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新たな覚悟

『眼中にない』。龍王の思考をこれだけ正確に表した言葉は無いだろう。


 奴は孤独を拒まない。孤高であることを揺るがせない。周囲の生き物すべては鬱陶しい虫けらとしか思っていない。そんな考えを可能にする頂点生物としての圧倒的な強さを持っているからだ。


 何度か打ち合ってそのことがよく分かる。視線が、戦い方が、緩慢な動きの全てが本来把握できるはずもない巨大な怪物の思考と感情を正確に映し出していた。


 しかし奴の[力]は150万。そんな生半可な気持ちで挑んでは一撃で消し飛ばされる力の差。バットと巨躯がぶつかる衝撃で身体がバラバラになりかけながらもなんとか対抗できているその絡繰りは先ほど爆増させた[器用]にある。



「ぐぅ……!! 」



 襲いくる巨大な『尾』にバットを合わせる。


 手に響く衝撃。思わずバットを取り落としたくなるほどの。


 だけど耐える。かつてなく柔軟性を持った体を使って。


 手首、肘、肩、膝の関節と筋肉で衝撃を吸収し地面へと逃がしていく。


 思い出した所謂『非数値化技能』の一つ。全身を使った受け流し。ずっと訓練をしていたわけじゃないから不得手な部分は多々ある。それを暴力的な[器用]の数値で誤魔化しを効かせる。


 自分の一撃を真っ向から受け止められたことに一瞬瞠目した龍王。すかさず第二の手を繰り出した。



「『ファイアーボール』!! 」



 手のひらから放った10の火球。それらは俺が操るがままに竜の首に巻きつくように旋回する。


 巨竜にとっては、とるに足らない攻撃。【龍鱗】と【火炎耐性】で焦げ跡すら残らない矮小な一撃。避けることも、ましてや気にする必要も無いそんな炎の魔法。『本来なら』その対処を巨竜も選択したはずだ。本来ならば……。


 しかし龍王は知った。知ってしまった。自分にもしかしたら比肩しうる存在……すなわち俺を。


 そうなるとどうなってしまうのか?



「……今目で追った(・・・・・)な? 」



 その言葉が竜の聴覚を刺激する時には俺は奴の視界から消えている。


 滑り込んだ。竜の足元へ(・・・)



「まさか……またやってくるとは思ってなかったよ……――――なァ!! 」



 一瞬だけ放つ『闘気』。上げた[器用]さがここでも発揮。


 全身は連動する。


 滑り込んだ勢いを止めることなく体勢を変更。


 身体を前転の要領で回転させて両手に持ったバットを竜の腹へ。


 剣道の面打ちのように正中線からぶれずにまっすぐに――打つ。


 衝撃。


 炸裂。



「―――――――――ー!! 」


「がぁああああああ!! 」



 龍王と共に俺も叫ぶ。


 大量の血液が噴き出した。俺の身体から。


 今の一撃で両腕がへし折れ、骨が皮膚を突き破った。


 痛い。


 苦しい。


 意識が飛ぶ。


 気絶しそうだ。


 だけど好機は今! この瞬間なんだ!



「……ッッ!! 【念動……ッ! 魔術】ッ!! 」



『超再生』も『集中治療』も今は使えない。念力のギプスで無理やり両腕を固定。


 そして上空へ。腹を大きく穿たれて弾き飛ばされた龍王の元へ。


 崩壊した帝都に出来たクレーターの底から【念動魔術】で飛び立つ。


 巨大な翼を広げて姿勢を制御し静止しようとする龍王。


 猛追する俺。


 両者は再び交わる。崩壊した街の上、赤い空の下で。



「行くぞ……」



 目標は6時の方向。



「食らえ……」



 深い深い『谷』のもっと先。【勇者の丘】。



「……『ホームラン』!! 」



 ズタズタの両腕を振るった一発は龍王の頭に直撃した。


 冗談のように吹き飛ばされる竜の巨躯。狙いすました方向へ飛んでいく。



「はぁ……はぁ……クソ! 腕が……! 」



『腕が』とは言って見たものの『肩からぶら下がる血まみれの何か』を腕と言っていいのか。俺にはもはやよく分からなかった。


 痛い。痛いというか熱い。神経が剝き出しになったせいだ。


 風が吹く度、僅かに身じろぎする度に、信じられないほどの痛みが突き刺さる。


 五感のほとんども機能していない。


 耳鳴りが酷く、目はチカチカする。


 皮膚感覚は痛みでボロボロ。


 鼻と口の中は血が止まらない。


 一刻も早い治療が必要だ!



「まだか……まだなのか……!? 」



『超再生』が再使用できるのはまだか!



「……ッッ!! やべえバットが……」 



 ――もし言い訳をさせてもらうなら



「【念動魔術】……よし。キャッチできた……」



 ――油断していたわけじゃない。



「はぁ……はぁ……あれ……これは? 」



 ――ただ必死だった。その時は自分のことで。……だから



「え? ……あ」



 ――反応できるわけがない。目の前に迫る火の嵐に。龍王の怒りの焔に。


 その炎に竜の鈍さは無い。慈悲は無い。一瞬で獲物を灰にする火力と速度。


 解き放たれた爆炎には一秒の隙があれば十分すぎた。



「……」



 判断のために与えられたのは刹那、その数百分の一にも満たない時間。


 俺は覚悟を決め直した。


 逃走と誘導では使うことを避けたかったこの『技』を使用する新たな覚悟を。



「『疾風迅雷(しっぷうじんらい)』……」



『疾風迅雷:【疾走】がレベル50になると24時間に一度だけ使用可能。10分間の間、【疾走】スキルの使用できる全て(・・)の『技』の制限が取り払われる。ただし――――



「……『瞬間移動』!! 」



――――10分が過ぎた後、技の使用者は24時間の間、[敏捷力]が強制的に[1]になる』



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