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迷宮金属(ダンジョンメタル)

 俺が異世界に行っていた1ヶ月の間。情勢はかなり動いたようだ。


 まず俺が向こうの世界へ行って1週間ほどが経った時、日本政府はレベルとステータスを持つ『保持者(ホルダー)』の存在を公に認め、『保持者(ホルダー)管理法』を超法規的な異例の速度で施行したのだという。


 その後も政府の動きは活発で、『警察』の一組織に過ぎなかった『迷宮課』は気づけば『迷宮庁(めいきゅうちょう)』という公的政府機関に生まれ変わり、現在はソレを運営統括する『保持者管理制限委員会ホルダーかんりせいげんいいんかい』が大きく幅を利かせているのだとか。


 一方で国民自体の変化も大きかった。チャンネルが合った人間と保持者(ホルダー)の人口の爆増だ。推定ではあるが現在、チャンネルが合い迷宮関連の事象を肉眼で確認することが出来る人数は日本だけで数千万、その内保持者(ホルダー)は1千万人近く存在していると言われている。


 それだけ人数が膨れ上がってしまった保持者(ホルダー)を管理する機関、仕組みこそが『迷宮庁』と『ホ管法』だ。具体的には保持者(ホルダー)に『自分がホルダーであることを役所に申請すること』を義務付けて、ホルダーの数の把握と管理を行っているらしい。この内容には人権団体などからかなりの反発を食らったようだけど現在、ホルダーと非ホルダーの決定的な対立が起こっていないのもこの仕組みのおかげであることは間違いないようだ。



「ホルダーの申請をすると何かいいことがあるんですか? 」


「……いいことづくめだよ。公認登録証(ライセンス)が発行される上に、迷宮(ダンジョン)への『侵入権(しんにゅうけん)』とモンスターの『討伐権(とうばつけん)』がもらえるんだ」



 公認登録証(ライセンス)。ホルダーであることを唯一公的に証明してくれる物品。免許証とよく似た見た目をしているけど所有者個々人の魔力の波長(パターン)が認識登録されていることなど特別な部分も多いそうだ。


 中でもホルダーライセンスだけが持つ最大の特徴は、ライセンスそのものが実力や信用度によって【F等級】~【A等級】の6段階に分かれているということ。



「最初は皆Fから始めて、上を目指していくんだよ」


「Aが一番上なんですよね? 等級を上げる目的って何なんですか? 」


「等級が上がれば上がるほどに出来ることが多くなっていくね。通常なら入れないような迷宮(ダンジョン)に入れるようになったたり……手に入れることが出来る情報が多くなったり……後は……」


「……まあはっきり言うと……金だな」


「金……? 」


「C級から上は1週間に一度、功労金がもらえるんだ。これがかなり美味しい」



 そう言ってカンタさんが見せてくれた額面は前にニュースか何かで見た日本人の平均月収を大きく上回る数字だった。



「とにかく保持者(ホルダー)は信じられないほどに稼げるんだよ。たとえC級未満だろうと月に『迷宮』をいくつか回ればその月の生活費を余裕で稼ぎきれる。……だから皆……命の危険があっても……ダンジョンに潜るんだろうね……」



 タクマさんたちはそこで押し黙ってしまった。自分たちがまさに命の危険にさらされたことを思い出しているのかもしれない。


 だから俺は空気を変えるべく、気になった部分を突っ込んでみることにした。



「あの……すごい稼げるってことは分かったんですけど……そのお金って一体どこから出るんですか? 」


「……あ、ああ。……国……というか『迷宮庁』からだよ。登録した通帳に直接振り込まれるんだ」


保持者(ホルダー)の数が日本で今……1千万人ぐらいって言ってましたよね? よくまあそんなに払い切れるんですね? 」


「その心配はない。ホルダーと言っても僕らみたいな命知らずはそれほど多くない。迷宮を回ったり、レベルを上げている人はホルダー全体のせいぜい30%くらいじゃないかな? 迷宮庁はむしろ活動する保持者(ホルダー)を増やしたいみたいだけどね」


