世界の『声』
「お前……! いつの間に!? 」
「『時空剣』さ。回数制限はあるけど呪われた身であるボクをこうして自由自在に動かせる手段はこれぐらいでね……」
違和感の正体はすぐにわかった。雰囲気も、口調も、仕草も、何もかもが妙に若々しい。元々年齢不詳の男ではあったけど。これだと二重人格の類だ。あ……!
「まさか……? 」
「多分、君の想像通りだ! 世界そのものが嫌いで、自分の気持ちに嘘をつかないことが信条のボクでさえこれでも、少しは気を使ってたんだよ? ボクはさっきまで間違いなく『老人』だった。そんな風に暗示をかければ少しはマシになるのさ。『アリを全神経を集中させながら踏まない様に歩く』生活もね? 」
「……ッッ!! 」
嫌な予感がした。何か途轍もない大きな爆弾の導火線に火を付けてしまったような。そんな予感が。
「君は良いね! 気に入ったよ! 自分自身でも身に余ると思っている力を、恐れながらも、何とか使いこなそうとする部分は特に魅力的だ! 」
「……なんなんだ!? 何が言いたい!? 」
「そんな君には……特別に……本気を出そうと思ったのさっ」
「……は? 」
いくつもの疑問が心のなかで浮かびあがった。
これ以上の本気ってなんだよ?
そもそも今までは本気じゃなかったのかよ?
そして――――
「出させると思うか!? 」
変身ヒーローのお約束なんて知らん。ここは現実だ! 殺れるときに確実に殺ってやる!
「フフフ……そういう現実的なところもいいねぇ。でも間に合わないよ。そのために離した距離……そのための『時空剣』なんだから……」
そして【剣神】はまるで大切な宝物を見せる子供の様な無邪気な笑顔で
「……ッッッッ!!!! 」
一本の魔剣を取り出す。
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その時、世界が
大地が
空が
啼いた。
「!!!!???? 」
圧倒的だった。
規格外だった。
破滅的だった。
絶望的だった。
今まで見てきた魔剣が全て偽物と言われても俺は信じただろう。
それほどにその一振りの黒い異形の大剣の持つ雰囲気は他と一線を画していた。
「ワールドイーター……」
【剣神】が、名もなき男が、その剣の名を呟く。
たった一本の武器につけるには余りにも仰々しく、凄まじく誇張されていて、ふざけ過ぎた名前だった。
そう思ったのに、だというのに。俺は『なんの捻りも無い名前』だと最後には感じてしまった。受け入れてしまっていた。
見たらわかる。
あの剣こそが、【剣神】が大地に深い傷を刻みこんだ剣であることを。
「征くぞ……? 」
カタカタと音がした。
右側から聞こえたその音は震えだった。
未知への恐怖。
死の予感。
絶対強者の放つ威圧感。
全てへの畏れが今、バットを握る右腕一本に集約されていた。
「怖がるのは当然だ……」
そんな時に思い出した。ばあちゃんの言葉を。
『恐怖を知るものでないと、武器で人を守ることはできない。人は必ず失敗する生き物なのだから』
【剣神】は体を引き絞った。満身の力をこめられたバネのように。
『けれどもし、それでも必勝をかかげると言うのならば、この言葉を忘れるな』
「破ァァ!! 」
「ーーーー俺は逃げない! 『自らの恐怖から』!! 」
バットと剣が真正面からぶつかったそれだけで、
地面は奥深くまで揺れ動いた。
偽物の青空に大きな亀裂が走った。
俺の左手は骨ごとミンチになった。
「『超再生』!! 」
今は痛みを感じる暇はない! すぐに追撃がくる!
イメージする。身に纏う【念動魔術】の形を。
今のは失敗たった。いつもと同じ『強化外骨格』の感覚でいったせいだ。引き絞っていた魔力の出力を最大にしてしまったためだ。
だから今度のイメージはギプスだ。固く。強く。誰にも、俺自身にも壊せない身体を!!
「覇ァアッ!!! 」
「おラァアッッ!!! 」
バットは流れに逆らわずただ振るう。意識はない。全身に染み付いた最適だと思う動きをなぞっていく。
意識するのは眼球。その運動。恐怖を押し殺し、【剣神】の一撃一撃をその両目で見極める。
横薙ぎ。
袈裟斬り。
刺突。
見える。
全部が。
技の起こり。
身体の連動。
重心移動。
筋肉の躍動。
力の入れ方、抜き方。
呼吸のタイミングに至るまで。
「あぁ! 楽しいなぁ! なァ!? 城本ォ! 」
「はは……」
その一撃を受けるたびに、避ける度に、受けきれずに切裂かれる度に。
全身の毛が逆立った。
血が沸き立った。
その一閃、一閃にこめられた威力、計算、狙い、技の冴えに驚嘆した。
「ははははははは……! 」
間違いない。
コイツが最強だ。
コイツこそが最凶の敵だ。
最高の剣士だ。
最狂の男だ。
「はははははははは!! 」
勝ちたい。
超えたい。
打倒したい。
「あははははははははは!!! 」
見たい。知りたい。
コイツを超えた先にどんな未来が待っているのか!
