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経緯②

 その一報はあまりにも突然で、和気藹々とした雰囲気を破壊するには十分な威力を持っていた。



「今日中って……まだ夜にもなってないのよ!? 今から!? すぐ!? 」


「はい。その通りです」


「そんな……会ったばかりで……」


「ごめんなさい……咲良さん」


「いやいや、ちょっと待ってくれ。今からって言ったって……お前ら、どうするんだ? 行く当てはあるのか? 」


「とりあえず。遠くです。東京から出来るだけ遠く。迷宮庁と管制支部のような公共団体。マスコミ新聞社その他の報道。全国魔力監視網。……ありとあらゆる監視の眼から離れた場所へ」


「んな……目茶苦茶だな……」


「どうして急に発つことになったの? 私達には教えてもらえないの? 」


「すいません。それは……それだけは言えません」


「……こちらこそごめんなさい。取り乱しちゃって。そうよね……迷宮庁からの連絡ってことは……必ず守秘義務があるものね」


「それだけじゃなく、国家機密に関わってるって線も考えられるぜ? 」


「ほんっとうにごめんなさい! これ以上は私からはもう何も言えません! 質問に肯定することもギリギリ……」


「いいさ。気にすんな! 」


「舞ちゃんが謝る必要なんて全然ないわ」


「だが、事前に考える必要はあるな。ここから二人がどこへ行くのか」


「女の子二人でノープランで出発はおススメしないわ」


「迷宮庁のセーフハウスとかは……どうなんだ? 」


「今回は……今回だけは使えないんです」


「なるほどなぁ……しっかし、それがダメとなると日本国内であげられる候補はさほど多くないぞ? 」


「東京は端から端までどこもダメ……そして人目がつかない場所ってことだよな……」


「樹海とかはどうなの? 」


「ダメだ。モンスターの潜伏が多数報告されている日本の森林内は既にありとあらゆる監視装置を迷宮庁の手によって設置されちまっている」


「詳しいな。マサヒラ」


「ホルダーになった直後。まだレベルが低かったからバイトで少しやってたんだ……まあ、んなことは良いんだよ! どうすんだ? それで? 」


「……ダンジョンの中……どうだ? 」


「マスター。珍しく冴えてるじゃない? 」


「シノさんの言う通り……確かに悪くない案だね。でも……」


時間が問題(・・・・・)ですね。ダンジョンの中にいる間は現実の時間は進まないので」


「木ノ本ちゃんの指摘もごもっともだし……最近はダンジョンがあれば一気に情報が回るからなあ。隠れる場所が多いダンジョンってのも限られるし絶対に隠れられる場所では無いかなぁ? 」


「じゃあ……どうする? 」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」



 こうして野良犬同盟一階のカウンター席は沈黙に包まれた。


 焦燥感。憂慮。不安感。哀願。危機感。決して険悪なムードではないが、このような行き場の無い気遣いの感情があふれだし、その辺を彷徨っている。


 俺にも覚えがある。この停滞した空気は明らかに危険だ。


 お互いの気持ちなんて全く察することは出来なかったし、年長者として酷い失敗をしてしまったけれど俺だってチームスポーツの経験者だ。この状況が良くないことぐらいは分かる。特に状況が差し迫っている状況だと特に。


 誰かが何らかの解決策を言う必要がある。


 何かないか? 何か……解決方法は……――。



「あ」


「なんだ? どうした? 」


「何か思いついたの? 剣太郎くん? 」



 一つだけ。思い付いた。


 絶対に人の眼が入らず、気づかれず、誰にも手が出せない完璧な場所を。


 きっかけは一昨日に聞いたばかりの『ある人の言葉』とマスターの『ダンジョンの中へ潜伏する』という案から。頭の中でぶつかった二つの記憶からは、俺にある空間のことを連想させたんだ。


 だが、この意見を実際に行うとなると無視できない大きな問題が一つある。



「良いよ。城本君。今はどんなアイディアも大歓迎だよ」


「じゃんじゃん。言っちゃってくれ。ソレを叩き台にしてもいいからな」


「わかりました。とりあえず、思い付いたことを言います……」


「うん」


「『魔境』へ行くのは……どうかな? 」



 



 ――ありとあらゆるメリットを帳消しにするほど危険すぎる(・・・・・)ということだ。

 

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