「30パーセント……ですか」



 それでも約300万人だ。かなり多く感じる。



「あーあと忘れちゃいけないのはさ……迷宮(ダンジョン)で一番稼いでるのは保持者(ホルダー)じゃないってことかな? 」


「……違うんですか? 」


「うん。今一番勢いに乗ってる業種は『武器』を作る金属加工メーカーか精密機器系だろうし……そこからのお金を全部握ってるのは他ならぬ『迷宮庁』なんだ」


「迷宮庁が」


「それもこれも『アレ』を迷宮庁が発見してからだね。『アレ』の存在がこれまでの常識を全部ひっくり返しちゃったんだよ。今の日本は天然資源輸出大国だって聞いたらみんな驚くだろうね」


「『アレ』っていうのは……? 」


「主にダンジョンの『壁』を掘削して出てくる【オリハルコン】や【ミスリル】などと言った迷宮金属(ダンジョンメタル)のことだよ。ダンジョンの数が多い日本では世界でも特に多く採れるんだ」


「ダンジョン……メタル……」



 ダンジョンには何十、何百……へたしたら何千と潜っている。だけど知らなかった。気づきもしなかった。考えもしなかった。まさか通り過ぎる通路の壁にそんなモノが眠っているなんて。



「ダンジョンメタルの出現は特に半導体業界を大きく騒がしていてね。革命って言われてるほどなんだよ」


「ダンジョンメタルはそれだけ価値が高いんですね」


「高いよ。今は下手な宝石の何十倍、何百倍の値が付く。迷宮に入ってモンスターを倒さずに、壁をひたすら掘る『マイナー』っ呼ばれる人が出てくるほどにね。そんなダンジョンメタルの流通経路を全て握っているのが迷宮庁なんだからそりゃあ金はいくらでも集まるよね」



 なるほど。そんな絡繰りだったのか。



「とまあ……そういうわけでさ。嫌味じゃないんだけど僕らは今そこそこお金を持ってるんだよ。そして僕たちは城本君には本当に感謝してるんだ。感謝してもしきれないぐらいに」


「……………」


「どうか受け取ってくれないかい? 」



 そう言うとタクマさんはテーブルの上に紙袋を一つ置く。中身をチラッと伺うと積まれた札束が見える。



「俺まだ高校生ですよ? ……さすがにこれは……」


「……まあそうだよね。城本君の実力からしたらこの額じゃ桁が3つくらい……」


「いやそういう意味じゃなくてですね……」



 少し話していて分かったことだけど、どうやらこのタクマさんは真面目さが暴走する傾向があるようだ。



「でもね。未成年から助けられておいて何もしないって言うのはこっちの気持ち的にも色々……」


「いやぁ、お金は実際ありがたいです。今手持ちなにも無いですし、スマホも家に置いて来てしまってるんで。ですけどそんなにはやっぱり受け取れませんよ……」


「いやそれを聞いてなおさら引き下がれなくなったね。やっぱり君にはまとまったお金が必要だ」


「あの、城本君? ちょっと聞いても良い? 」



 話が平行線になりかけたのを察したのか、エリカさんが間に入ってくれた。



「なんですか? 」


「あの……今更っていうか……何も聞かなかったこっちが悪いんだけど……」


「? ……はい」


「『お家』には連絡しないで良いの? 」


「あ、あ~……それは……ですね……」



 もちろん、日本に戻って来てからはまずそのことを考えた。


 けれどこうも思った。今家に電話をかけたら一番に出てくるのは間違いなく母さん…………だと俺がずっと思いこんでいた人のはずだ。そこで俺は気づいていないふりをすればいいのか、もしくは真実を追及するべきなのか。まだ少しだけそのことを割り切れないでいた。


 そんな俺の様子を見かねたのか瑠璃香さんは懐からあるモノを取り出す。



「ほら使いな」


「え? 」



 掌に載せられたソレは、一台のスマホ。いきなりのことに反応できない俺に瑠璃香さんは続けて言った。



「家出なのか、他の事情なのかは聞かないけど……。多分、家族は心配してると思う。無理にとは言わないけど一回連絡してみたら? 」



 彼女の言葉に押されて俺は一度深呼吸をすると、意を決して番号を押す。


 だけど返って来たのは『残酷(・・)な真実』だった。




『――おかけになった電話番号は現在使われておりません』




「は? 」



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