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???

 湿気がこもった空気。丸い壁に描かれた夥しい数の落書き。端に溜まった黒い水たまりには空のペットボトルとスナック菓子の袋が浮かんでいる。


 間違いなくここは俺の知っている下山トンネルだ。


 だけど今――



「どうですか? 懐かしいですよね? 約半年前の夏、実家への帰省中のアナタが犬もどきを倒してホルダーとなった場所ですよ」



 ――その中心には見知らぬ存在が立っている。



「良く知ってるな。どこの誰から聞いたんだ? 」


「さあ、どうですかね? ご自分で考えてみてくださいよ」



 漆黒に包まれて掴みどころがなく、まるで影そのものような見た目。


 人間と同じように二本の足で立ち、二本の手が肩から生えている。


 口も目鼻も無いのっぺらぼうの黒い顔以外は一見では人間の様にしか見えない。


 身長は目測で2mに満たない程だろうか。


 ここまでは全部分かる。けどこれ以上は……何一つ分からない。 



「お前はなんなんだ(・・・・・)? 」


「質問するなんて、そんな回りくどい真似をせずに【鑑定】してみればいいじゃないですか」



 コイツ、全部分かってて言ってやがる……! 


 もう無駄であることを知りながら俺は言われた通り再度(・・)、目を赤く光らせて、正面に立つ黒い影を凝視する。



『??? Lv.???

  

   力: ?

  敏捷: ?

  器用: ?

 持久力: ?

  耐久: ?

  魔力: ?   』



 でも結果は予想通り。『?』で埋め尽くされたステータスが表示される。スキルやアイテムで【偽装】しているわけでもない。コイツのステータスには元々『?』が並んでいる模様だ。



「本当に何なんだよ。お前……」


「アナタに褒められると照れるなー」



 まるで意味が分からない。


 名前が『???』とかいうクエスチョンマーク三連符なのはともかく、持久力が『?』ってのは一体どういう理屈なんだ? この『?』の意味は?


 俺は久しぶりに【鑑定】の不親切さに怒りを覚えていた。



「……じゃあこれだけは教えてくれ。お前は俺たちの『敵』か『敵では無い』のか」


「まあ言ってしまうと……『敵』――」


「『焼灼一閃』」



 なら話は早い。


 何よりも優先して『敵』は排除する。


 特に今は俺の他に二人もいる。


 迷う必要は一切ない。



「おお!? 」



 とっさの判断で放ったのは【火炎魔術】の新技『焼灼一閃』。距離を詰める必要が無い上に、俺の手札の中で最も速度が出せる攻撃手段。


 完壁に不意を突けたので、避けることはもちろん防ぐことだって無理なはずだった。



変身前(・・・)に攻撃してくるのは感心しないなーケンタロー。子供の頃はヒーロー番組が好きだったんですよね? 」



 しかし無駄だった。ヤレヤレと言いたげに首を振る黒い影には小さな穴の一つも開いていない。


 ん? ……『変身』? 変身(・・)だと?



「俺の聞き間違いか? 」


「いいや。間違ってない。今からケンタローに見せるのは紛うこと無き……『変身』。実体のない、何者でもない影の身体から『本物』へと至るためのね! 」



 そして影は両手を広げた。


 何かを呼び寄せるように。


 何かの儀式のように。


 何かを降ろしているかのように。


 奇声を上げながら。


 何だ? コイツは今何をしようとしてるんだ?



(剣太郎君! )


(城本君! )



 すると今度は俺の脳内に舞さんと木ノ本の声が響く。下山トンネルに移動させられてから警戒のため使用を開始していた【雷撃魔術】『以心電心』の効果によるものだ。油断していたためか、音量調整をいじって無かったためか、かなりの大音量のテレパシーだったが……今はそんなことはどうでもいい!



(どうしたんだ二人とも!? )


(さっき『?』が並んだステータスって心の中で言ってたよね!? ) 


(ああ! それがどうしたんだ? )


(やっぱり……)


(それってさ! ステータスが常に変動(・・・・)するってことなんじゃないかな!? )


(え? )



 ステータスが……常に……変動する??



