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嵐の前の平穏

 戦いを終えた俺の脳内に響く女性の声。



(これで良かったの? )


(ハイ。バッチリです)



 その正体は【雷撃魔法】の技『以心電心(いしんでんしん)』の効果によって発せられた舞さんのテレパシーだ。



(根拠の無い、勘頼りの賭けだったんですけど……こっちを見ていた『何か』の思考が俺と似通ってる(・・・・・・・)気がしたんです。何となく。もし俺が呑気にしゃべっている『敵』を見かけたら……その隙を確実に突こうとします)


(だからいきなり『雑談しよう』って提案したわけね。『何か』をおびき寄せるために。あえて隙をつくるために)


(まさにその通りです。俺の賭けに乗ってくれてありがとうございます)



 この『以心電心』は双方向でのテレパシーが可能であるため、術者である舞さんから一度でも接続さえしてしまえば俺からでもテレパシーを発することが出来る。例えば、『誰にも悟られることなく作戦を共有する』ことだって不可能じゃない。


 このようにして俺達三人は『背後からの完璧な奇襲』に対応することができたのだった。




(なーるほど……でも驚いたよ。『今から10秒以内にモンスターが絶対に襲ってくる』なんていきなり言いだすからさ)


(確信が持てたのは舞さんのお陰です。『俺の【鑑定】スキル』と『感じた視線』が似てることに気が付かせてくれたからですよ)


(……テレパシーでも謝った方が良い? その方が良いよね? )


(すいません。今のは半分冗談です。俺は全く気にしてません。でももう半分は本気ですよ。舞さんには本気で助かりました。お陰であの『猿』の先手を取れたんですから)


(いえいえ。感謝の言葉なんて受け取れません。既に大人である私(・・・・・・・)が一人の未成年男子を傷つけてしまった事実は変わらないんですから)


(なんか……スゲー大人気ない発言っすね)


(だから……お詫びと言ったら何なんだけど……城本君。これからはタメ口でいいよ。私とほとんど歳変わらない(・・・・・・)んだしさ)



「……え? 」



 動揺したためか。


 心中の驚きは自然と声になって飛び出していた。



「絵里と私で一々言葉使いを変えるのも大変でしょ? 」



 そして舞さんの方も気づけば、『以心電心』の使用をやめて俺に直接話しかけていた。


 俺は心の動揺を悟られぬように一呼吸おいてから返事をする。



「まあ……はい……そう、かもしれません」


「でしょでしょ? だから舞さんにも絵里と同じように話してみてよ」


「えぇーっと……これで良いのか? 」


「ちょっとぎこちないけど良い感じ」


「そうですか――……いや……そうか? 」


「うんうん。すぐに慣れそうだね」



 こっちの内心に全く気付かないような様子でしきりに頷く舞さん。俺の煮え切らない態度が慣れないタメ口を使っているせいだと完全に勘違いしているようだ。


 そんな俺は耐えきれなくなって遂に尋ねることにした。


 隣でずっと無言を貫いていた木ノ本に。


 囁くような小さな声で。



「な、なあ木ノ本。一つ聞いて良いか? 」


「なに? 」


「舞さんって本当は何歳(・・・・・)なんだ? 」


「……私もわかんない」



 その時、俺ははっきりと見た。


 質問に答えた木ノ本の大きな瞳が『知らないフリを悟られないように』微かに逸らされた瞬間を。






『猿君あっさりやられちゃったかー。四竦みの同じ仲間として情けないよー』


『一秒も持たなかったンじゃねぇカ? あっさりしすぎだロ』


『まあまあ。【布石】はちゃんと残してくれたんだ。それだけで良しとしようじゃないか』


『うんうん。そうだねー。仕方ないよねー。だってアイツ……俺達4人の中で明らかに一番弱かった(・・・・・・)しー』


『言えてるナ。その割に攻撃方法はノロイやら、デバフやらで俺たちも巻き込むハタメイワクな業しか持ってなかっんだよナァ』


『死んだ奴を後から腐すのはあまり感心しないぞ? 』


『はいはイ。あンたがいつも一番正しいですよッと』


『俺とやる気なのか……――? だったら初めからそう言え。犬っころ(・・・・)


『こっちはいつでもやる気だゼ? も――』


『あーもー……喧嘩はやめてよー。大将に怒られちゃうよー? 』


『……』


『ちっ! しらけたゼ……風でも浴びてくル』


『いってらっしゃいー……もう二度と戻ってこなくていいよー』


『……()。お前はいったいどっちの味方なんだ? 』


『ボクは鳥だよ。そして風見鶏でもあるのさー。常に強い方(・・・)の味方だよー』


『そうか……ならあの《3人の侵入者》の方につこうと思わないのか? 』


『……え? なんで? そんなこと(・・・・・)を聞くの? 』


『いや……悪い。何でもない』


『そうだよー。意味不明な質問しないでー。ボクは弱者につくことはないよー』


『ふっ……あの猿を瞬殺した相手をお前は弱者と切り捨てるか? 』


『え……だって普通考えてそうでしょ? わざわざ反撃しないと(・・・・・・)猿君ごときも倒せないなんて強さ弱さを判定するにも値しないよー』




――城本剣太郎たちが鬼怒笠村へ向かっている道中。



――時を同じくして、どこか。



――広大な鬼怒笠魔境のどこかで。



――成されていた会話から抜粋――。


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