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ホットスポット

 

 荒くなりかけた息を深呼吸で抑え込む。息を吸って吐ききってからもう一度自宅の電話番号を入力するが結果は同じ。どうやら打ち間違いの線はないようだ。



「すっごい顔色……どうかしたの? 」


「いや……なんでもないです。スマホもう少し借りてもいいですか? 」


「別に、いいよ……好きに使って」



 そこからは覚えている限りの連絡先を片っ端から当たった。けれどこんなときになって気づく。番号を正確に記憶している連絡先が意外と少ないということに。


 自分の携帯電話番号はもちろんのこと、爺ちゃんの家にさえも通じなかった時、俺はとうとう誰かに連絡を取ることを諦めた。



「瑠璃香さん……貸してくれてありがとうございます……」


「……どこにも通じなかった? 」


「……はい」



 そんな俺の返答を聞いて瑠璃香さんとタクマさんは顔を見合わせた。



「もしかして……」


「いやまさか……そんな……」



 明らかに不穏な気配が漂っていた。


 家族のことは知りたくてしょうがないのに、何故かその時の俺はこれ以上は聞きたくないとさえ思っていた。


 それでも聞かないといけない。俺は全部のことから逃げないと決めたから。



「城本くん……一つ聞いてもいいかな? 」


「なんですか? 」


「君の実家ってどこにあったの? もちろん。無理にとは言わない」


「………タクマさんたちが知っているかわからないんですけど」


「うん」


「――県の台倭区、大和町って町です」



 その瞬間の空気の変わりようは筆舌にしがたいものがあった。疑念から確信へと至った表情を見合わせた4人は露骨に痛ましさを顔へ滲み出させた。



「やっぱりか……」


「でも……聞いたこと無いよ? どこか別の場所に、記憶を消して飛ばされるなんて……」


「スキルもダンジョンもレベルも魔法もある世界なんだ。もしかしたらそういう悪辣なモンスターがいたのかもしれない。どんなことだって起こりうるさ……」


「あの……さっきから皆さんは何のことを言ってるんですか? 」



 話しているのを遮って思わず聞く。すると4人は沈痛な面持ちのまま語りだす。


 丁度20日前(・・・・)に日本で起こった大惨事のことを。



『ダンジョンの出現頻度が極めて多い地域』を指すホットスポット(・・・・・・・)という言葉がかつて存在した。全世界では150近く、日本だけでは11の地域がそれに該当し、実際そこでは他地域を寄せ付けない多さのモンスターの目撃報告があったのだという。



「だけど20日前。『その日』のホットスポットでのモンスター出現数は文字通り()が違ったんだ」




 後に『第三次侵攻』と呼ばれる事件の発生だ。これにより日本全国に点在したホットスポットは壊滅し、概念としても消えうせたのだという。



「11の全ての地域がモンスターの海と侵食したダンジョンに呑まれた。今やあの場所に人間は誰一人としていない……」



 そう締めくくりながらタクマさんは見せてくれた。スマホに映ったホットスポットの位置が示された強い既視感のある『日本地図』を。


 俺は見た瞬間に気づいた。ソレが以前、村本が見せた『原因不明の事件』が多発している地域に点を打ったモノと酷似していることに。



「…………!! 」



 そして、その事実は同時に示している。『鬼怒笠村』と『大和町』の両方がホットスポットであるということを。


 つまりはタクマさん達は勘違いしたんだ。俺が第三次侵攻の時のショックで短期間の記憶を失い、この場所にどういうわけか徘徊していると。


 俺は4人に問うために努めて冷静な声を出した。



「タクマさんたちは……知ってますか? そこに住んでいた人が今……どうなったのか……」



 だけどムリだった。声は自然と震え、目の奥がチカチカし始めた。



「城本君。本当にすまない。そのことに関しては僕らは力になれない」


「ホットスポット関連は全て本庁のホルダーの管轄で民間のホルダーの私達には情報すらほとんど回ってきてないの」


「じゃあ……聞けば……いいんですね……それとも直接……行くべき、なんですかね? 迷宮庁とやらに」



 別にそんな気(・・・・)は一切なく、態度に出てはいても頭だけは冷静なつもりだった。


 ただ自然と溢れ出した思いを俺自身さえ認識できていなかったんだろう。


 だから質問を言い終えたあとに顔を上げ、目の前の席に座る4人が『苦しげにもがいている』のを見てギョッとした。



「なっ!? 」


「し、城本君……! 」


「頼む……! 魔力を少しっ! 抑えてくれっ! 」



 もちろん【念動魔術】も【火炎魔術】も発動させていない。こんな事態は人生の中で一度も起きたことが無い。だけど少なくとも現在の俺が無意識に垂れ流しているほんの少しの魔力でさえも人を傷つける力を持ってしまっていることは明白なようだった。



「あ……はい! ……これで……どうですか? 」



 意識的に魔力の蛇口を最高の硬さまで締め上げる。すると土色だった4人の顔色にみるみる赤みがさし始め、俺は安堵の息を一つついて頭を下げた。



「すいません。俺……」


「いや……いいんだ。こんな話いきなりされたら誰だって動揺するに決まってる」


「別に攻撃魔法を使ったわけでもないしな。俺達に謝る必要何てまったくないぜ」


「うん……ただ魔力を出した……それだけだもんね? 」


「……それだけで……これって……本当に規格外ね……。勘違いしないでね。文句があるわけじゃないの」


「……そう言ってくれると……有り難いです……」



 俺が頭をかくと、胸を抑えて苦しそうにしていたはずの4名は笑ってくれた。


 凝り固まっていた魔力を吐き出して、垂れ流していた魔力を止めたせいか、感覚はかつてないほどに鋭敏だった。だからだろうか。



『ようやく見つけたよ。城本剣太郎君』



 その男の声は俺の耳にはっきりと聞こえてきた。


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