不死鳥が如く
突如、石舞台の中心に現れた新手。
赤と金のド派手な色の巨大な翼を持った推定身長3mほどの鳥人型モンスター。
それに対峙することになった俺達3人は、咄嗟の判断で『以心電心』を発動してくれた舞さんのお陰で連携を取ることが出来ていた。
『二人の魔力回復終ったよ! 』
『サンキュー木ノ本! まず正面から俺が行く! 2人は援護を頼む! 』
『オッケー! 雷の斜線がぶつかりそうな時は言うね! 』
動き出しはまずは俺から。
目に【鑑定】の赤い光を宿しながらバットを振り絞り、突進。
理想的なスタートを取れた俺と不死鳥の距離は見る間にふさがっていく。
先人の残した『先手必勝』という言葉もある通り、相手が何かをする前に潰す……はずだった。
「なッ……!? 」
だけど俺は攻撃の意思を押しとどめた。足を止めて、バットを構えた手を静止させた。
自分の『眼』が見抜いた情報を前にして――目を見開いていた。
「あれれー? 来ないのー? もしかして……見ちゃったー? 俺の……ステータス」
図星だった。
俺はこの『不死鳥帝』を前にして『大きな驚き』と『ほんの少しの恐怖』を覚えていた。
そのステータスは今まで見て来た一万種を超えるモンスターの中で最も異質であり、最も異常であり、なにより最も理解不能だった。
『 Lv.160 不死鳥帝
力: 0
敏捷: 0
器用: 0
持久力: 0
耐久: 0
魔力:1999999
【不死鳥の翼 Lv.100】【不死鳥の羽根 Lv.100】【不死鳥乱舞 Lv.100 】【不死鳥の炎 Lv.100】【不死鳥の命 Lv.100 】【不死鳥の再臨 Lv.100】【不死鳥のオーラ Lv.100】【天恵 Lv.100】【不可視の炎 Lv.100】【復活の奇跡 Lv.100】【奇跡の代償 Lv.100】【権威煌 Lv.100】【爆破】【緊急戦線 Lv.100】【神威解放 Lv.100】【鳳凰降誕 Lv.100】【天理解釈 Lv.100】【炎皇 Lv.100】【急降下 Lv.100】【急接近 Lv.100】【火炎操術 Lv.100】【索敵 Lv.100】【鑑定 Lv.100】【陰陽安定 Lv.100】【因果逆転 Lv.100】【魔力安定 Lv.100】【才能開花 Lv.100】【神通力 Lv.100】【重力無視 Lv.100】【次元超克 Lv.100】【大地の息吹 Lv.100】【至高の輝き Lv.100】【零落挽歌 Lv.100】【根源爆破 Lv.100】【天罰 Lv.100】【起源因子 Lv.100】【天地開闢 LV.100】【炎熱起動 Lv.100】【熱波威風 Lv.100】【スキル効力無効 Lv.100】【不暁不屈 Lv.100】【魔力霧散 Lv.100】【魔法効力無効 Lv.100】【創生の炎 Lv.100】【原初の炎 Lv.100】【火炎理解 Lv.100 】【火炎同調 Lv.100】【真炎の御子 Lv.100】【炎熱の加護 Lv.100】【噴激 Lv.100】【バックファイア Lv.100】【溶岩体躯 Lv.100】【炎術師 Lv.100】【灼光 Lv.100】【灼熱神髄 Lv.100】【深淵鼓動 Lv.100】【陽光の記憶 Lv.100】【永劫回帰 Lv.100】【鳳の爪 Lv.100】【起死回生 Lv.100】【浄化の光 Lv.100】【赤道皇 Lv.100】【永遠加熱 Lv.100】【金色暴風 Lv.100】【無限炉心 Lv.100】【限定火力 Lv.100】【先見の妙 Lv.100】【不滅 Lv.100】【不壊 Lv.100】【龍脈接続 Lv.100】【迷宮操作 Lv.100】【千年想起 Lv.100】【火炎冒涜 Lv.100】【爆裂引火 Lv.100】【千年累積 Lv.100】【比翼 Lv.100】【暴威 Lv.100】【古今無双 Lv.100】【史上外道 Lv.100】【輪廻転生 Lv.100】【大翼零刃 Lv.100】【霊威解放 Lv.100】【重力爆風 Lv.100】【理の外 Lv.100】【威光 Lv.100】【完璧 Lv.100】【伝説爆誕 Lv.100】【賢者の眼 Lv.100】【覇者の顕現 Lv.100】【限界突破 Lv.100】【暴走魔導 Lv.100】【星の胎動 Lv.100】【光翼の意思 Lv.100】【臨機応変 Lv.100】【延命処置 Lv.100】【奇跡の羽搏き Lv.100】【選ばれし者 Lv.100】【死者不退転 Lv.100】【亡者至高 Lv.100】【外典外法 Lv.100】【千年予言 Lv.100】【………………――――』
まるで意味が分からない。
持っているスキルが多すぎて見尽くせないなんてことがあるのか?
