一筋の光明と隠された罠
制限時間は刻一刻と近づいている。迷ってる暇は本当にないんだ。もう重々わかっている。頼れるのはあの人達だけってこと。今、俺ができることはもう信じることだけなんだ。
さあ言え。頼ることから逃げるな。剣太郎。
「マサヒラ! それとここにいる全員にも! 一つ頼みたいことがあります! 」
「なんだ!? 」
「この部屋のどこかへ隠れているはずの10体目を見つけてほしいんです! 」
「10体目……だと? 」
「その本体である10体目が他の9体を操っているんです! 微かに漂っている気配から察するに本体はかなり弱そうですが、透明になれるスキルを持っています! ここにいる全員でソイツを協力して見つける必要があるんです! 」
自分でもいきなり無茶なことを言ってるのはわかっている。ただ、皆を復活し続ける人型から守りながらも透明な10体目を探すのを俺一人でこなすのは無理だ。
だからどうか頼む。どうか……。
その時俺は人型の復活の隙をついて、一度瞬きをする。冷静さを保つために。戦闘中開ききった目の乾きを軽減させるために。
周囲から目を離していた直後、気づけばサムライは満面の笑みを俺に向けている。太陽のような明るい顔だった。
「わかった! こっちは任せろ! 剣太郎は!? 」
その大声につられて、こちらも叫び返す。
「俺は時間を稼ぎます! [持久力]が保つ限り『赤いの』の復活を阻止します! 」
ありがとう。マサヒラ。これで残り時間、俺は敵に集中できる。
さあ、あと20分。締まっていこう。ここからのラストスパート。
もってくれよ俺の身体。皆が見つけてくれるまで絶対に耐え抜くんだ。
(頼まれちまったのはいいものの。どうする? 魔力を完全に封じられちまった今の俺に……俺たちに何ができんだ? )
マサヒラはすぐ隣で呆然と剣太郎を見つめる男に声をかけた。
「おい鬼川。今使えるスキルは? 」
黒いツナギを掴まれ、揺さぶられると鬼川は余罪を白状するように吐き捨てる
「……魔力を禁じられてる今、僕が使えるのは【奴隷作成】の技の一つの『奴隷解放』だけだ」
「……」
(色々言いてえことはあるが……怒るな。苛つくな。焦っても仕方がない。俺がキレても状況は好転しない。冷静になれ。今は冷静に……)
「……GCAのその他の連中は? 」
「わ、私達第24戦闘班は将来を渇望された後衛魔術師でのみ造られた部隊であるため……」
「あ? 聞こえねえ。何が言いてえんだ? 」
「な、なので……我々にできることは……」
そこがマサヒラの我慢の限界だった。
「はぁ!? 今まで随分と大人しいと思ったら、お前ら全員役立たずかよ!? 前衛はどうした!? ダンジョンに一度も潜ったことがないなんて言うつもりじゃあないだろうなぁ!? 」
「そ、それは……鬼川班長の……」
口ごもるツナギの集団。彼らの表情から赤きサムライはギフテッドコープスアソシエーション第24戦闘班の『全て』を察した。
「お前らは後ろで安全に魔法を使って、他は全部『奴隷頼り』だったってわけか……? はぁ~……見下げ果てた奴らだな! 」
項垂れる全身真っ黒の集団を見て深いため息をつきつつも、普段はもっぱらソロでダンジョン内を探索するマサヒラの脳内は冷静に回り続けていた。
(しかしこの現状は良くない。6人の足手まといと俺1人じゃこの状況を打破できるようにはとても……『アレ』を使うか? でもそれじゃぁ剣太郎に迷惑が……)
「あ、あの……? 」
「どうする? 考えろマサヒラ」
「あ、あの」
「10歳以上離れている年下があんなに頑張ってくれてるのに。俺が黙って見るだけでいいわけねえだろ……! 思いつかねえと。何か手は……」
「あのぉ! 」
「あぁ!? 」
「ひっ! ご、ごめんなさい」
「い、いやすまん! 怯えさせるつもりじゃなかったんだ」
(やっべ。鬼川が無理やり連れて来た子だったか。すっかりいるのを忘れてたぜ)
マサヒラがそう思うのも無理はない。この限定ダンジョンに運悪く入り込んでしまった4人の奴隷たちは危険なダンジョンに入ってからもずっと一言も話さず、動かず、座り込んでいたのだから。まるで感情が抜け落ちたように。地上にいた時と変わらない全てを諦めたような表情をして。
故にその内の一人、それもいかにも気弱そうな女性がまさか強面の自分に話しかけたとは思わなかったのだ。
「それで、どうした? 出来れば手短に頼む」
「透明なモンスターを探したいんですよね……? 」
「そうだ! 」
「もしかして……少しなら『協力』できるかもしれません」
「なんだと!? 」
限定ダンジョンでの戦いは架橋に入りつつある。その中で死の迷宮に吸い込まれた哀れな人間たちが見出した光明はか細く小さいものだった。
一方で大きな体育館にも匹敵していたダンジョンは現在、教室にも満たない大きさにまで変わっている。
制限時間の一時間。そして部屋の収縮ぺースに隠されたもう一つの『罠』。彼らがその大きな『落とし穴』に気付くのはもう少しだけ先のことだった。