コピー+???
「……まさかな」
その『眼』の存在を認識した瞬間、俺の中に一つの仮説が生まれた。現在の訳の分からない状況を説明するには全ての筋が通る説だ。
だけど、その思い付きは余りにも荒唐無稽で、考えるだけでバカバカしい代物。
本気にする方がどうかしている。
流石に非現実的にも程がある。
「「『瞬間移動』」」
でも、ならこの状況を他にどうやって説明する?
俺がきっかり10m上空に跳躍しても、影は一ミリすら違えずに真正面にいること。
「【火炎魔術】……【念動魔術】……【合成】『熱波念動』」
「【火炎魔術】……【念動魔術】……【合成】『熱波念動』」
初めて行った合成の組み合わせすら看破されること。
「「『全力疾走』」」
集中の極致へと達して、体感時間の引き延ばしで差を付けようとしても無駄。影は俺がどのような塩梅で時を早めたかすらも把握して完璧に動きを合わせてきた。
「非現実的……非現実的か……。空を飛びながらバットを振り回しておいて……何を言ってんだろうな。俺」
「どうかしました? 」
証拠はもう出そろってしまっている。頭ごなしに否定するには出そろい過ぎている。
「本当に何やってんだ。俺。非現実的なことなんて今までどんだけ多くあったと思ってんだよ? 」
何の意味も無い現実逃避はすぐ止めろ。
たどり着いた結論がどれだけ厳しいものであっても、受け入れがたい事実であったとしても……モンスターからおめおめ逃げることは出来ない。
逃げようとしてもコイツは追いついてくるだろうし、魔境からは脱出することは出来ないし、それに何よりも……人に仇なすモンスターから無様に敗走することそのものを……俺自身が許せそうにもない。
「……」
「おやもう良いんですか? 動き回らなくて。逃げ回らなくて。もしかしてようやく殺る気になってくれましたか? 」
こんな表面的なやり取りは全て無駄だ。
『???』はさっきから敢えて俺の真似をすることで、こっちの怒りを引き出そうとしているきらいがある。わざわざ乗ってやる必要は無い。
敵さんが考えていることは俺にも少しは読めている。
よくわかっただろ。これ以上、言葉を弄しても無意味だ。
なあ、今も聞こえてるんだろ?
……お前ら。
「ご明察! よく気づけましたね! 」
『あちゃー。気づいちゃいました? 』
呟いた心の声に対照的な二つの反応が現実と……俺の中から帰って来る。
これで確定した。
『猿』と『影』はグル。二体一組で動いているモンスター。
猿の役割はまず『選んだ対象』に殺されること。死後、猿は『対象』に憑りつくことで『対象』の情報を相方に流し続ける。
影はその情報をもとに『対象』を再現する。まるでドッペルゲンガーのように精巧なコピーをする。
ここで問題となってくるのが影に流される『情報』。
一体どんな『情報』を得ることが出来ればこれほど正確な城本剣太郎の戦い方を再現できるというのか。
「厄介だな」
「お褒めの言葉は素直に受け取りますよ」
『かといって手加減するつもりはないっすけど』
影は俺がハウンドドッグを『犬もどき』と呼んでいたことを知っている。
影はこの金属バットが俺の爺ちゃんと婆ちゃんからの贈り物であることを知っている。
影は俺が子供の頃に習い、今や身体でしか覚えていない武術を知っている。
影は俺がこれからどんな事をしようとしていて、どんな『技』をどのように使おうとしているのか知っている。
そのことが何を意味するのか。
「「褒めてねーよ」」
「……ちッ! 」
「ふふふ。まーた発言が重なっちゃいましたね」
コイツ等は俺の心を現在進行形で読んでいる。
「なーにが『重なっちゃっいましたね』だ。そっちが重ねてきているくせに」
「焦ってることを『怒り』や『開き直り』で誤魔化すのは子供の頃からの癖ですか? 」
コイツ等は俺の過去の記憶を見ることが可能で、過去の体験も追体験することが出来る。
ああ、本当に厄介だ。
『俺はアナタ自身です』って言葉は何一つ間違いじゃなかった。
いや。その表現はやはり正確じゃない。このやりづらさはそんな言葉だけじゃな到底説明が足りていない。
すぐに頭を切り替えろ。認識を改めろ。
俺が今相手しているのは……
「そろそろいいですよね? 攻めても」
「くっ! 『超反応』ッ! 」
……『完璧な読心術』を取得した城本剣太郎なんだ。




