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狂信者

 隣りで立ち尽くす室長とともに。視界正面で行われた治療行為に対して止めることなく、攻撃を加えることも無くただ茫然と見つめ続けていたトカゲ。



(なんなんだよ……ヒーラーがただ回復魔法を使っただけだろ? ただの治療行為だろ? なのになんでだ? なんで身体が動かないんだ? なんで俺はこんなに『ビビってる』んだ……!?)



 彼の内心は見た目以上に荒れていた。


 自分の身を襲う原因不明の悪寒。根拠不明の畏怖。不可思議な硬直。


 すべてが理解不能だった。


 わけが分からなかった。


 深層心理や無意識の表情すら完璧にコントロールすることが出来るはずの『潜入のプロフェッショナル』は年端もいかない少女の発するオーラに気圧されていたのだから。


 しかし、横を見たトカゲはさらに驚くことになる。ずっと自分と同じように黙りこくっていた上司が弾き出したように笑い出したからだ。



「はははは! なんと……なんと美しい(・・・)!」


「え……?」


「やはりそうだ! 間違いない。木ノ本絵里。彼女は【神威(しんい)】を持っている!」


「!?」



 トカゲはひたすら困惑した。長年の付き合いがある上司の言っていることが初めて何一つ分からなかったから。



「やっと見つけた。これで全てのピースは揃った!」


「……」


「けれどまさか日本に全てが集まってるなんてね。これも因果なのか? それとも世界の意思か? 」


(ダメだ。さっぱり分からない……)



 室長の呟きに必死に耳を傾けてみるが、困惑がますます深まっただけだった。頭の中に浮かんだ疑問符が増えただけだった。


 故にトカゲは聞く。



「あの……何があったんです?」



『組織』の中で唯一、信を置ける上司に。自分が現状を把握できていないことを素直に白状する。


 すると室長は口元に柔らかい笑みを浮かべた表情のままこちらに振り向いた。



「うん? わからないか? トカゲ?」


「……はい。恥ずかしながら」


「そうか……たしか君には言っていなかったかな……では聞こうトカゲ。我らが組織が存在している理由は何だ? 」


「【魔王】の脅威から世界を救うことです」


「さらに言うと? 」


「そのために現代に蘇らせよう(・・・・・)としています。……【勇者(・・)】を」


「上出来だ。記述問題なら百点満点をあげてもいい」


「……ありがとうございます」


「まさに全てが君の言う通り。組織の最終目標は『勇者の復活』。今まで我々が主導した全ての行動はその一点に集約されている」


「……」


「しかし【魔王】がより強大な力を付けるためには上等な『贄』が必要なのと同じように。勇者復活にはいくつかの材料(・・)がいる」


「……?」


「しかし幸いなことに。今日この場所で『必要なカードは全て揃った』。あとは集めるだけ。もうコソコソと裏から表の状況に手を回し、干渉する必要はない。つまりはそういうこと(・・・・・・)だ」


「え」


「トカゲ。今まで本当にご苦労だった。君の潜入という特殊技能には何度も、何度も数えきれないほどに助けられた」


「……?」


「ありがとう。組織から君に最大限の感謝を送ろう」


「……!?」



 組織に属している冷静沈着な『潜入のプロ』は現在、過去最大級の混乱に襲われることになった。焦燥感が身を焦がし、生物としての本能が今すぐこの場から立ち去ることを脳が必死に訴えていた。


 何よりトカゲは知っていた。この室長と呼ばれる日焼けした肌をした親しげな男が『使えなくなった部下』を何人も消して(・・・)きたことを。


『組織』にいる人間は2種類にタイプ別される。


『組織』の活動理念に強く共感し、場合によっては自らの命すらも捧げることができる狂信者(・・・)


『組織』に所属していることで得られる利益を享受したいだけの風見鶏(・・・)


 もちろんトカゲは……後者(・・)だった。



「あ、あの! 俺は……!」


「言わなくてもわかっているさ。でも……僕ら二人の深い関係に『別れの言葉はいらない』……そうだろう?」


「……ッ! 」


(ダメだ……この人……話が通じない……!)


「なあに、心配はいらない。『注射と同じ』だ。ほんの一瞬……痛み(・・)に耐えるだけだよ」


(殺される……!! )



 そして室長は……前者(・・)の代表例だった。


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