解明
「これこそが俺の探していた動かぬ証拠。ダンジョンやモンスターが現れるもっと前から『異世界の地球への干渉』があったっていうことだ」
「異世界の地球への干渉……」
「教えて、城本君。この文字は……どうやって? 」
「この落書きは小学校に入る前の俺が『異世界から来た友達』と二人で書いたものなんだよ」
「――……すまん。……言い過ぎた。君に八つ当たりしても何の意味もないなんてことはよくよく分かっている筈だったのに……」
「気にしてませン。慣れましたかラ。それに赤岩。今更あなたが『敵』を見紛う事なんてあるのですカ? 」
「……それもそうだ。倒すべきは『組織』。昔からそこに変わりはない」
「異世界の……友達」
「予想はしていたけど、君はやっぱり異世界との縁があるんだね」
「そう言う舞さんたちも『異世界』について何か知ってるみたいだけど? 」
「うん……ねえ城本君。私たちが魔境に来ることになった言えなかった理由が何だか分かる? 」
「……分からない。見当もつかない」
「【予言】があったんだ。『東京を離れて、身を隠すように』って」
「【予言】って……まさか……! 」
「そう。『Xデー』が来ることを予言したのと同じ人。【予言者】と呼ばれ、日本の警察組織を何十年も陰ながら支えてくれている『彼女』は、自分のことを異世界から来たと言っていたの」
「なるほど……だから俺に理由を話すのを少し躊躇ってたのか」
「ごめんね。私たちがもっと上手く説明できれば良かったんだけど」
「いいんだ。普通、当事者でも無ければそんな与太話信じないからな」
「そう言ってくれると有難いよ」
「しかし……何十年も、か。もしかしたらその【予言者】も爺ちゃんが所属していたリューゲって団体とも関係してるのかも」
「しかし分からないな。何故なんだ? 『組織』と『リューゲ』で元は同じ一つの集団だったのになぜ、これほどまでにやり方が違うんだ? 」
「いいエ。赤岩。それは勘違いでス。袂を分かつことになった両者は、分かれた今も同じ【四方の魔王】の討伐を目指している筈でス」
「じゃあ、なぜ――」
「違うのは……そのたった一つのゴールに向かう過程です」
「ん? 今、城本君……なんて言った? 」
「え? いや、その【予言者】って人。そんなに昔からいるなら俺とも関係あるかもしれないかなって」
「そ、そう? 」
「うん、そうだよ? 」
「ごめんなさい。私の聞き間違い……だったかも? 」
「いやいや、気になることは遠慮せずにガンガン聞いてくれて良いよ」
「……それなら剣太郎君に聞くけど、今は何をしてるの? 」
「ん? ああー。今は俺が書いた文字の中で決定的証拠になりうるモノを探してるんだよ」
「プロセスだと……? 」
「はい。具体的には【勇者】をどう……――」
「待て。君は一体何を言って……? 」
「――――……【洗脳】」
「嘘だろ……今か!? 」
「すいません。言わなくても良い『余計な事』を少々喋り過ぎました」
「君……そんなに流暢に喋れたんだな」
「安心してください。その記憶も綺麗さっぱり忘れますよ」
「「『決定的証拠』? 」」
「『異世界の友達』がいたって記憶は確かにある。だけど、逆に言えば俺には記憶しかないんだよ。写真とか。日記とか。当時の俺にはそんな気の利いたモノを残す脳なんて一切なかったから」
「ちゃんと友達のこと覚えてるんでしょう? 流石に気にし過ぎじゃない? 」
「いいや。気にするよ。記憶ほど曖昧なものは無いからね。だからこそ今、見つけておきたいんだ。折角思い出せた『大切な思い出』が実在したって判断できる客観的な材料――書いた記憶だけはあるとある文字を」
「どう? 見つかりそう? 」
「う~~~ん。それがさ……ちょっと分からないんだよね」
「分からない? 」
「うん。【鑑定】スキルは異世界関連のモノは何でも発見できるんだけどさ……そこから読むのがね難しい」
「読めないって……頭の中で自動翻訳されないの? 」
「そう思うでしょ? ほら舞さん。見てみて」
「えー……? あれ? ほんとだ。読めない。……何で? 」
「多分だけど、昔の俺の字が汚すぎるんだ。翻訳機能がバグるレベルで」
「え”」
「昔はひらがなもまともに書けなかったからなー。こんな複雑な文字を当時の俺がまともに書けるわけが無い」
「え”ぇええ――――? 」
「いやー……お恥ずかしい」
「それじゃあ城本君、どうするの? 」
「……どうしよう」
「……それは『秘密基地』って書いてあるね。その上は……『私が最強』って」
「まさか! 」
「読めるのか!? 木ノ本! 」
「うん。読めるよ。知らなかった? 私の【古代神性文字】はこの複雑な文字を読み書きして『力』を引き出すスキルなんだよ」
「そうか! だから俺のグニャグニャの解読も! 」
「解読出来るね……ギリ」
「そうか……なら! 」
「それとね、剣太郎君。すぐ後ろにもう一つ『文字』が隠れてるよ」
「僕が気づいてないと思ったか? 君が僕の脳みそを好き勝手に弄りまわしていることに。対策を講じていないとでも? 」
「心外ですね。弄りまわすだなんて。ただ必要のない情報を消してあげてるだけですよ。それと、こうも言っておきます。生半可な対策では私の【力】に抗うことは出来ないと」
「僕を殺そうとは思わないのかい? 」
「私は無益な殺生を好みません。安心してください。アナタにはまだ利用価値があります」
「君は確実に後悔するよ。今ここで! 僕を殺さなかったことを! 」
「ほんとだ。全然気づかなかったけど。長めの『文字』が城本君の背中側に」
「なんて書いてある? 木ノ本? 」
「…………」
「木ノ本? 」
「絵里? どうかしたの? 」
「…………見間違いかもしれない。だけど私には、こう書かれてるように見える。カタカナで『ケンタロウ』って」
「それだッ! 」
「後悔……ですか? 」
「言い間違いじゃないぞ、異世界人。すぐに僕らは君の想像も超えるようになる。予言を跳ね返せる実力をつけるようになる。君1人じゃ抑えつけれないほどにね」
「なるほど。これは赤岩なりの宣戦布告なのですね」
「……ッッ! ぐぅッ! うぐぐぅぅぅ……がああああ”あ”ッ! 」
「ですが、アナタに思い出せますか? 今日あったことを」
「よかった……。本当にあった……」
「これが城本君が探してた……『文字』」
「自分の名前を書いたんだね? 」
「そうなんだ。友達と二人、トンネル探検をした証拠を残そうとしたんだ」
「それじゃあこの隣にある文字は……」
「大丈夫だ、木ノ本。翻訳が出来無くてもその『文字』だけは俺にも読める。そこに書いてある名前は――」
「何故だ!? 君は何故そんなにも私たちのことを信用しない!? 答えろ――」
「「『ユノー』」」
語気に違いはあった。
込められた感情には大きく開きはあった。
だけど二人の男の声は空間を超えて確かに重なったのだ。
それが偶然か、はたまた必然なのか。
今は誰にも分からない。
第6章終わり。
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