底無し
僅かな違和感は――
「あれ? 」
――不死鳥の『核』の破壊の成功回数が、丁度10を超えた時に訪れた。
『どうしたの? 』
『……あの火柱……あんなに大きかったっけ? 』
妙に気になった。どうしても無視できなかった。
不死鳥帝が復活する際に毎回発生する火柱。
その大きさが。
高さが。
火力が。
放射熱が。
見る度により高く、より太く、より熱く、膨れ上がっているように見えた。
「まさか……」
胸騒ぎがした。
何か嫌な予感がした。
最悪の想定が脳裏をよぎった。
「あはー? どうしたのかなー? 」
「【鑑定】! 」
俺はそのまま自分の感覚を信じて【スキル】を使い……
「……なッ!? 」
……驚愕し……絶望した。
「あれれー? とうとう気づいちゃったー? 俺の秘密に―? 」
『不死鳥帝 Lv.171
力: 0
敏捷: 0
器用: 0
持久力: 0
耐久: 0
魔力:2283212〔1028700/2273212〕 』
結果を見た俺は狼狽えていた。激しく動揺していた。
なんでだ? なんでコイツの魔力とレベルがこんなにも上がっている!?
「いいねー! その顔! その顔が見たかったんだよー」
そんな俺を見て、『鳥』は嘲り嗤う。
おかしくてたまらないという奇声を上げ、天を仰ぐ。
「ずっと気づいてなかったんだねー? それとも見つけられなかったのかなー? 【奇跡の復活】スキルの技……――『復活の褒賞』の効果をね」
『復活の褒賞:【奇跡の復活】のスキルレベルが100になると使用可能。このスキル保持者が何らかの方法で死亡状態から復活や蘇りを果たした際、自動的に全ての基礎ステータスが強化され、上昇した分のレベルを上げる』
この『技』の存在と現在の不死鳥帝のステータスから分かること。
それ、すなわち。鳥野郎は殺されるたびに多大な魔力を消費するが……消費すればするほどに魔力が上昇するということ。
そして、その上昇数は復活する度に消費する魔力を優に超えているのだった。
「なんだそりゃ……そんなの……」
「『無敵』って言いたいのかなー? そうだよ―? 俺は……『底無し』なんだ」
倒せば必ず復活し、永遠に強くなるモンスター?
ありえ無い。
無茶苦茶だ。
さすがに……チート過ぎるだろ。
思わず片膝を付きそうになる。
勝つ方法が見えな過ぎて、勝てるとはとても思えなくて、俺達3人は黙りこくってしまった。
「……でもさー。君の絶望顔は中々愉快だったんだけどさー。それだけじゃ俺の虫の居所は収まらないんだよねー」
だが不死鳥はそれだけじゃ満足しない。
侵入者の心を折るだけじゃ飽き足らない。
「……え? 」
とうとう2000万を超えた魔力を炎の身に纏い、空高く舞い上がり、怒りの感情を露わにすると――
「【零落挽歌】……【根源爆破 】……【天罰】……【天地開闢】……【炎熱起動】……【迷宮操作】【覇者の顕現】【限界突破】……【理の外】……【威光】……【完璧】……【伝説爆誕】……【業火絢爛】……【無限炉心】……【限定火力】……【至高の輝き】……【至高の頂き】……【永劫回帰】! 」
――悍ましい数のスキルを発動させた。
「お前……一体何を……」
空を見上げながら呻く俺に、見下ろす絶対者は宣言する。
「これより始まるのは……君たち3人の侵入者への裁きである……」
それも……
「判決……『死刑』! 」
……死の宣告を。
「『帯電結界』! 」
「『完全防御』! 」
「『パワーウォール』! 『絶対防御圏域』! 」
対して俺たちは必死で抗った。
自分たちを守ることに全力を尽くし、出しうる手札を切って『災い』から身を潜めようとした。
けれど……全てが無駄だった。
「発動……――『神の裁き』」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 」
「「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 」」
それは圧倒的だった。
それは規格外だった。
それはひたすらに破滅的で、退廃的だった。
「あははははっははははあははははははっはははははは!! 」
魔境の全てがねじ曲がり、歪み、崩れ去った。
岩は砕け散り、山々は4つに引き裂け、川は濁流となって石舞台に合流した。
雲は吹き飛び、空は真っ二つに割れた。
どこからともなく現れた流星群が豪雨のように降り注いだ。
大地は果てしなく盛り上がり天を衝いた。
