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頼れる者達。そして……

『正常性バイアス』という言葉もある通り、人間は危機や災いを直視し難い生き物だ。その社会性の高さから周囲の人間や自分自身の不安感を煽る行動を避け、見ないようにする。


 多分、言葉の使い方は間違ってるけど、俺も正常性バイアスと似たような精神状態になっていたんだろう。


 木ノ本と会えるかもしれない直前というタイミング。


 沢山の非ホルダーの人達がいる羽田空港という場所。


 冷静な蕪木と感情的ではあるが場慣れしていて信頼できるマサヒラ。


『何事もなく今日という日が無事に終わりますように』という願いからか。


 いつのまにか安心していて、無意識のうちに安心しようとしていて、俺の目は曇っていた。耳には膜が張っていた。



「【鑑定】! 」



 その結果は今、この地獄のような状況に帰結する。


 俺たち3人は人形の群れの中心にまんまと誘き出され集中攻撃を食らっていた。



「剣太郎、どうだ!? 」


保持者(ホルダー)の数がとてつもなく少ないので確実とは言い切れないですが……この人達には『人形化』の状態異常(デバフ)がかかっています! 」


「人形化……? 」


「俺が前に戦った敵が使ってきた【人形操法】というスキルの能力です! 針を突き刺して人形化させた人間を糸で操ることができます! 」



 マサヒラに叫び返しながら俺はまた一人の掴みかかってきた指を引き剥がした。


 クソ! 力の加減がムズすぎる! 相手の身体を壊さずに攻撃を捌ききるのがこんなに大変だったのか! 



「デバフの解除方法は!? 」



 今度は蕪木が人形化した主婦の攻撃をヒラリヒラリと躱しながら聞いてきた。


 俺は【念動魔術】で人の海から宙に脱出しながら雑踏の足音に掻き消されないように声を張り上げる。



「俺の時は本体を直接叩きました! まあその本体も術者本人ではなくあくまで中継地点だったんですけど……」


「なるほど……じゃあここにいる俺たちはこの数(・・・)を相手にしねーといけないってわけか!? 人気者過ぎて涙が出てくるぜ! 」



 鞘付きの刀で次々と人形たちの足を引っ掛けていくマサヒラは強がっているものの明らかに疲弊していた。


 そう言っている今もターミナル内には操られた人形達が至るところから雪崩込んでいる。


 人形使いの……術者の意図がわからない以上、操られている人達を放置することは出来ない。もし無力化しようとするのならば僅かでも人形達に攻撃を加える必要がある。


 だがしかし……俺は……。



「城本剣太郎! 一つ提案がある! 」


「なにがですか!? 」


「ここで二手に(・・・)別れないか!? 」



 そんな俺の苦悩を打ち切ったのは蕪木の衝撃的な一言だった。



「……どういうことです!? 」


「あくまで俺の予想だがこの人形の軍勢も! さきほどの迷宮開放軍も! とある一つの目的を遂行するための『陽動』だ! 」


「陽動……? 」


「囮! ブラフ! ハッタリ! 敵の視線を反らし、本来の目的を確実に通す策だ! 我々はまんまと敵の術中にハマっている!! 」


「本来の目的……って!? 」



 苦し気に息を吐くマサヒラに、蕪木は怒鳴るように返答した。



「木ノ本絵里だ! 間違いない! 敵は彼女と接触を狙っているッ! 」



 蕪木の言葉が耳に入った瞬間、思考は停止し、心臓は止まりかけた。



「誰かが木ノ本を……殺そうとしてるんですか!? 」


「そこまではわからん! だがこの強引な方法から鑑みるに相手は碌な連中では無い! だから城本剣太郎! お前が先に行け! 彼女の到着場所はスマートフォンにさきほど送っている! 」


「でも……ここは!? 」


「逆に一つ聞きたい! 『操られた哀れな人質たち』を傷つけることなく無力化する手立てを果たして君はもっているのか!? 」


「……ッッ!!」



 図星だった。悪意のあるホルダーに操られた被害者達を無傷で救うには俺の【スキル】や【魔法】ではあまりも効果が大雑把に過ぎる。もちろん力のコントロールは[器用]を強化するなどして散々試みてきた。それでも[耐久力]が一切ない。ステータスを持たない人達を壊さずに扱う(・・・・・・)自信は俺には……無い。



