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男子三日会わざれば刮目して見よ……?

「「脱出作戦? 」」



 口をそろえてオウム返しをした舞と絵里。剣太郎は重々しい頷きを返しながら、乾いた苦笑を漏らす。



「実を言うと『その事実』に気づいたのは俺もほんの少し前なんだ。【鑑定】が無ければ気づかずにやらかしてたかも。この魔境の攻略が一筋縄ではいかないことを。この死にかけのモンスターをこのまま(・・・・)倒すわけにはいかないってことをね」


「だから一度回復させる必要があるの? 」


「その通り」


「【麻痺状態】にして動かなくさせる必要も? 」


「ああ」



 まるで既に魔境の攻略は完了したとでも言いたげに朗らかな表情をした剣太郎。対照的に絵里と舞の頭の中は疑問符で一杯だった。


 これまでも周囲を置いてけぼりにする傾向があった少年だったが今回は未だかつてないほどに少年が言わんとしていることが分からない。今がどのような状況で、これから何をしようとしてるのか、女性陣二人にはまるで見えてこなかったのだ。



(絵里には分かる? )


(ううん、全く)



 短くアイコンタクトを取った二人は同じ一つの感情を共有した後に、剣太郎に質問する。『脱出作戦とはいったい何を目的としていて、何をするモノなのか』と。



「あー……悪い。一人勝手に盛り上がって先走り過ぎた。俺の悪い癖だな」



 すると剣太郎は頭の後ろを掻きながら一言詫びた後、逆に質問をする。


『それじゃあ説明する前に一つ聞かせてくれ。舞さんと木ノ本はついさっきに終わった戦いの中で何か違和感(・・・)は無かった? 』……と。



「いわかん……違和感? 」


「何かあったかなー? 」



 二人は首を傾げて、先ほどの戦いを振り返って想起する。


 どんなモンスターが、どのタイミングで出現して、どんな手段をもって撃退して、結果どのようになったのか。どんな災いが、どの規模で発生して、どのように対処して、結果はどうなったのか。


 頭から最後まで、思い出せる限りの記憶を追体験した。


 さらに考えること一分。



「そういえば……地形を変形させる規模の攻撃で『魔王(トレント)』は無事だったんだね」


「なんか集まって来たモンスター達も木がある(あっちの)方向には突っ込んでいってなくなかったような……? 」


「言われてみれば……でも『嵐』とか『地震』は無差別に起きてた気がするよ」


「なら【結界】か【防衛系統魔法】とかが使われてたんだと思うよ」


「えー……? そこまでするなら完全に【回復】させてほんの少しの攻撃で死なない様にすればいいんじゃない? 」


「そだね。たしかに……。なんでだろ? 」



 二人だけの世界に入り込んで、流暢な議論を進めていった舞と絵里。


 そんな様子を剣太郎は目を丸くしながら、小さく呟く。



「驚いたな……そんなに早くその結論に届くなんて……」


「……剣太郎君? 」


「ごめん、聞いてなかったの。何か言った? 」


「二人を褒めたんだ。いや、褒めるっていうよりも……すげーな! 【鑑定】無しでよく分かったな! 俺が言いたかったことはまさにそこ(・・)なんだ! 」


「「え? 」」


「『なぜ鬼怒笠魔境で俺たちの前に立ちふさがったモンスター達は【魔王】を回復(・・)させることも無く、わざわざ死ぬ寸前の状態を維持しながら守っていた(・・・・・)のか? 』二人と同じように俺はそこに作為を感じた。はっきり言えば『罠』の予感がした」


()……? 」


「でもトラップ系統の【スキル】や【魔法】は……」


「舞さんの持っている【スキル】で自動的に検知するんだもんな。俺もさっき【鑑定】を使って見たところ、その類の【スキル】や【魔法】が付与されている様子は無かったんだ」



 そこまでの説明に舞と絵里は着いてくることが出来ていた。納得することが出来ていた。


 でもはやり二人には分からない。剣太郎が何を伝えようとしているのかを。



「ってことは……」


「……どういうことなの? 」



 そんな彼女等の困惑を理解していた剣太郎は始めて口にする。



「気にする必要は無いよ。ここからは『知ってるか』、『知らないか』の問題だ。もう一度質問するよ。二人は知ってるか? ――――【魔力爆破(・・・・)】という言葉を」



 彼が生涯で一度だけ経験し、死の寸前まで追い詰められた現象(・・)の名を。



「【魔力……」


「……爆破】」


「長い間存在し続けていたモンスター……例えば千年以上生きていたモンスターが死に、黒い煙に体を転換させた時……極まれにため込んでいた魔力を爆発させることがある。これを【魔力爆破】と言うんだ」


「初耳だよ。そんな話、聞いたことも無いな」


「でも……ごく稀に(・・・・)なんだね? 」


「ああ。ごく稀にしか起こらない。その代わり爆発の威力はヤバい(・・・)ぞ。今、俺の切り札になっている【黒い炎】も本物の【魔力爆破】の一部しか再現できないくらいだ」


「それは……ヤバイね」


「問題は……その【魔力爆破】を『ギガント・エル・トレント』は100%(・・・・)起こす事がさっき分かったんだ」


「……え? 」


「もしも俺たちがこの距離で【魔王】を殺してしまった場合、魔境の攻略自体は成功するが、どれだけ速く移動しても確実に【魔力爆破】に巻き込まれてしまう。敵の狙いはソレだ。全員倒された最後の最後で魔境ごと全て何もかも吹き飛ばすつもりだったんだ」


「ち、ちょっと待って! 『極まれに』が100%!? 」


「残念ながら100パーセントだよ。これだけは間違いない。【鑑定】のスキルレベルが85になって使えるようになった『モンスターをより詳細に鑑定する』……『怪物鑑定』によるとね」


「「……」」


「だからまずは【魔王】を復活させる。そんじょそこらの攻撃じゃ死なない程度の体力を持ってもらうために。その直後に【雷撃魔術】の『麻痺』で魔王の動きを停止させ【火炎魔術】で火を付ける。燃え上がる熱による継続的ダメージを与えている間に俺たちはギリギリまで【魔王】からの距離を取ることが出来る。消えない炎に対処できず奴が死亡し【魔力爆破】を起こす頃には無事に逃げ切れるって寸法……これが『脱出作戦』の全貌だ。ここまでで何か質問ある? 」



 そこまで聞いていた舞と絵里の口は大きく開いたまま塞がらなかった。


 呆気に取られて、言葉が出なかった。


 彼女等は知っている筈だった。城本剣太郎と言う少年がどれほど思慮深く行動していて、どんなに頼りがいがある存在なのか。身をもって体験し、十分に理解しているつもりだった。


 だけど足りなかった。


 認識が甘かった。


 全く持って十分ではなかった。


 一か月見ない間に少年の持つ『モンスターへの知識の多さ』、『敵に対する意識と注意深さ』、『モンスターに対して有効な【スキル】や【魔法】の質と数』……その全てがけた違いだったのだ。



(ねえ剣太郎君、聞いても良いのかな? この一月……ううん40日かも……一体何があったの? )



 絵里は心の中の問いを飲み込んだ。


 これ以上少年の事情に踏み込んだら、今ある関係性が崩れ去ってしまうような予感がして自分から一線を引いてしまう。



「さあ。始めようぜ。正真正銘……最後の戦いを」



 そして以前よりも注意深く、思慮深くなった筈の少年は少女のそんな様子に気付かない。


 彼はまだ16歳。


 モンスターへの理解がいくら深まっても、人間が相手だとその観察眼は途端に鈍ってしまうのだった。



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