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置き手紙

 鬼怒笠村跡地(・・)を散策している途中。



「あ」



 その余りにも見覚えがありすぎる『名前』を足元で見つけた瞬間……思わず声が出た。



「それって……」


「もしかして……」



 声につられて駆け寄って来る二人に俺が見せたのは『一枚の薄汚れた板切れ』。


 それを見てハッとする表情をした木ノ本に俺は首を縦に振る。



「ああ……そうだ。ウチの爺ちゃん家の表札(・・)だ」



 縦に割れた線が走り、土で霞んでいても、『城本』の苗字だけは読み間違うことはない。


 帰省する度に何度も何度もこの目に焼き付けた墨で書かれた二文字だけはどうしても見逃せなかったんだ。


 また同時に。


 ここに表札(コレ)が落ちているということは……ある一つの事実を示している。


 板が落ちていた場所から少し視線を上げると目に入る。


 一度息を吹きかければ今にも崩れ落ちそうになっているどこか見覚えのある黒ずんだ廃墟。



「それでアレが……爺ちゃんの家だ」





 あの波乱だらけの夏休み以来と言うことなので実にほぼ半年ぶりになる。



「とりあえず【念動魔術】で支えてるから崩れることはないけど……天井は低いままだから、頭だけは当たらないように気を付けて」


「はーい」


「お、お邪魔します」



 こうして爺ちゃんの家に帰って来るのは。



「ホコリが凄いな……」


「結構長い間、無人だった感じだね」



 厚い靴底(ソール)に押さえつけられて、ミシミシと鳴る腐りかけの床材の音を聞きながら俺たちは同時に爺ちゃんの家に入っていく。


 随分と妙な感覚だ。


 慣れ親しんだ土足厳禁の日本家屋にあえて靴を脱がずにズカズカ上がり込むなんて。



「かなり色々落ちてるから、足元も気をつけてな……まあ俺たちの[耐久力]で今更ガラスの破片程度でケガすることは無いと思うけど……」


「いやいや。何か大事な痕跡が残ってるかもだしね? 」


「そうそう。しっかり注意しておかないと」


「そうかな? じゃあ探すの手伝ってくれる? 」


「「もちろん」」



 重なる返事に首肯を返しながら、俺はまず【鑑定】スキルを発動。家全体に何らかのダンジョン関連のモノが無いか確かめようとした。



「ダメだ……何もない」



 だけど……結果ダメ。


 迷い込んできた小型モンスターの足跡以外には特にめぼしいモノは見つけられなかった。


 次に使うのはもちろん【索敵】。


 今度はより詳細にモンスターとホルダーの痕跡を探し出す。



「こっちでも……ダメなのか」



 しかし……これも不発。


 まあ少し考えれば当然だ。爺ちゃんがホルダーになっていない限りは、【索敵】の効果は意味を成すことは全くない。


 けれど、じゃあ一体どういうことなんだ? 


 爺ちゃんの足跡はここには無いみたいだし、爺ちゃんがホルダーになったという証拠も無い。


 けど鬼怒笠村(ここ)は3週間ほど前から魔境へと変わってしまっているし爺ちゃんの姿は無い。


 なら爺ちゃんはこの地獄の様な場所から、どうやって生き延びたんだろうか? 



「ッ……」



 どうしても。


 どう考えても。


『最悪の予想』が頭を過ぎる。


 そのことを考えると落ち着いていた息も荒くなる。


 気づけば俺は爺ちゃんが送って来たという、首から紐で下げられた『魔王の鍵』を強く握りしめていた。



「ねえ、城本君」



 そんな時、舞さんは声をかけて来た。自らの[魔力]を右目に集中させて。


 俺は努めて冷静な声を出しつつ、何事も無かったように振り返る。



「……どうした? 何かあったの? 」


「いやね……ちょっと手伝って欲しい事があってさ。少しいいかな? 」


「俺に出来ることなら、何でも」


「ああ、そう? じゃあ……遠慮なく」



 そう言って舞さんは俺の頭に手を伸ばすと、数本の髪の毛をむんずと引き抜いた。



「いてっ! 」


「これで……よしと」


「それで何をするつもりなんだ? 」


「まーまー今はちょっと見ててよねっ……【捜査開始】」



 舞さんが俺の髪束を掴みながら【スキル】の名前を言った瞬間、爺ちゃんの家は赤い魔力の光で包まれた。



「これは……!? 」


「私のスキルだよ。城本君の【索敵】の効果範囲には及ばないんだけど……その代わりにモンスターだけじゃない色んなモノが色んなルートから探し出せるんだよ。落ちていた私物からその使用者の感情……生体情報からその人の直近の記憶……そして――」



 ――『入手した遺伝子情報から、その人の親族の遺留品(・・・)を見つける』ことだってね。



 舞さんが【スキル】の説明を最後まで言い切ったその時。


 リビング全体を照らし出していた赤い光は『とある一点』に収束する。



「どうやら何か見つけたみたいだよ? このお家の中で城本君のお爺さんの生体情報が一番付着している何かを」


「ッ!! 」



 直後、俺は弾かれたように光の行方を追った。


 別に走るほどの距離じゃない。


 行先はリビングのすぐ隣。爺ちゃんが寝ていた和室だ。


 だけど急がずにはいられない。この逸る気持ちを『心の底からの安心』で何とか押さえつけたかった。



「……仏壇か! 」



 そして発見する。閉じられた黒い仏壇の内部から赤い光が漏れ出ている光景を。



「頼む……! 」



 俺は縋るような気持ちで仏壇に手をかけた。


 もう、これ以上は絶望したくないという一心で。


 ただひたすらに爺ちゃんの無事を願って。


 意を決して……開く。


 するとそこにあったのは……



「あ……! 」



 ……表面に『剣太郎へ』と爺ちゃんの字で書かれている真っ白な封筒だった。



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