「それってどういう――……」



 二人が俺に伝えようとした言葉の意味を聞こうとした、まさにその時。



「『焼灼一閃』!! 」



『見覚えのあり過ぎる赤い光線』が正面から(・・・・)俺たちに向かって伸びて来た。



「ッ!? 『パワーウォール』!! 」

 


 それを反応で何とか防御。


 使い慣れた念力の壁を張り、炎の魔力を無理やり散らそうとした。



「何だッ……このッ……[魔力(・・)]はッッ!!? 」



 だけど直ぐに驚くことになる。念力の壁を押し返す炎の熱は余りにも熱く、強く、途轍もない濃度の魔力を秘めていたから。魔力の相殺は何とか成功したものの、散らし切れなかった火の残滓でトンネルに大穴が開いてしまうほどに。



「そんなに驚きます? さっきあなたがやって来たことじゃないですか」


「……お前の仕業なのか」



 とても信じられなかった。今のレーザーが目の前の影から放たれたものだとは。


 だけどこの瞬間は信じるしかない。先ほど見た時には『?』どころか一ミリの魔力も感じられなかった影の身体から夥しい量の魔力が迸っているのだから。



「うっ……」



 急に吐き気がしてきた。


 影が放つ魔力の重苦しいプレッシャーが俺の内臓という内臓をきつく締めあげていた。


 気づけば後方に立っていた木ノ本達も強大な魔力の波動にあてられて蹲ってしまっていた。


 これほどの酷い魔力への拒絶反応は久しぶりどころか初めてかもしれない。【剣神】や【龍王】を相手取った時でさえ、こんなに無様な真似を晒したことは無い。

 

 まるで巨大な発電所を下から見上げているような感覚。


 人知を超えるエネルギーの塊というものは人にこれほどの恐怖を与えるというのか。



「あはは。流石のパワーです。犬猿雉を撃破したアナタ達に膝を付かせるなんてね」


「ッ! 一体どんな手品を……――」


まだ(・・)気づいてくれませんか!? もう一度使って見てくださいよ! スキルレベル81の【鑑定】を!! 」



 先ほどから何か妙な違和感はあった。


 何故、コイツは俺について詳しいのか?


 何故、コイツは俺が昔ヒーローが好きだったことを知っているのか?


 何故、コイツは【火炎魔術】『焼灼一閃』を打つことが出来るのか?


 何故、コイツは俺がハウンドドックを当初、『犬もどき(・・・・)』と勝手に呼んでいた誰にも言っていない事実を知っているというのか。

 


「落ち着け……大丈夫だ……」



 早鐘を鳴らす心臓を抑えて。


 荒れる息を整えて。


 俺は影に対して3度目の【鑑定】を行う。






「は? 」




 一言声を上げてから……絶句する。


 人間は大きすぎる衝撃を受けるとこれほどまで無防備になってしまうのかと自分で思ってしまった。


 それほどに。思考が完全に停止して、真っ白になってしまうほどに。


 表示された【鑑定結果】には余りにも受け入れがたい現実が広がっていた。


 



『??? (年齢:??歳) Lv.223


 職業:無


スキル:【棍棒術 Lv.70】【疾走 Lv.74】

   【投擲術 Lv.30】【鑑定 Lv.81】

   【念動魔術 Lv.69】【火炎魔術 Lv.62】

   【自動回復 Lv.65】【仮面変化(マスクチェンジ)Lv.10】

   【石化の魔眼 Lv.24】【索敵 Lv.19】

   【合成魔術 Lv.7】【魔力量回復速度上昇 Lv.19】


 称号:≪異世界人≫ ≪最初の討伐者(ファースト・ブラッド)

    ≪巨人殺しジャイアント・キリング≫≪モンスタースレイヤー≫

    ≪龍殺し(ドラゴンスレイヤー)≫≪帰還者≫


  力:1562099

 敏捷:1619021

 器用:1494003

持久力:1449207

 耐久:1300221

 魔力:2184320〔1999929/2184320〕』




 余りにも覚えのあり過ぎる数字の羅列。


 完璧に空で言えるほど見慣れ切った【スキル】と【魔法】の個数と名称。


 俺でさえ覚えきっていない≪称号≫でさえ完全一致(・・・・)

 

 もう疑いようもない。




俺達(・・)の種族はあらゆるモノが持つ陰であり、全てを映し出す『()』……シロモトケンタロー。アナタの敵は……アナタ自身(・・・・・)だ」




 コイツは俺の能力を写し取っ(コピーし)ている!



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