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魔力共鳴

【雷撃の魔女】。


『管制官』唐本舞の最も有名な二つ名である。名の由来はもちろん彼女の持つ魔法【雷撃魔術】から。


 レベル3桁の壁を打ち破った卓越したステータスから放たれる全てを焼き尽くす『光の槍』は、25にも満たない一人の元女性警官を世界でも指折りの実力者へと押し上げた。


 そんな【雷撃の魔女】の現在のレベルは125、世界順位は63位。2桁順位に名を連ねることが出来た観測史上3人目の日本人である彼女は余り世間には知られていないもう一つ(・・・・)の二つ名があった。


『日本最速』。


 シンプルかつ印象的な響きを持つその四字の名は唐本舞というホルダーを表す上での誇張表現ではない確かな事実(・・)である。


『30万』の[敏捷力]と【雷撃魔術】によって付与される帯電時限定(・・・・・)の敏捷値『10倍』補正をもつ魔女の速さは『最高速度は光速の3分の1』とも言われている雷光そのもの。


 秒速(・・)10万キロとも言われている雷の速さを人の身で体現する彼女に攻撃を当てるどころか、触れることができる存在なんてどこを探しても居やしない。


 敵も、味方からさえもずっとそう思われていた。



「捕まえろ」



 だが現在。


 日本最速はに確かに追い立てられていた。都合4名の天使達(・・・)に。


 室長の指示に無表情かつ無言で付き従う翼の生えた彼女等の速さはマグレではなく【雷撃の魔女】に迫っていた。


 魔力を全身から迸らせ空を自由自在に舞う5つの影。


 奔る稲妻と吹き荒れる氷の礫。



「『極限跋折羅ウルティマ・ヴァジュラ』!! 」


『――――――――――――――――――』



 歌う天使と叫ぶ魔女。


 4対1の空中戦の攻防は互角だった。


 目まぐるしく体制や位置を入れ替えながら【魔法】を連射する彼女等の力はその瞬間、間違いなく拮抗していた。



「もう十分に待った。さっさと『終わらせろ』」



 ……室長のそんな号令が下るまでは。



「……? 」



 違和感を最初に感じたのは相対した魔女だった。



(今……急に速く……? )



 視界の中に捉えていたはずの、よく似た4つの人影がブレる。見失う。消える。


 眼前で起きた異常事態に唐本舞は取り乱すことなく距離を取ろうとした。



「……っ!? 」



 だけど最早、雷程度(・・・)では足りなくなっていた。



「やっと追いついたか」



『速さ』が。



「よくその目で見ておくがいい。木ノ本絵里よ」



 そして5人のスピードが並んだ時。



「君の護衛が狩られる瞬間を」



 均衡はあっけなく崩れた。



「っ! 『月下春雷(げっかしゅんらい)』!! 」


『――――――――――――――――――ッ』



 当たらなかった攻撃が当たる。当たっていた攻撃が当たらない。この短い間での変化は余りにも影響が大きすぎた。


 攻撃の数が減り、回避や防御が増えていく。


 自由だった筈の空中での逃げ場が消えていく。


 保っていた息もどんどん乱れていく。


 放たれる雷撃の数を氷塊が圧倒し始めた矢先、遂にその時は訪れた。



「舞さん! 」



 バランスの崩壊。墜落する魔女。


 少女は名前を呼びながら、落下地点に必死で身体をねじ込んだ。



「【全回復魔法(ヒールオール)】!! 」



 結果、無事に受け止めて負傷を治していく……その間も室長は天使に攻撃の指示を出そうとはしなかった。


 なぜ男はその時、静観したのか。何を考えていたのか。


 その理由を、その内容を本人以外には知るよしもないし、まさか誰かが思いつくはずもない。



(魔力の四重同調は成功だ。準備は全て整った……)



 傍らの治療を放置して、室長が見つめるのは組織の最高傑作にして最終兵器であるレベル99の天使達。


 見た目は美しくいが最終兵器と言うには心許ない強さだと何も知らない人間は言うだろう。


 レベル3桁の超人に2桁をいくら集めても適うはずがないと自称識者は指摘するだろう。


 しかし室長は知っていた。組織で産み育てられてきた彼女等は四人一組で想像を絶する力を発揮するということを。



(さあ……共鳴(・・)しろ)



 さて、ここで一つ魔力についての話をしよう。


 ホルダーの持つ魔力がそれぞれ固有の波長と振動数を持つことは複数の研究機関から以前より報告されてきた『確か』とされる学説である。魔力の波長はまるで指紋や声紋のようにホルダーを識別できるため、署名代わりに使われている場所もあるほどだ。


 それだけ魔力とは一つとして同じものが無く絶対に不変であると信じられていた。偽装や加工は不可能であると思われてきた。


 しかし3週間ほど前。


 アメリカのある研究系クランによって『双子のホルダーが【魔力共鳴】という現象を引き起こした』事実が発表されると事態は一変する。


 遺伝子的に近しい多胎児同士(・・・・・)の魔力は波長も近く、互いに干渉しやすく、意図的にぶつけ合うことで『共鳴』することが分かったのだ。


【魔力共鳴】が可能にしたのは魔力パターンの変容と魔力の増幅の二つ。


 衝撃は世界全土に一瞬で駆け巡った。この【魔力共鳴】による魔力の増幅は際限なく(・・・・)高められる可能性があったのだから。


 そんな『無限の魔力』に魅せられた人々は、その原理を研究し事細かに解明しようとしてすぐに『失望』した。




 限りない魔力の増幅を行うためには



『レベルやステータスだけでなく【スキル】と【魔法】の種類やレベルも全て同じ数値の一卵性の多胎児』



 という雲をつかむような存在が必要であることが分かって。




 このように『無限の魔力』の夢はとん挫した。


 誰もが【魔力共鳴】の存在を忘れた。


 そう表向き(・・・)には思われていた。


 そう。まさかだ。


 まさかいるとは思わない。


『 no name (年齢:18歳) Lv.99


 職業:無

スキル:【凍結魔術 Lv.30】【天使の翼 Lv.11】

    【霊感 Lv.10】【索敵 Lv.10】


 称号:≪異世界人≫≪運命の四つ子≫≪復讐者≫


  力:66211

 敏捷:64563

 器用:28712

持久力:49239

 耐久:30224

 魔力:99999〔98709/99999〕 』



 4つ子の姉妹を全てが同じ数値のホルダーに育て上げるような時代錯誤で馬鹿げたことを考えた『団体』がこの現代に存在するなんて。


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