動画への反応
剣太郎が暮河駅前で行ったパフォーマンス。
家族や知り合いに自分がまだ生きていること、日本に帰って来たことを顕示するための行動は狙い通り多くの人の目に触れた。
ただ、その行為によって波及した影響は期待していた何倍、何十倍も遠くまで広がってしまっていることを本人はまだ知らない。
最初に話題になったのはもちろん動画の内容だった。
片手間に行われたレベル48の『ダンジョンイーグル』の撃破。
はるか上空から魔法で直接撃ち落とすという前代未聞の方法。
それだけの事をしたのにも関わらず、魔力切れも起こさず平然としてる術者。
現在何千万本も投稿されているホルダーのどんな『戦闘動画』にも類似性が見つからない斬新で規格外の『狩り』の様子は撮影された日本だけでなく全世界でも拡散された。
そのようにして動画が広まり、何度も何度も視聴していくうちに人々はあることに気づく。
『この動画の人、片手にバットをもってないか? 』と。
こうして一度広まり切ったこの動画は再び広く拡散されることになった。今度は様々な言語で翻訳された『消えた金属バットの帰還』というタイトル付きで。
ネット上でも、現実でもこの一本の動画は激しい議論と争いを生んだ。なにしろ自らを『金属バット』と名乗る偽物は全世界で今まで五万と存在していたからだ。
『どうせ今回もフェイクなんだろ? 』
『金属バット本人ならバットを使って倒すんじゃないかな? 』
『Dabbleか? 金属バットは魔法も使ってたじゃん』
『本物なら本物ですって本人が言うだろ』
『それにしても有り得ない出力の魔法。【突風魔術】かな? 』
『イングランド人の上位順位持ちが使ってる【重力魔法】に近いと思う』
『ダンジョンイーグルって人間を狩る時以外は雲の上の高度を飛んでるんだよな。そう考えると……ヤバくね? 』
『迷宮鷲は[敏捷力]もレベルに比して、かなり高かったはず』
『どっかの情報サイトで最高時速千キロって見たぜ』
『やっぱりCGと本物の【魔法】は違うんだよなあ。CGはどうしても変なクセが出るからね。そして間違いない。これは本物だよ』
『彼が本当に金属バットなら世界ランクは大きく変わるだろうね』
『マジ? 俺の推しの順位また下がっちゃう……』
『1位のアイツ嫌いだったからせいせいするわ』
『さすがに【覇王】には勝てねーだろ』
『それは逆に金属バットを舐め過ぎ』
『それで結局、本物なの?』
動画が撮影された当初と比べると少し熱が落ち着いた現在も少しずつ動画は広まっていき、内容の真偽の議論はネットの片隅で盛んに行われ続けている。それだけホルダーの間には『金属バット』の存在は大きく、強い意味合いをもっていたのだ。
そんな大きく強い力を持つ波はとうとう『ある二人組』のところまで辿り着いていた。
「ねえ、お爺ちゃん? 」
「んん? どうした? 腹減ったか? それともまた、トイレか? 」
「ち~がーう! これ見て」
「おお? 」
「似てると思わない? この動画の人……兄さんに」
「んん〜? 随分と画質が荒いなぁ。設定でどうにかなんねーのかい? 」
「そこは我慢してよ……お爺ちゃんも前言ってたでしょ? 『電子機器はまだチャンネルが合いきってない』って」
「そうだったっけ? 」
「絶対に言った。スマホのカメラで奇麗にダンジョンを撮るにはもう少し時間がかかるとも言ってた! 」
「それはそうなんだがなぁ」
「それを踏まえてどう? 似てない? 」
「似てる……ような似てないような? やっぱり分かんねーな。これだけじゃ」
「むぅ~……」
「ワハハハハハ! まあ、そう拗ねるな! 大丈夫! アイツは強い! その動画が本物であれ、偽物であれその内ヒョッコリ帰ってくるさ」
「でも……心配だよ…………」
「だな。けど妹に心配かけてることを兄貴が知ったらきっと悲しむし、絶対に自分を責める。俺たちは……そうだな……アイツのことを信じて待ってればいい」
「そう……かな? 」
「そうだとも」
「そっか……わかった」
「よしいい子だ。今日の目標はこの山を越すこと。さあ行こう」
「はーい」
歩みを再開させる二人がいる場所。そこがいったい『どこ』なのか。剣太郎が分かるのはもう少し先の話である。