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再会。そして……

 とりあえずまずは状況を整理しよう。


 巨大な氷塊が4つも空から落っこちたことがきっかけでベールのような、スクリーンのような、視線を防ぐ透明な結界が吹き飛ばされたのが事の始まり。


 破られた結界の隙間からいきなり吹き込んで来た冷たい風に気圧されながらも、俺はしっかりと目を開けて何が起こっているのかを見極めようとした。


 そうして俺は見つけた。


 ずっと会いたかった懐かしい顔を。


 今度は写真越しじゃない。


 名前も表示されているので間違いがあるはずがない。


 頭の方はかなり治ってきていた。さらに驚きと、喜びの感情も加わって深い集中状態へ突入した俺の脳と視神経は視界をスロモーションへと自然に切り替わる。


 降りかかる氷の障害を念力で砕くと、俺は走った。


 ひたすらに足を前に動かした。


 早く。出来るだけ疾く。


 あの子の元へ。


 それから現在。



「久しぶりだな。木ノ本」



 俺はようやく木ノ本絵里の前に立つことが出来ていた。



「嘘」


「本当だ」


「剣太郎君……本当に嘘じゃないの? 」



 俺と目があった木ノ本は最初、目を丸くして驚いていた。まるで死人でも見たかのような表情で。


 でも俺が無言で力強く頷き返すとすぐにその面持ちを変える。


 複雑な感情を内包した顔。言葉は無い笑顔と泣き顔のちょうど中間。言葉は詰まって出てこないみたいだった。


 だけどたとえ言葉が無くとも、俺には十二分に伝わった。木ノ本がこの再会を喜んでいてくれているってことを。


 それだけで、久しぶりに会えた随分と強くなった様子の友達のそんな顔を見れただけでも胸がいっぱいだった。



『――――――――――――――――――』



 だけど積もる話は後にしなければならなそうだ。歌声と共に強烈な吹雪が俺たちに襲いかかってきているのだから。



「『パワーウォール』! 」



 壁を張り、風を正面から受け止める。何とか防ぎきれはしたがとんでもない風力と風圧だ。さきほどの4つの氷塊の質量といい相手はかなり手強いらしい。


 けどこっちの【鑑定】の準備は整っている。早く姿を見せろ。


 俺の心の声が届いたのかどうかは分からないが吹雪は晴れる。それと同時に空を見上げると、そこには見知らぬ4人のホルダーが浮かんでいた。


 全員が女だ。背中から翼が生えていること以外は見た目は俺とあまり変わらないくらいの歳で、4つ子のようによく似ている。


 だがレベルは全員が99。魔力は高いが先程の出力を出せるとは到底思えない。


 じゃあ一体さっきの攻撃は……?


 本調子じゃない頭を必死に回しながら俺は魔力を高めていく。


 すると天使のような見た目をした4人も俺に釣られるように魔力を昂らせる。



「……ッ!? 」



 その時、俺は確かに感じた。この4人の魔力が一つに混ざり合い増幅していく様を。


 なんだこれは? 


 こんな現象が本当にありえるのか?


 魔力の合成……いや共鳴(・・)とでも言うべきか? 


 俺がそんな答えの出ない分析をし続けている間も、彼女等の魔力はどんどん深く、大きく、強くなっていく。


 聞けば精神を侵されるような歌声も相まって俺の思考は敵を前にして深く沈んでいきそうになる。



「『双天跋折羅(クロス・ヴァジュラ)』! 」



 そんな俺を目覚めさせたのは一本の雷撃。


 その一撃は凄まじく速く、力強い音を轟かせた。練り上げられた純度の高い魔力が光となって滑走路を右から左へ一直線に突っ切っり、一体に着弾。



「――――ッ! 」



 翼の防御が間に合わなかった天使は人間離れした苦悶の叫び声を上げた。


 空いた隙を見て視線を切った俺は雷の発生源を見る。



「貴女は……! 」



 ここから百メートルほど離れた視線の先にいたのはさらにもう一人の懐かしい顔。迷宮庁にいるであろうことは予想はついたがまさかここで会えるとは思わなかった人物。



「舞さん! 」


「剣太郎くん!? 本物なの!? 」



 また本人かどうか確かめられてしまった。二人は俺の偽物でも知り合いにいるんだろうか?



「それは後ほど! 今は加勢します! 」


「ま、待って! その前にまず――――避けて(・・・)ッ! 」



 舞さんの必死な静止の直後、俺は冷気とは違った寒気を感じた。本能的な恐怖。虫の知らせとしか言いようがない危機感を。



「『超反応』! 」



 勘に従って身を躱したその刹那、俺の立っていた場所に氷が盛り上がる。


 この氷は……?



「【鑑定】」



 特に意味はない習慣化された流れ。もはや癖のようになっていた【スキル】の使用をした俺は本日最大の驚愕をすることになった。



「【凍結魔術】……だと? 」



『魔力が足りる限りこの世のありとあらゆる(・・・・・・・)モノを封じることができる』だと?


 なんて滅茶苦茶な……効果……。舞さんが止めたのはこういう理由だったのか。


 しかしその強力過ぎる力を持った魔法にも穴が無いわけではなさそうだ。特に魔力が足りる限りという記述。ここに【凍結魔術】攻略のヒントがあると見た。


 さて、どうする? この状況での最適解は?



『―――――――――――――――――――! 』



 地上の俺と空の上の4人は睨み合いになった。油断なく天使たちを見つめている間も吹雪はますます強まっている。


 そんな過酷な状況の中で聞く天使の歌声は中々脳に効いた(・・・)



「大丈夫か? 」



 一番距離が近い木ノ本に声をかけると『心配はいらない』と言いたげな否定の首振りが返ってくる。



「私は平気。舞さんも大丈夫だと……思う。心配なのはさっきから見つからない……もう一人。息を潜めて襲ってくる機会を伺ってるのかも……」



 なんだと?



「誰がだ? 」


「名前はわからないけど男の人。たしか……『室長』って呼ばれてた」



 また出てきたぞ。その『室長』とやら。人形使いやイル・ガントの所属している組織の重要人物であることには間違いないが一体何者なのか? 木ノ本を狙って一体何がしたいのか? 甚だ検討も付かない。


 しかしタイミングが悪いな。頭が治りきってない今【索敵】はほとんど使い物にならないし気配を追うこともできない。【索敵】は【念動魔術】のような大雑把に扱うことは出来ない『繊細な魔力操作』が要求される【スキル】だし気配を追うには魔力が辺りに立ち込め過ぎているからだ。


 ここからは相手の思考を推測するしかない。奇襲を狙ってくるなら恐らくは居るのは俺たちの死角から。つまり背後か?



「間に合ってしまったか。この分だと作戦の成功は半分だけだな……」



 だが意外や意外。


 男の声が聞こえてきたのは俺たちの頭上。


 ……空を飛ぶ天使たちの中心からだった。



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