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黒幕

 『龍王サラム・ドレイク』。


 レベル201。100万を超える[力]と[魔力]。100万に迫る[持久力]と[耐久力]。けれど[器用]さと[速さ]はレベルに比するとかなり低い。


 戦う前には思っていた。過去の記憶を元に想像していた。龍王と呼ばれるこの巨竜の戦い方は一度根を下ろした場所から余り動くことのない固定砲台。近づく者は[力]で薙ぎ払い、遠距離の敵は[炎]で焼き尽くす。てっきりそうだと思っていた。傷だらけの身体を押して戦いを挑む前までは。




「くそッ!! ほんとに、厄介だな……その鱗!!」



 手のひらを押し返す感触に悪態を付く。弾かれた勢いのまま大きく後退した直後には、さっきまで立っていた場所に巨大な足が踏み締められていた。



「『圧縮念波』!! 」



 矢継ぎ早に繰り出す魔法攻撃。狙いは正面に屹立する右後ろ脚。その関節部位。念力の波を回り込ませて膝裏の防御が薄い個所を集中攻撃した。


 だが、結果は予想通り。



「傷一つ付けられないか……」



 これこそ龍王が誇る第一の盾。距離が離れれば離れるほどに衝撃を減衰させるスキルLv.99に到達した【竜鱗】。これの効果で遠距離から放たれた物理魔法の一切を無効化する絶対無敵のバリア。



「……『獄炎』!! 」



 それなら燃やすか、溶かす。そう頭を切り替えて放った【火炎魔術】。けれども龍王にはまたもや通用しない。【剣神】の肌すら焼き焦がした炎は【龍王】の鱗に焦げ跡一つ付けられない。


 第二の盾。『完全(・・)耐性』。


 【火炎耐性】【水圧耐性】【電撃耐性】【斬撃耐性】【打撃耐性】【重力耐性】【魔法耐性】【毒耐性】【……


 ステータス欄に無数に並んだ『耐性』の文字。【竜鱗】と数十万の耐久力でただでさえ手が付けられない龍王の防御性能は一切の隙が消え去る。



「なら……! こいつで……! 」



 再使用する『圧縮念波』。今度はバットに纏わせる。



「オラァ!! 」



 踏み込み。体重移動。腕の脱力。魔力操作。


 全てが完璧に近い動きから放つ一撃。


 すれ違いざまにさく裂させた打撃は巨竜の丸太の様な指をへし折ることに成功させた。


『異変』が起きたのはその直後だった。



「……ッ!! 」



 血を噴き出しながら膨れ上がる『傷口』。盛り上がった竜の血肉は次第にとある生物の姿をかたどっていく。



「ギャ亜ア嗚呼ァァ唖ァ啞アアァァ吾ァア!! 」



 生まれ落ちたのは体長3mほどの小さな飛竜。Lv.85エクトワイバーン。翼をはためかせ今にも飛び立うとしたその前に【念動魔術】で圧し潰した。気づけば巨竜が追っていた傷が消えていることに大きく舌打ちをする。


 龍王が誇る最後の盾。【創造再生】。龍王の持つ溢れるほどの生命力が可能にした奇跡。巨大すぎる自己を癒す力は負傷の再生と共に新たな生命をも生み出す。発生したモンスターに気を取られている内に自身の治癒を終わっている。


 始めに言った通りスピードは遅い。けれどあらゆる攻撃を受けきる『3種の防御』を持ち、そこにあらゆる障害物をなぎ倒す[力]と連発は出来ないが一度放てば全てを焼き尽くす火砲が加わるとどうなるのか。


 虐殺。蹂躙。一方的。ワンサイドゲーム。


 龍王はもはや攻撃をする必要が無い。ただ前進する。移動する。身体を動かす。それだけで街も、人も、モンスターも須らく消し飛んでいく。


 その戦い方は固定砲台というよりもむしろ戦車。黒煙と粉塵を巻き上げながら着実にゆっくりと街を突っ切る姿はまさに映画の中の怪獣のそれだ。


 一瞬だけ敵と認識していた俺のことなどもはや眼中にない。ただひたすらに前に。帝都の中心。一番目立つ城に向かって歩み続けていた。



「さて……どうする? 」



 崩れずに残った屋根の上からバケモノの行進を見つめながら思案する。どうやってあの大怪獣を『ある地点』まで誘導するか。自分で決めた作戦ながらあまりにも無謀。想像するだけで絶望的な気分になる。


