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 情報化社会において迷宮(ダンジョン)怪物(モンスター)、そして保持者(ホルダー)の存在は常に話題の中心にあり続けている。


 有用な【スキル】の意図的な発現方法。


 経験値(ポイント)効率が高いダンジョンの場所と時間帯。


 ドロップアイテムを落とすモンスターの出現位置情報。


 コストパフォーマンスが高い武器を製造している企業と販売店。


 これらはホルダーたちの間で話題に挙げられがちな話の例のほんの一部。ホルダー達は一攫千金を求め、最強を目指して日々努力以上に情報収集を行っているのだ。


 その結果――以下のような『得体のしれない代物』まで登場するようになる。



『迷宮に生きる』


『対モンスター想定・古流武術指南書』


『【魔法】は科学だ』


『【悲報】世界一の外れ【スキル】発見される』


『オレが1週間でA級ホルダーになれた理由(ワケ)~効率的レベルアップのススメ~』


『ダンジョン内における空間認知能力向上の重要性』


『現役ホルダー100人に調査! 絶対に後悔しない経験値(ポイント)振り分け法』


『恐怖を力に――ダンジョンパニックの心理――』


『統計学でダンジョン攻略』


『ダンジョン十ヶ条~生還のための10の考え方~』


『ビッグデータから見る行くべきダンジョン・100選』


『最強のランカーは誰だ? 』



 上記の羅列はホルダー界隈においては有名な書籍や掲示板のスレッドの数々。内容は学術的なモノからふざけきったモノ……ピンからキリまで存在するがどれも現在活動中のホルダーなら一度や二度は目や耳にしたことがあると言われている。


 その中の一冊『最強のランカーは誰だ? 』をここでは紹介しよう。本書が書かれたのは10月の終わりごろに国際ホルダー機構(I H O)によって『世界順位(ランク)』が設定されたことが発端であるため、まずは『ランク』について説明しなければならない。


『ランク』とは各国のホルダーを管理する機関から送られてきた情報を集計し、その中でもレベルだけに着目して上から100人目までを対象に順位付けしたという単純明快な指標の一つ。この『数字の大小を比較する』という単純さがウケたのか『ランク』というシステムは設定されて以降、世界各国から広く受け入れられるようになる。


 具体的に言えば、ホルダーは皆ランクを持つ順位持ち(ランカー)を目指すようになったのだ。


 さて、ランカーと呼ばれるホルダーは前述した通り100人存在している。そんなランカーの中でも上位10人のランカーは特別で『トップランカー』という別称で呼ばれることもあるほどだ。彼らトップランカーは全員がレベル3桁以上をクリアし、国家の戦力バランスすら狂わせる力を個人で(・・・)所有している。そのため彼らの動向は常に注目を集め、有名人に匹敵する影響力を持ち、言動の一つ一つがニュース記事になる。


 だが人々が一番意識を向けるのはランカーたちの容姿や年齢、性別、プライバシー等の雑多で、どうでもいい情報などではない。



『ランカーの中で誰が本当に強いのか』――この一点だけなのである。



 その需要に応えた本こそが『最強のランカーは誰だ? 』なのだ。


 果たしてどうやって調べあげたのか。本書にはトップランカーの持つスキルや魔法の詳細、どのような戦闘スタイルなのかが事細かにまとめられている。つまりこれを読めば誰もがトップランカー最強議論に参加が可能になったことを意味し、結論の出ない数多の論争を巻き起こす原因となった……好評と同時に大きな批判も相継いだ紛うことなき問題作である。


 著者であるロバート氏のSNSには出版から一ヶ月たった今も苦情と訴訟するという脅しがひっきりなしで殺到しているのだとか。


 そういう訳で本書はベストセラーと言うよりも問題作的な見方が強く、発禁処分を下した国もあったぐらいなのだが……何故これほどの強い反発を受けてしまったのか?


 その理由の一つにとある『不確かな噂』をあたかも真実であるように書いたことだと、アナリストは指摘している。


 ホルダー最強を考察するはずの本書では、結局『どこの誰がホルダー最強なのか』という結論を当時認定されていた『世界順位(ランク)1位』ではなく、はたまた他のトップランカーでもない『存在から不確かな謎のホルダー』にしてしまったのである。


 その年齢、性別、国籍、全てが不詳なホルダーこそ”伝説の金属バット”なのだった。


 ロバート氏は言う。


――『もし仮にネット上の噂が全て正しいのであれば、現在のランク1位である【覇王】なんて比較にもならない。実績が余りにも違い過ぎる。実力だって桁違いだ。()こそが最強のホルダーに決まっているだろう』――と。


 だがこれでは大体の読者は納得しない。これほどまでに詳細にトップホルダーの情報を把握して置いて、なぜ最強だけが不確かな噂だけの存在なのか? 主に2位以下に甘んじることになったトップホルダーのファンたちからそのような声が上がったのだ。


 このようなプロセスで『最強のランカーは誰だ? 』は世界的に有名になった。


 ホルダーなら誰もが一度は目や耳にするほどに。


 今でも書店で平積みで売られているほどに。


 本書の影響力はトップホルダーの発言力を脅かすほどに強く、切り取られた内容の一部が多様なSNSで拡散されるようになり、そしてここに新たな『()』が生まれた。






『トップランカーたちは金属バットの命を狙っている』という根も葉もない噂が。


 




 最初は誰もが考えた。


 これは金属バットとトップランカーのどちらが強いのかと言う議論が白熱した結果に生まれた与太話であると。信じる方が馬鹿なのだと。


 だが事態は徐々に変貌する。


 人々は次第に現状を理解し始める。


 今。


 世界で。


 人類最高の味方である順位持ち(ランカー)たちによって。


『何か』が行われようとしていることを。


 事の始まりは日本の首都・東京で起きた怪事件――『連続地下闘技場襲撃事件』がきっかけだった。

 

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