森は風に巻き上げられ、砕かれ、鋭利な破片に姿を変えた。
今まで正常に働いていた重力は崩壊し上と下すら分からなくなっていた。
その混沌の中心で不死鳥は――笑っている。
「ひゃははははははははっははははははははははははははは!! 」
おかしくて堪らないと言うように。
破壊することが愉快極まりないと言うように。
もう……分かっていた。
ここからは俺がやるしかない。
『木ノ、本! 今できる……ありっ……た、。・けの【回/復】を、俺に! 頼。む・! 特に魔力/回路の/! 』
魔力が狂い、テレパシーも上手く送れないが何とか意思疎通を図る。
だが『事情』を知っている上に、俺がこれから『何』をしようとしているのかに気付いた木ノ本は難色を示す。
『でも……』
『もう……やる/しか・ない・ん。だ、! 頼、む! 』
そこを俺が再度頼み込む。
ここから不死鳥を打倒するにはもう『アレ』を使うしかないと思ったから。
「……ッ【魔力伝達回復】ッ! 【全状態異常回復】ッ! 」
ありがとう。
木ノ本。
これで今日……もう一度だけ使える。
「【火炎魔術】『火炎吸収フレイムアブソーバー』――『反転放出』! 」
今から使うのは『龍の炎』。
まだ使いこなせていない現在、一日に二回以上使うと脳の神経回路に多大なダメージを食らい、【自動回復】や木ノ本の【回復魔法】を使ってでも消耗はかなり長引いてしまうほどに強大な力だ。
でもこれなら……概念と言う壁を破壊するこの力を使えば……奴の『核』を復活が不可能なほどに破壊できるかもしれない。
あとは祈るだけ。
激しい頭痛と右腕の神経痛に耐えながら。
どうか……どうかお願いします。
これで……
「『焼灼一閃』! 」
……終わってくれ!!
――3人の願いを載せて青い一条の光線は真っすぐに伸びていった。
――見極めた不死鳥の弱点……『核』に向かって。
――ひたすら真っすぐ。
――致命的な破壊の波を突っ切り。
――障害物を全て貫いて。
そして……たどり着く。
「あ」
こちらのことなど見向きもしなかった不死鳥の胸元へ。
龍の蒼炎は不死鳥の下へ届いた。
「「「「やっ……――」」」
俺達3人は喜びの声を上げようとした。
傷だらけの全身に構わずに。
羞恥心もかなぐり捨てて抱き合おうとした。
だ け ど
「あれれー? もしかして勘違いしちゃったのかなー? 俺には『火』に関するありとあらゆる攻撃は効かないよー。火は燃やせないだろう? たとえ『龍の炎』だろうとね―。これは、どうあっても揺るがない――――『絶対』だ」
不死鳥はいともたやすく踏みにじった。
希望の光を。
唯一絶対の策を。
「これでトドメだーよー……死ね」
全てを巻き込んだ破壊の渦が炎を纏ってこちらに真っすぐ向かってきている。
そのエネルギーの塊は、まるで先ほどの意趣返しのように金色の光線へと姿を変えていた。
光線の速度は避けても意味が無いことを、こちらに知らせるように酷くゆっくりだった。
「舞さん……木ノ本……俺の近くへ……絶対に離れないでくれ」
二人は俺の頼みに無言で従ってくれた。
その沈痛な面持ちはこれが最期だと覚悟しているようだった。
ああー。
ダメだな俺は。
俺はまた、こんな顔を大事な人にさせてしまう。
まだまだだ。
まだまだ修練が足りない。
もっとだ。
もっと強くならないと。
「……」
ふとした瞬間、伸ばした指に目が行く。
そこには世界を超えた友情の象徴……『奇跡の指輪』がハマっている。
「……」
リューカの時もそうだった。
自分のことは何もかも秘密にしていたから、あんな悲劇が起きてしまった。
なぜだろうか?
逃げないと決めた今でも、どうしてもこの性質だけは止められない。
来たる最悪の『Xデー』のことを恐れて『底』を見せたくないと思っているからだろうか。
だけどもう無理だ。
たとえ全く使う『自信』が無かろうと。
使うのは不安でしか無かったとしても。
相手が底無しなら……俺も『底』を見せるべきだ。
「剣太郎君……? 」
ずっと無言だったせいか不安そうに俺の様子を伺う木ノ本に笑って返す。
「大丈夫……ここからでも勝つさ」
そして、これは最後の意地じゃない。
本気だ。
「……ふぅー」
コレを一目見たリューカは言っていた。
『剣太郎。それは……それだけは……絶対に使っちゃダメ』
でないと剣太郎自身が危ないから、と。
ゴメンな。リューカ。
約束守れなかった。
「『火炎吸収』――『反転放出』―ー『終炎の黒』」