「【餓鬼門(スターブゲート)】! 」



 一方で蕪木は人の間隙を縫って新たなスキルを発動させる。


 GCAのリーダーを中心にして展開した『腹の膨れ上がった鬼の意匠があしらわれた巨大な門の絵』は、踏んだ全ての人形達から立つ『気力』を奪い取った。



「これは……! 」


「【餓鬼門(スターブゲート)】……自分のレベル以下の生き物から体力を、ホルダーから持久力を奪うスキルだ。コイツがある限り俺は負けん」



 そのスキルの強力さに驚く間もなく



「今度は俺の番だ! 見てろよ! 剣太郎!! 」



 赤き侍は蕪木の造った道を柄に手をかけながら疾走していた。



「……! マサヒラ!? 」


「喰らえ……【幻影刀(げんえいとう)】『参ノ型(さんのかた)魄切斬(はくせつざん)』」



 居合のごとく抜き放れた【切腹剣】は人形たちの『鼻先』をなぞるように振り抜かれた直後



「んな!! 」



 間合いの近くにいた数十人を昏倒させた。



「ほう……意識だけを両断したか。やるではないか」


「限定ダンジョンじゃ情けねぇところばかり見せちまったからなぁ! 頼りがいのある大人としてはこんぐらいはやらねーと! 」



 そうやって笑いかけて来たマサヒラはこの瞬間、確かに頼れる兄貴分だった。


 そして蕪木は今までの説明を総括するように俺に通告した。



「適材適所という言葉もある。『卵を割らずに運ぶためにショベルカーを持ち出す馬鹿はいない』。城本剣太郎。この場所で君は……役立たずだ(・・・・・)



 戦力外であることを。



「未成年相手にもっと優しく物を言えねえのか!? 」


「これが性分なんだ」


「まあ、こんな野郎のことは置いておいてよ、剣太郎。聞いてくれよ……お前は分からねーかもしれないが内心俺……目茶苦茶興奮してるんだぜ? 」


「え? 」


「だって今から『死ぬまでに一度は言いたいセリフ第一位』をここで使えるんだからな! 」


「おいまさか……」



 露骨に動揺した蕪木の静止を振り切ってマサヒラは盛大にポーズを決めながら俺に宣言する。



「剣太郎! ”ここは俺に任せて先に行け”!! 」



『決まった』と小声でつぶやく侍に六大クランのリーダーは『イヤイヤ』と首を振りながら深く大きなため息をつく。



「はぁ~~。江野田マサヒラ……お前はガキか?」


「んだとぉ!? 俺はお前の部下に散々……」


「…………………………………………ありがとう」


「……――剣太郎? 何か言ったか? 」


「いや! 全部終わった後に言います! 」


「そうか! なら行ってこい! 」



 マサヒラの力強い言葉に導かれるように俺は足腰に力をこめた。視線の先にあるのは二人が創り出してくれた道がある。


 憂いは全て二人がこうして消してくれた。


 後は、その名を叫ぶだけ。



「『全力疾走』!! 」



 走り抜けろ。最後まで。



「ァ唖ア……アァ䵷ぁ……饜ぁ屙ァ氬……!! 」


「――『瞬間移動』」



 人形の妨害は速さでぶっち切った。



「ターゲット接近! 距離…………――――50!? 」


「懸賞金10億! 生け捕りなら20億だぁ! 」


「弾丸の出し惜しみはいらん! 殺す気で行け! 」


「――『パワーウォール』」



 機関銃の弾幕は念力の壁で無力化し



「バケモノがぁ! アレだ! アレを使え! 」


「――『ホームラン』」



 携帯型の地対空ミサイルは爆発の前に空港の外へ吹き飛ばした。

 

 羽田の出発ロビーはそれほど大きくはない。


 もうすぐだ。


 あと少しで……木ノ本に……!





『今あなたに木ノ本絵里の元へ行かせるわけにはいきません』





 その男の声は、脳内に直接響くように聞こえた。



「誰だ!? 」



 虚空にむかって叫んだ。バットを握りしめ、【念動魔術】と【疾走】は絶えず働かせながら。


 しかし妙に丁寧な口調の男ははぐらかす。



『栄えある地球最初の討伐者であるアナタに名乗るほどのモノではありません』


「なら誰でもいい! どっかに行ってろ! 俺の邪魔をするな! 」


『いいえ。そうも言ってられません。これが私の仕事です』


「だったら速く出てこい。さっさとケリをつけてやる」


『ははは。御冗談を。まだ魔王を倒すにも至らない2桁ギリギリのわたくし如き(・・・・・・)がアナタに敵うはずがないじゃないですか』


「……? なら何で出て来た? 」


『私もそう思うんですがね? ただ私が役立たずの『持たざる者共(ノン・ホルダー)』と一つ違うのは……アナタを1週間ほど(・・・・・)足止めするのなら訳ないとうことです』


「!? 」



 脳内の男の言っていることを理解する間を与えられる前に――



「ターゲット接近! 距離…………――――50!? 」


「懸賞金10億! 生け捕りなら20億だぁ! 」


「弾丸の出し惜しみはいらん! 殺す気で行け! 」


「…………………は? 」



 ――『どこかで聞き覚えのある会話』が進行方向から(・・・・・・)聞こえて来た。



『歓迎しましょう。ファーストブラット。我がもう一つの迷宮(ラビリンス)へ! 』



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