ご丁寧にスキルレベルが全部100で統一されてどれが本命かダミーかもわかんねーじゃねーか……それとも全部使いこなしているなんて言うつもりか?
なんで運動機能を司る[力]や[敏捷]のステータスが『0』のままで普通に生きられてるんだ?
レベル1の俺ですら平均して10くらいの数値はあったというのに、俺達3人のうちの誰にも気づかれずに現れる速度を出せるようにはとても思えないんだが?
それ以前に耐久力0ではただのそよ風ですら致命傷になりうるはずだろ?
なぜ豪風吹き荒れ、【火炎魔術】の火の粉カスが舞う石舞台の中心で平然と立っていられるんだ?
あと器用が0ってなんなんだよ?
運動神経を司る器用さが0ってことは関節の一つすら動かすことはできないんじゃないか?
なら立派な翼が生えたコイツはそもそも動くことができないのか?
数値上では200万の魔力ってことは……実質2000万の魔力ってことかよ!?
「…………」
『剣太郎君? 』
『どうしたの? 』
「ふふー。考えてるねー? 迷ってるねー? 侵入者くんー。見れば見るほど思考のドツボにハマって来たんじゃないー? 」
全くもって鳥の言う通りだった。
見れば見るほどに分からなくなる。考えれば考えるほどに分からなくなる。
この条件での正解。
この状況に置いて最も適切な判断。
この状況を打破する最適解。
最も被害の出ない対処法。
こいつを打ち倒すための攻略法。
『猿』を殺してしまったことで『謎の呪い』を発動させてしまったことも頭を過ぎり、俺はますます迷ってしまった。
敵を前にして、動けなくなってしまった。
「でもそれだとさー……俺はつまんないよー。眠ってたところを急に起こされたのにさー。こう、にらみ合ってるだけじゃさー。折角こんなとこまで来たんだからさー。もっと遊んで来なよー。もっと楽しもうよー。猿君と犬君なんて雑魚は忘れてさー」
だが『鳥』はそんな俺を待ってなどくれなかった。影猿武公と紅蓮狼王のことを雑魚だと言い切ると――長大な詠唱を開始する。
「【龍脈接続】……【鳳凰降誕】【火炎理解】……【天地開闢】……【魔術理解】……【世界解道】……【流転解脱】……【炎熱起動】……【火炎同調】……【火炎操術】……【創生の炎】……こんなもんでどうかなー? 」
把握しきれない無数の【スキル】が重なっていく度に。
2000万の魔力が凝縮すればするほどに。
頭上で――
不死鳥の両翼の間で――
見る間に大きくなっていく金色の焔。
それは、この石舞台どころか鬼怒笠村全体を包み込むほどに膨れ上がっていく。
魔境の酸素を吸い尽くし、大気そのものを揺らし、高硬度の岩盤をドロドロに融解させながら。
「これは……――」
「さあー。どうするー? 」
考えるまでもなく。
【鑑定】するまでもなく。
その炎には魔境そのものを破壊しつくす力が備わっていた。
このまま受ければ、取り返しがつかない……甚大な被害を負うことになるだろう。
「【古代神聖文字】『力』! 『防』! 『強』! 『重』! 」
『剣太郎君!! 』
「【雷撃魔術】――『付与・金剛杵』! 」
『城本君!! 』
だけど俺は今ここで一人じゃない。
立ち止まる俺に[耐久力]と[力]を激増させてくれた木ノ本と、バットに稲妻の加護をくれる舞さんがいる。
俺のことを案じて助けてくれる人がいる。
俺の力を信じて託してくれる人がいる。
なら……俺がこれ以上、余計なことを考える意味はもう無い。
「【合成魔術】『火炎旋風』。【棍棒術】……――」
残された選択肢は一つだけ。
懸念や不安を無視して――
「――『フルスイング』!!」
――『不死鳥』ごと『炎』を吹き飛ばす!
「おおーッ! これは……――――!? 」
火と念力と雷を纏った金属バットは空へ飛び上がって落ちる勢いで、さらに加速し
「覇ァッ――!! 」
狙い通り『金色の焔』と『不死鳥』の中心を一撃で両断した。
「やったー! 」
「……凄い」
聴覚は舞さんと木ノ本の喜ぶ声を拾っていた。
触覚は鳥人の中心にあった核のようなモノを破壊した感覚を伝えていた。
間違いなく……俺は不死鳥を倒したはずだった。
「ふぅー! 今のは中々に効いたよー! やるなー君ー! 」
だが視覚は
俺の正常なはずの両の眼は
破壊しつくされた石舞台の瓦礫の中心から復活する鳥人を捉えていた。
そう。
その姿はまるで死んでも灰から生まれ治す不死鳥の様に。




