかり忘れていた。木ノ本と舞さんが有名人であることを。
今や【迷宮庁】の看板と言ってもいい二人が久しぶりに日本に戻って来たとあっては求められることが山のようにあることは素人の俺でも察しが付く。
凄いな。まだ俺と同い年だって言うのに。
俺が目を細めてボーっと木ノ本を見つめていると突然目が合った。
「あっ! いや……今のは別に……」
「そういえば剣太郎君はこれからどうするの? 」
「え? 」
「それはお姉さんも気になるなー。どうするの? 」
「な、何が? さっきから何のことを……? 」
タイミングが悪くて、いきなり振られた話題だということもあって、すっかり油断していたという事実も手伝って、頭が混乱している。
二人が言わんとすることが何なのか、分からない。
「私たちは戻るよ。東京にある――【迷宮庁】の本庁に」
「まだ中途半端にやり残したことがあるからね」
「お、おう」
「だからさ……剣太郎君も良かったら一緒に来ない? 」
「あ」
その時、俺はようやく理解した。
二人の伝えたかったこと……いや俺に聞きたかったことが。
以前、俺は二人に言っていた。『今』は迷宮庁のことを信用できないという正直な気持ちを。
だからこそ現在は【迷宮庁】の所属である二人は俺の事情に深くは踏み込もうとしなかった。聞いてこなかった。魔境にいる間、そんな気配りを絶えずしていてくれていた。
だが手紙を得た今。
梨沙の居所が突き止められた今。
【迷宮庁】と探していた家族の居所の関連性が途切れた今。
事情は以前と全く別物になっている。
俺は改めて身の振り方を考えないといけない。
「返事を出す前にちょっとだけ……考えさせてくれないか? 」
「うん、もちろんだよ! 」
「ありがとう」
とりあえず一つずつ整理しよう。
既に分かっている事。
未だに分からない事。
そして俺がこれから何を優先して、何をすべきなのかを。




