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龍王の蒼炎

 熱すぎる。


【火炎魔術】のスキルレベルが上がれば上がるほど俺の火への耐性は確かに高まっている筈だ。火傷と炎熱には慣れきっている筈だ。



「ゔあぁ゛ぁ……あ゛ぁあ゛ぁあ゛!! 」



 なら……なぜなんだ?


 なぜ俺は叫んでいる?


 なぜ身体中の毛細血管が膨張している?


 なぜ血液が沸騰し、皮膚が溶け始めている?


 なぜ眼球から、口内から水分が蒸発し、感覚がグチャグチャになっている?



「……はぁ……はぁ……! ……はぁっ! 」



 答えは一つだけ。


 この龍の蒼炎が俺の身に余る力だからだ。まだ(・・)使いこなせる段階に至っていないからだ。今の俺のレベルじゃ使っているこっちが焼き尽くされそうだった。



「……ぁあ゛あ゛……ぁあ゛! 」



 そんな絶え間なく続く灼熱地獄の中に身をおいてから経過した時間は既に『1分』。ギリギリになるまで火を放ち続けた結果。果てしなく続く苦痛の先にあるもの(・・・・)を俺は確かに少しずつではあるが掴みかけてもいた。



「これが……この火力が……龍王の力! 」



『龍の炎』を自在に操る感覚を。


 肌と炎の境界が無くなっていると錯覚するほどにドラゴンブレスと一体になった俺の身体は火炎そのものになったように不定形に揺れ動いていた。


 いつのまにか刻まれた封印は溶け消え、元通り魔力が全身に漲り始めていた。


 そして『火力』は文字通り、桁違いだった。



『……? 』



 たった一歩、足を前に踏み出した。


 俺がやったことはただそれだけなのに。


 空港を丸ごと閉ざした分厚い永久凍土が。


 空を覆い尽くす暗雲が。


 全てを覆う猛吹雪が。


 あらゆるモノを封じる凍てつく冷気が。


 冷たい翼をはためかせる天使たちが。



『――――――!!? 』



 ――成すすべもなく


 ――何もかも


 ――全て


 ――吹き飛ばされた。



「これは……」



 氷がはがれた滑走路のアスファルトはドロドロに溶かされ、煮えたぎっていた。


 まるで焼夷弾が何百発も直撃したような惨状に、開いた口がふさがらなかった。


 なんだこれは? 


 なんなんだこの熱は?


 こんな力を俺は使おうとしてたのか?


 こんな力を持ったドラゴンと俺は戦ってたって言うのか?



「はっ……ははっ……」



 思わず乾いた笑みが漏れる。自分が持ってしまった力の強さ、恐ろしさ、プレッシャーに今にも押しつぶされそうだった。


 でも……今の俺に迷う余裕なんてものは無い。


 空を見上げれば再び冷気を纏い始めた天使がいる。


 振り返れば路面にへたり込んで、今にも意識を失いそうな木ノ本と舞さんの二人がいる。


 そうだ。今は迷っている場合じゃ無い。


 自分の力に恐れるような段階でも無い。


 さっきも時分で言った通り。あの反則級の力を持った4人の天使を俺が殺る。


 今俺がするべきことはそれだけだ!



「【火炎魔術】……」



 空の上の翼を広げた4人の女が巨大な氷塊を創り上げていくのに合わせて俺も炎の大火球を構築する。


 血管が浮き出て、酸素が不足し、圧倒的な魔力が荒れ狂い、渦巻く蒼炎の大きさが人をビル一棟を丸呑みできる大きさにまでになった時。


 同時に撃ち放つ。



『―――――――――――――――!! 』


「『ファイアァ……ボール』ゥッッ!! 」



 それぞれが出しうる渾身の一撃を。


 全てを燃やす炎と、全てを凍てつかせる氷を。



「……ッ! クソッ! 」


『――!! 』



 身体を芯から凍えさせる冷気と骨の髄まで焼き焦がす熱の正面衝突。空中で破裂した両者の魔力は爆風めいた衝撃波を発生させ管制塔を風圧だけで崩壊させる。


 もちろん放った俺自身でさえも一たまりも無い。


 交互に来る熱さと寒さで体内温度を完全に狂わせた上、寒暖差に耐えかねた眼球が『破裂する』不幸にも見舞われた。



「『超再生』! 」



 でも焦らなくていい。落ち着け。今なら【自動回復】が使える。


 今の一撃はあのクソ天使でさえ少しは効いた筈。視覚の回復に使う時間くらいなら稼げている。


 必死で自分に言い聞かせた。


 いくら場数をふんだとはいえ。魔力と気配を察知する術を持っているとはいえ。視覚情報を完全に潰されるのは今でも不安だ。実力が拮抗した敵が相手だと位置把握が大まかになるのもかなりの痛手であることには変わりない。


 だけど、そんな時も『超再生』があればどうにかなる。こうして復活した目を見開き俺は敵の姿を探した。



「天使はどこに……――!? 」



 言いかけた言葉は衝撃と共に飲み込む。反射的に脳の回転速度を上げて、時間感覚を引き延ばし目に飛び込んで来た光景を何とか咀嚼しようとして――失敗した。


 なんだ……あれは?


 常に冷静であろうとした俺が冷静さを放棄した『代物』。放棄せざるをえなかった景色。



 それは(・・・)大きかった。


 ただひたすらに巨大で、雲を突き破るほどに高く、今まで天使が繰り出してきた質量攻撃がまさに氷山の一角であったことを強く認識させられた。



 それは(・・・)動いていた。


 まるで生き物のように鈍く、ゆっくりとした動きではあるが確かに足を踏み出しこちらにむかってきていた。



 それは(・・・)鳴いた。


 翼を根元から燃やされた天使たちを肩に乗せ、全世界にまで轟くような咆哮を俺に向かって放つ(ソレ)の名は氷結地獄(コキュートス)



『召喚獣 コキュートス Lv.222』。



 そして、それは(・・・)――――俺が見たモンスターの中で最大(・・)の大きさと、最強(・・)の力を持っていた。

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