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 ほとんど分かり切っていたことじゃないか。


 半ば腹をくくっていたことじゃぁないか。


 今更何を動揺することがある? 


 【迷宮課】が敵だったらなんだっていうんだ? 



「剣太郎? 本当に大丈夫か? 」



 以前に戻っただけだ。


 あの祭の日……魔王が現れた時よりも前。誰も味方がいなかったときに戻っただけなんだ。



「城本くん? 聞こえてる? 」



 舞さんや柏田さんとも。今度会った時には戦わないといけないかもしれない。散々壊しては、新しく丈夫なバットを造ってくれた古村にだって恩を仇で返す羽目になるかもしれない。


 確かに、それは中々想像したくない事態だ。



「はぁー……」



 だけど、もう覚悟はできている。


 俺は逃げない。全てはバラバラになった家族をもとに戻すために。たとえ昔の仲間と対峙することになったとしても。



「すいません、もう大丈夫っす! ご心配おかけしました! 」



 だから今は狼狽えなくていい。


 今は深く考えなくていい


 今は答えを出す必要は無い。


 その時(・・・)が来ても――――俺は迷わないから。



「そ、そう? なら……良かったわ」


「あ、ああ……またなんかあったら言えよ? 」


「…………何か調べ物をしたかったんじゃなかったのか? 」


「……そうでした! 」



 マスターの深く低い声に後押しされたのもあって、気を取り直した俺は本来の目的を思い出す。


 スマホの検索サイトを立ち上げ、すぐさま『木ノ本絵里』と打ち込む。家族につながるかもしれない唯一の手がかりを掴むために。


 さあ、何件ヒットするかな?


 そもそもマサヒラに携帯を求めたのもこれが一番の理由。スマホ1台さえあれば俺が知りたい情報は一瞬で、全て手に入れられると思っていた。



「うわっ」



 しかし、その見通しが甘すぎることはすぐに分からされた。


 ニュースサイト、まとめブログ、まとめサイト、個人のSNS、その他もろもろ。凄まじい数の情報が引っかかり、大まかな概要も情報も錯綜しすぎていて何が何だか分からない。


 頼みの綱だった『ウィキ』も何故か存在せず、この手の機器での情報収集に慣れてない俺ではもはや手詰まりと言っていいほどだった。



「どうした? 剣太郎? まーた浮かない顔して」


「ググってみたは良いんですけど知りたかった情報が載っている場所が全く見つからなかったんです。どれもこれも曖昧で、本当にあってるんだが、あってないんだか分からないモノばかりで……」



 俺が正直に告白すると、マサヒラは明るく、気安い口調のまま聞いてきた。



「さしつかえなければ何を調べようとしているのか聞いてもいいか? 」



 俺はほんの少しの間考えた後、隠すようなことでもないと思い直し、今やろうとしていることをはっきりと伝えた。



「木ノ本絵里です。知ってますか? 」



 彼女の名前を出すと返ってきた反応は存外に大きなものだった。



「知ってるも何も。剣太郎、お前……木ノ本絵里って言ったら冗談抜きで全世界で一番ファンの多いホルダーだぞ!? 」


「確かにそんなことも書いてあったんですけど……肝心の経歴とか、人となりとかがよくわからないんですよ」


「ああ有名になる前のことが知りてーのか……。なるほどな……ただでさえ木ノ本絵里の過去は割とブラックボックスなのに、確かwikiもファン同士の編集戦争があって一時的に止まってるんだったっけ? すまねーな、剣太郎。そっち方面だと俺に答えられることはあんまりなさそうだぜ」


「そうっすか……」


「だからな。そこらへんのことは俺に聞くよりも隣にいる女(・・・・・)に聞いたほうがいいぜ? 」


「え? 」



 マサヒラが指差す先には黙々とグラスを傾ける派手な女性が一人。紛れもなく東雲咲良さんだった。



「何よ? 都合のいいときだけ私に頼る気? 」


「減るもんでもねぇしいいじゃぁねぇか! なっ!? 1杯……いや……今日の飲み代は全部俺が奢ってやるからよ! 」



 二人の視線は一瞬だけ交わる。折れて、目を伏せたのは咲良さんの方だった。



「…………仕方ないわね」



 ため息をつく彼女に、赤いサムライは聞きなじみの無い単語を言い放った。



「頼むぜ? 元芸能人(・・・・)


「……芸能人? 」



 聞き返す俺に応えてくれたのは咲良さん本人だった。



「そっ。ホルダーになる前、ちょっとだけタレントモデルの真似事をしてたの」


「へぇー! そうだったんすか」



 言われてみれば納得だ。むしろその恰好で一般人と言われた方が違和感がある。



「んで、同じ事務所だったんだよな、木ノ本絵里と。先輩後輩の関係だったってわけだ」


「一瞬だけ……ね。あの子は私とほぼ入れ替わるように入ってきたから」



 考えてもみなかった点と点が今、線で繋がった。


 まさかこんな場所で、こんな人の縁が転がっているなんて。



「咲良さんは、木ノ本絵里と会ったことがあるんすか? 」


「まあおんなじ事務所だったし、何回かね? あんまり喋ったことはないわ」


「どんな印象でした? 」


「う~ん。大人しい? 暗い? ……いやアレは多分、悲しんでた(・・・・・)のかも」


「『悲しんでた』? 」


「だってあの子……今まで日本で起きた全ての【迷宮侵攻】を体験した『被災者』なんですもの」



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