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急襲・反応・瞬殺

 その時、何かを感じた。


 光でも、音でも、魔力の波動のどれでもない。


 どこかから伸びてくる視線を。



「剣太郎くん? どうかした? 」



 急に立ち止まった俺に、はじめに声をかけてきたのは木ノ本だった。


 片手は既に回復魔法の準備をしていて、とても心配そうな顔をしている。



「大丈夫。身体に何か違和感があるわけじゃない」


「そ、そう? 」


「ああ。マジで平気だ。嫌な感覚があったんだ。このまま歩いてるとダメなような……何かにずっと見られている(・・・・・・)ような」



 事情を説明すると、木ノ本はハッと思いついたようにその大きな目を見開いた。



「もしかして、さっき言ってた【索敵】に映らないモンスターとかかな? 」


「そうなのかもしれない。でも、これ以上はハッキリわかんねーや。スキルの情報でも、肉眼で見たわけでもなく。これはあくまで俺の感覚でしかないからさ。後ろにいた二人は何も感じなかっただろ? 」



 予想通り。女性陣は首を横に振った。その直後に木ノ本が聞いてきた問いかけで、俺はようやく嫌な感覚の正体を知ることになる。



「ねえ、剣太郎くん」


「なんだ? 」


「どんな視線だったの? 」


「どんな?……か。難しいな……なんて言えは良いんだろう……そうだ。あれは値踏みしているような……こっちの情報を全部、見透かされてるような……そんな視線だった」



 考えを整理できないままでも何とか言葉を絞り出そうとした俺は視線の主が明らかに友好的では無かったことを思い出した。


 そして木ノ本は何となくだが理解してくれたみたいだった。


 最後に舞さんはというと



「へえーようは城本くんの(・・・・)【鑑定】スキルと同じってこと? 」



 予想外の方向から俺の傷口をいきなり抉ってきたのだった。






「ごめん! 城本くん! ごめんて! 」


「いいんですよ。舞さん。謝るのはむしろこっちのほうです。確かに今までの俺、よくよく考えなくてもクソキモかったですよね。他人のステータスを……プライバシーの塊を……断りもなくホイホイ見るのなんて……マナー違反のヤバイ覗き魔野郎でしかなかったですよねー」


「城本くんのスキルには今まで散々、これでもかって位に助けてもらったよ! さっきのは……そう! 言葉の綾! 口からポロっと出ただけ! 」


「どちらにせよ正直に言ってもらってむしろ良かったです。ただ今さら教えてもらったところでなんすけど」


「……めんどくさー。男子高校生めんどくせー」


「舞さん……」


「えりー。見てないで少しは助けてよぉ」


「剣太郎君に見られて『キモい』なんて思ったこと私は一度も無い」


「ちょっと! 私だってあるわけないじゃん! 」


「仮にそうだったとてもさっきのは無いかなー」


「うぅー」


「舞さんはさ、男の人と喋る時にもう少し気を付けた方が良いよ。聞いたよ? 公安時代……伝説の……『同僚50人斬り』」


「ちょっ……誰から聞いたの? その話? 」


「昔はモテモテだったんだって? 」


「あー。あー。昔話はもう聞きたくない―――――」





「【影操魔術】――『縮地』」







(我ながら凄すぎる。完璧なタイミング。完璧な奇襲。こいつ等完全に油断しきっていて、だーれも俺のことになんか気付いちゃいねえ。だーれも視線を切った俺が()を伝って自分たちに近づいているなんて考えちゃいねえ)



「【呪殺拳】――『呪縛殺』」



(まずはお前だ! 死ね! 男! )



 このようにして騒いでいた3人のホルダーたちの背後を取った『猿』は呪いのこもった右手を掲げながら剣太郎に襲い掛かった。


 そして、これは決して『猿』単独の暴走ではない。


 むしろその逆。


 敵味方関係なく周りを巻き込む攻撃しかできない『彼』が敢行した、精一杯の捨て身の一撃である。


『彼』は欠片も信じていない。


『まさか自分ごときの一撃がこのバケモノに届きうる』――などと。


 だがこうも思っていた。


『せめて指の一本……欲を言うなら腕の一本ぐらいとは刺し違えてやる』――と。


 それが数百年の時を生きた『猿』最後の抵抗。最後の誇り。


 今までずっと迷惑をかけて来た仲間のために、彼らの恩へ報いるために、これから遅れてやって来る仲間がこの怪物を討てるようにするために、自らの命を捧げようとした。



「こうしていれば、お前は来ると思ったよ」


「――――――……窶犧(ぐぎ)ッッ!!? 」






「【棍棒術】――『乱打』」





 だが『猿』が最後に見た光景は、苦悶に歪む人間のオスの顔ではなく、自分の姿を完全に捕捉した三組の人間の眼だった。



『どうして? 』


『なぜ、分かった? 』



 そんな、疑問が頭の中で湧き上がった直後――思考を塗りつぶす無数の風切り音と打撃音。


 その音の出所が自分の顔面からだと知った時――――それが『彼』の――――『Lv.140 影猿武公(えいえんぶこう)』のあっけない最期だった。



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