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ダンジョン過渡期

 10月某日。


 城本剣太郎が魔王の鍵によって開かれた上級ダンジョンの中に消えてから1週間が経ったその日。


 日本を含んだ42の国連加盟国はダンジョンとモンスターの存在を公に認めることをそれぞれのメディアで報じた。もちろん世界が抱いた衝撃と困惑は過去類を見ないほどに大きなものになった。


 当たり前だ。モンスターは有史以来初めての人間のみ(・・)を害し、牙を剥く明確な『人類の敵』と呼ぶことのできる存在なのだから。ましてや個体によれば既存の通常兵器では対処不可能とくれば、当時の大衆に漂った絶望は推して知るべし。


 もちろん各国政府は自国民をパニックと集団ヒステリーの渦に陥れるためにこのような発表をしたのではない。


 この情報公開の本来の目的は人々にとある『対抗策』があることを示すこと。


 絶滅の淵に立たされた人類にはまだ『一つの希望』が残されていることを知らしめること。



 そう、それは怪物と迷宮と同時に発表された【保持者(ホルダー)】の存在だ。


 レベル、そしてステータスを持つ既存人類を超えた超越者。


 超能力や異能としか言いようのない数多の【スキル】を持ち、ファンタジー映画にも引けを取らない強力な科学では説明のできない【魔法】という現象を行使する存在。


 一部(・・)の人々は熱狂した。


 チャンネルが合い、モンスターを一体でもその身で倒せれば、ありとあらゆる伝説上の存在に届きうる可能性と、ゲームのような世界を現実で体験できる日常を手に入れたからだ。


 特に以前からそれらの特別な存在を示唆し、可能性や情報を探っていたインターネットのヘビーユーザー達の歓喜はそれはそれは大きなものになった。


 事態はそのまま好転すると思われた。誰もがモンスターの脅威への自己防衛のためホルダーになることを受け入れると各国政府は考えていたのだ、


 だかしかし、ホルダーという存在への反発は彼らの予想の何倍も大きかった。



 ある社会学者は言った。


『これは暴力行為が蔓延する前時代への回帰の始まりである』と。



 ある歴史家は言った。


『これは平和維持のため歩んできた過去への冒涜である』と。



 ある政治家は言った。


『これは戦後最大の失策になりうる』と。



 曰く、曰く、曰く。あらゆる側面、観点、思想、信教から『暴力』と『戦い』を誘発する原因となりうるホルダーという存在への批判はなされた。



『経験値のためだけにモンスターを狩る行為は国際条約違反だ。』



『ホルダーの存在を容認すれば、治安は確実に崩壊するはずだ。』



『平和的解決のため、モンスターとの対話も試みるべきだ。』



『これは先進国が共同して行った、現代の強制徴兵だ。』



 多種多様な批判意見が飛び交い、議論は白熱し、『モンスターと同様にレベルやステータスを持つホルダーはモンスターと同じように駆除(・・)するべきだ』『ホルダーは公共の福祉の維持のため、強制的に収容(・・・・・・)しろ』というような過激すぎる意見さえも噴出した。




 10月末から月に11月に渡る、その期間は間違いなく世界の過渡期であった。


 世界が真っ二つに割れ、人間同士が起こす多くの悲劇が世界各地で見受けられることになる日々は今後も長く、永遠に続くと思われた。


 そんな時、国際世論が大きく傾くことになる大災害が発生することになる。日本では【第三次迷宮侵攻】と呼ばれるモンスターの全世界を巻き込んた『破局的(・・・)な大量発生』だ。


 全世界で150を超えるホットスポットと呼ばれる地域の同時多発的な迷宮化。


 100体を超える魔王の出現。


 レベル100を超える【超A級討伐対象】、通称【S級モンスター】すらも数千体出現し、人類社会の一部はその日、正面から物理的に破壊される憂き目にあった。


 人類が出来た抵抗と言えば『15体の魔王の討伐』『19箇所の迷宮化の解除』だけに留まり、残された『魔境』は今も尚、モンスターを地球上に生み出し続けているという。


 それらの大惨事を経験し、生き残った者達は口を揃えて一言だけ発言した。






『地獄だった……』と。






 人類が初めて喫したモンスターへの明確な『敗北』への影響は途轍もなく大きい傷跡を残す。


 未来に絶望し、自死を選ぶ者。


 絶望から立ち上がりホルダーを志す者。


 惨劇は人々へ多種多様な変化を促した。基本的にはホルダーの存在といずれ自分がなることに肯定的な方へと機運は高まった。そして、その事件を期にまた新たな動きが世界を一瞬だけ(・・・・)席巻することになる。




 トンネルの取り壊し運動だ。




 なぜかトンネルにのみ(・・)出現する、モンスターを生み出す危険なダンジョン。それらの存在が発表された当初からその提案は大衆の極一部、ほんの僅かではあるが指示されていた。


 それがこの事件を機に爆発した。人々はこぞってトンネルに駆けつけた。ハンマーを、ドリルを、ありとあらゆる解体工具や重機を携えて、政府からの静止の声も聞かずに異世界と通じ、怪物を連れてくる入口となるトンネルを破壊しつくそうとした。



 もう一度言う。この動きが流行ったのはほんの一瞬だけ。今や、そんな『恐ろしい事(・・・・・・)』を考える人間は全世界を通しても一人もいない。



 トンネルに溜まった地縛霊の為せる業か?


 はたまた迷宮そのものの自己防衛機能か? 


 どの国、どの地域、どんな大きさであろうと異世界のくさび形文字が刻まれたトンネルを破壊すると確実に『とあるダンジョン』への道が開かれる。


 道が開かれる時間は、『攻略される』『攻略されない』に関わらずほんの一時間のみ。モンスターを生み出すこともなく、消える時に何らかの悪影響を世界に残すこともない。



 このダンジョンがすることはただ一つ。

 

 

 トンネルの破壊に関わった人間全てを空間的、時間的、物理的制約を全て無視(・・・・)し『内部に取り込むこと』。



 こうして破壊に携わった人間は突如ダンジョン内に転送され、制限時間一時間以内で攻略をしなければならなくなってしまったのだ。


 何故そのような現象が起きるのかの原因は今のところ分かっていない。


 ただ一つ分かっているのは、そのダンジョンに取り込まれた人間は全世界で数万人に昇るのにも関わらず、生還できた人間はわかっている中でも『一人も存在しない』ということだけ。


 見附トンネルもそんな悲劇のトンネルの一つ。数週間前にその一時間は過ぎ去ったというのに近所に住む人間は気味悪がって近づかない、そんな場所。人目を忍び、大人数で集まるには確かに都合の良すぎる空間だ。



 だけれどダンジョンの悪意は常に人間の想定を超えてくるもの。人々のダンジョンに関しての希望的観測はほぼ常に裏切られてきた。


 故に人々が落ち着くのは早すぎる。


 だからダンジョンのある生活に適応できたと確信するなんてもってのほか。


 ホルダーの数が全世界で一億人を超えた現在もまだ、世界はダンジョン過渡期の真っただ中にあることを現代に生きる人々は忘れてはいけなかった。


 


 そうつまり、見附トンネルの悲劇はまだ終わっていなかった(・・・・・・・・・)のだ。



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