活路
昨日は予約投稿にミスがありました。
なので本日は3話投稿です
黒騎士の策にハマり、異世界へ行って帰ってくるという大きな回り道をした中で、俺は自身の過去の全てを理解したつもりでいた。
甘かった。俺はまだ何もわかっちゃいなかったんだ。
あくまでも俺が思い出せたのは自分の大昔の記憶だけ。それは幼少期の俺の目で見た余りにも断片的で、抽象的で、支離滅裂で……。全てを説明しようとするには余りにも情報が足りなすぎた。
だから聞かなくちゃいけない。母さんに。爺ちゃんに。父さんのこと。婆ちゃんのこと。そして俺のこと。
そう強く思っていたのに……。異世界から帰ってきてみれば一ヶ月の時が流れていて、その間に日本は凄まじく変化していて、俺の家も家族も交友関係もグチャグチャになっていた。
そんな時に眼の前に現れた『組織』の人間。人を意のままに操る『人形使い』。
奴は明らかに知っていた。俺のことを。俺の家族のことを。もしかしたら……俺以上に。そしてこうも言っていた。
――『世界中のありとあらゆる奴らが俺を狙っている』って。
時間は少し前に遡る。人形使いのハブを倒して喫茶店への帰路につく途中。俺は『今後』について必死に考えを巡らせていた。
「くそっ……」
……これでも自信はあった。見える相手なら何人だろうが、何万人だろうが渡り合えると。
でも見えない敵となると話は違う。いつ、どこで、誰が俺を監視し、襲いかかってくるのか分からない『恐怖』は【魔王】や【龍王】と言った強大な敵とは完全に別種の恐ろしさを持っている。不特定で、人数もわからないのが相手ってことはつまり、疑うべき人間は俺以外の全てということなのだから。
知識も情報も、それを知るすべもない俺には誰なら信用できて、どんな言葉は信じていけないのかはわからない。
だから今、この瞬間に全幅の信頼を置ける人はたった一人。
『どうしたの? 剣太郎? 』
指輪から聞こえる声の主。異世界の彼女だけなのだった。
最初は安堵した。まだ一日も経っていないのに聞こえて来た高い鈴なりの声に。けれどすぐに言葉に詰まった。リューカに何を言えばいいのかわからなくなってしまった。
「…………あの」
『? 』
知っていたから。今彼女が帝都の復興に並々ならぬ力を注いでいることに。ようやく纏わりついていたしがらみが取れて前向きに頑張れるようになったことを。
出来るだけ邪魔をしないように。リューカの負担にならないように。そう思っていたっていうのに……。
『…………』
「…………」
流れる気まずい静寂の時間。俺が必死に言葉を探している中、世界を股にかけた通話のタイムリミットが刻一刻と迫っていた。
「あのさ……」
『剣太郎』
緊張した空気の中で同時に話し出してしまい、お互いに先を譲り合う。そんな『会話のあるある話』がまさかこんな時に出てしまうなんて思っても見なかったから俺たちは思わず吹き出してしまった。
「ふはっ…………ごめん! ちょっと、聞きたくなっただけなんだ……リューカの声がさ」
『……そうなの? 』
「ああそうだ。だから本当になんでもない」
通話時間のタイムリミットはもうあと少しだけ。だから俺は無理矢理その場を収めようとした。
でもリューカはそうは思ってなかったらしい。
『……ふふ……ねえ剣太郎』
「なんだ? 」
『私は剣太郎に救われた。何度も助けられた』
「……」
『だからね恩返しがしたいの。いつか剣太郎の力になりたいって……そうずっと思ってる』
「そんな……気負う必要ないぜ……? 」
『いいの。これが今一番やりたいことだから』
「そう、なのか……」
世の中には聞かないとわからないことがある。リューカの心はまさにそれ。
顔をつきあわせると話せないこともある。だけど国のためにあれだけ尽くしていた女騎士がこんな風に思っていたなんて……考えもしなかったんだ。
「ありがとなリューカ」
『? 』
その言葉だけで十分だ。良く理解できた。俺は一人じゃないってこと。
通話時間が終了して、指輪から熱が消えるのを感じながら俺はもう一度深く考えた。今後、俺がとるべき行動について。
数十秒。一分。はたまた数分。どれだけの時間そうしていたのかは計っていないから分からない。ただ不思議とクリアになった思考は『見えない』という部分に引っかかっていた。
不透明な敵。奴らは他の組織を出し抜こうとしながら俺を狙っている。そうだ。一枚岩なんかじゃないんだ。全世界全てが一つになって襲い掛かってくると俺は勝手に勘違いしていた。
奴らにとっては俺は獲物で、敵は他の組織でしかないんだ。
「あ……」
その時になって見えた。現在の状況を打破する活路。一つの思い付き。
うまくいくかは分からない。だけどやる価値は……あると思う。凄く、とてつもなく恥ずかしいけれど……!
「これが上手くいけば……家族も、友達も皆取り戻せるかもしれない……」
そう考えると案外悪くない考えな気がしてくるから自分でも驚いてしまう。
これは別に趣向を凝らした奇策なんかじゃない。ただの単純な理屈。敵が見えないって言うんなら……引きずり出してしまえばいい。
――――よく見える場所まで。