 勝ち筋は一つも無い。そう確信していたはずだ。


 ――――もし【剣神】を倒す前だったとしたら。


 さあ、覚悟を決めろ。決断しろ。


 竜への理解は今の攻防だけでもかなり深まった。その情報をもとに振り分けろ。【剣神】を倒して得た膨大な保有経験値(ポイント)を。ここからは一切のミスが許されない。最も太い勝ち筋を手繰り寄せるために正確な判断が必要だ。


 最後に俺は選んだ。【疾走】と[器用]に数十万のポイントを突っ込む選択肢を。





 帝都の外に出ても尚、リューカは走り続けていた。集まって来たモンスターの群れを切り裂いて。龍王の通った跡の溶岩と化した大地を超えて。ただひたすらに、とある目的地に向かって。


 『後からやってくるはずの剣太郎』のため。その一心で。


 見渡す限りの景色がモンスターに埋め尽くされるはずの『臨界突破』が起きたにも関わらずモンスターがこれほど少ないのは【龍王】の放つプレッシャーと熱で近づいてきたモンスターが燃え尽きてしまっているからだろう。そうリューカは推測していた。


 だがしかし



「な~るほど目的地は【勇者の丘】ですか……貴方の狙いは分かりましたよ? 」


「……っ! 誰!? 」



 突如現れた魔の気配にその考えは霧散する。


 女騎士は瞬時に察した。前触れもなく空から降り立ったこの正装(・・)の男が人ではないこと。軽薄な雰囲気を纏うこの男が油断できないほどの強者であることを。



「おやおやこれは大変なご失礼を。申し遅れました。私は『西方』を司る四方の魔王……【魔皇】配下72柱が一人……ベルゼウスと申します」



 直後、リューカの目には表示される。Lv.108の数字と――――『魔王』の文字。



「え……? 」


「驚きましたか!? 我らが崇高なる(おう)は王の中の王。その直属の配下は全て例外なく『魔王』を冠する者達なのです。……まあ私はつい先日に『殺害した人間の数が一万に届いた』ばかりの一番の若輩ですがね? 」


「………………」



 絶句した。二の句が継げなかった。


 様々な方向に意識が引っ張られて思考が停止してしまったからだ。ペラペラと男が話す衝撃的な内容にも、なぜこの男が今姿を現したのかにも。


 しかしリューカの騎士団長としての『直感』は囁いていた。


 今回の騒動で散見されたいくつかの違和感のある動きの正体が目の前にあると。



「……『臨界突破』を起こしたのはあなたなの? 」


「そのとおりです。歪んだ時空を整えたのは骨が折れました」


「……共和国に【剣神】を雇わせたのも? 」


「ええ、そうです」


「……龍王を目覚めさせたのも? 」


「はい。壱に西極大陸の全ての国家を我が陣営が飲み込むために」



 質問をして確信した。

 

 この男だ。この長い髪の隙間からチラチラと何本もの角を覗かせるこの若き『魔王』こそが全ての元凶なのだと。



「なぜ私が今あなたの前に現れたのか……もうおわかりでしょう? 」


「…………」



 リューカはその問いに答えない。『これが返答だ』と言わんばかりに剣を横に構えた。けれど頭の中は想起していた。ついさっきの剣太郎の言葉を。



『【龍王】はこの世界で倒せない。奴が持つ【創造再生】のスキルで死体が黒い煙へと変わる前に夥しい数のモンスターが放たれる。その数は数億(・・)にも届く。半分は俺とリューカの二人で抑え込めるかもしれないがそれ以上は無理だ。その場合、人類は絶滅だ』


『被害を最小限に食い留めるにはここじゃない別世界(・・・)が必要だ。ダンジョンの中に引きずり込めればよかったんだが……こっちの世界だとその方法は無理って話なんだよな? 』


『だからここで【勇者の丘】を使う。アレの持つ強力な『時空間操作』の力で【龍王】を別世界へ追い出すんだ』


『リューカが創り出した【入口】に俺が全力で連れてくる。これが俺たちに残された唯一の勝機だ。頼む。協力してくれ――――』



 そして現在、正装の男と騎士の少女は対峙する。張り詰めた空気を先に破ったのは女騎士。引き絞った剣を返して小さな声で呟く。



「たとえ『魔王』だろうと……私の……私たちの邪魔をするなら……」


「…………? 」


「―――――――――――――――――――斬る」



 イヒト帝国で繰り広げられるもう一つの戦いの火蓋は『男の右腕が斬り飛ばされる』のと同時に切って落とされた。


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