「大車輪!! 」
勢いに骨が押し潰された。
引っ張られた筋肉が引きちぎられた。
血管は破裂した。
神経は焼き切れた。
それでも前へ。より速く。より強く。
回転の力を余さず、全て! 目の前に聳え立つ敵に! 叩きつけろ!!
「うおおおおおおおおおお!!! 」
「『喰らえ』!!! 」
2つの闘気と殺気がぶつかる。
バットからは魔力の波動。刃からは破壊の奔流が。
その時、致命的な音がーーーー何かか決定的に壊れる音がした。
でも構わない。
【剣神】を!
この男を!
殺せるなら!!
「「死ねええええ!! 」」
その時発生した衝撃波は全てを巻き込んだ。
俺たち二人も。
闘技場も。
城も。
街も。
帝都そのものも。
『闘気開放』が切れた瞬間、俺はようやく認識する。周りの状況を。
地面はクレーターのように抉られていた。
誰もいない客席は数年の間に嵐に見舞われたように崩壊しきっていた。
その瓦解した闘技場の壁のさらに奥からは何万、何十万もの瞳がこちらを見ていた。
「まさか……」
予想通り。【結界】は壊れていた。
「そんな……」
俺は飲まれてしまったのか?
自分自身の力に。殺意に。破壊衝動に。
さっきの笑い声は――――俺の声?
「何を蹲っている? 闘争は終わっていないぞ? 」
「クソ……! 」
斬りかかられたため何とかバットで防御する。
結局、俺はコイツと同じなのかよ。ただ力を持って暴れるだけの化け物なのかよ……!
「クソ……! 畜生……! 」
「ギャハハハハハハハハ!! やはりそうだ! お前は俺の同類だ! 」
魔剣と金属バットがぶつかる大気中を震わす轟音。地面をも振動させて聞いてるこっちの鼓膜が爆発するようなそんな音に混じって。
小さな小さな声が聞こえた。
「立って……! ケンタロー!! 」
子供の声だ。
まだ声変わりもしてないような少年の声。
「負けるな! 」
「いけえ!! 」
少女の声も追従する。
視線を一瞬だけ泳がせた。ほんの少しだ。けれど見つけた。俺は見つけ出した。
「グラント……マーシィー……エリー……」
彼らのすぐ側には修道服姿のエルフもいる。真っ直ぐに俺を見つめて一つ大きく頷いた。
声はさらに大きくなる。
「そこだァ!! いけぇ!! 」
「負けないでええ!! 」
「いけるぞ!! ケンタロー!! 」
また聞き覚えのある声だ。すぐに見つけた。ウニロたちの姿。腕を振り上げ、声が裏返るほどの大きさで叫んでいた。
「頼む! 勝ってくれ!! 」
「お願い! ソイツを倒して! 」
「いけえええええええ!! 」
「俺たちの命は……全部託したぞ! 」
「勝てるよ! 諦めないで!! 」
さらに追いかけるのは知らない声。聞いたこともない声。この街に住む何百万の人の叫び。願い。
そして指が熱を持つ。彼女がいることを示した。
すぐ目の前にいたボロボロの衣服を着た男をバットで弾き飛ばしてから俺は振り返る。
いた。
眼があった。その真っ赤な相貌と。
包帯の隙間から銀色の髪が靡いた。小さな唇はある一言を形作った。
歓声に飲まれて声は聞こえない。ただ届く。俺の心には。
――――『がんばれ』という声が。
「ッッ……!! 」
そうだ。そうだった。
腕輪を捨てたのはこのためだ。
退路を断ったのはこのためだ。
今まで出会った全ての人、加えて俺に助けを求める人、助けが必要な人。
そんな全ての『声』から逃げないために。彼らの声に応えるために。応えられなかったときに、無視してしまった時に、俺自らの手で消してしまった時に、責任を取るために名前と顔を晒したんだ。
晒した以上、無責任な真似は許されない。
諦めることは許されない。
恥ずかしい真似も、格好悪い真似は俺自身が許さない。
俺は城本和也の息子。
日本で生まれた異世界出身者。
第13騎士団団長のリューカの友達。
『グリーンバット』でも『金属バット』でも『救世主』でもない!!
「破ァ!! 」
「おらァ……! 」
俺は城本剣太郎としてここに立っている!!
「俺は……【剣神】……お前とは違う! 」
お前は呪いを言い訳にして生まれ持った名前を見せない。
お前はすべての関係性を切り捨て、殺してきた。
力を好き勝手に振るい恐れられることでこの世界で生きてきたお前だけには絶対に負けられない!
覚悟を決めろ。『あと1時間』でコイツを倒し切るという覚悟を。
「……ああ? 何だそれは? 」
【剣神】は怪訝な顔をした。
それもそうだろう。異世界の人は野球を知らない。相対する敵が急に自分に対して横向きに立ち、『バットの先端をこちらに向けてきたら』誰もが警戒するだろう。
だけどこいつは違う。
「面白れぇ! 来いっていうんなら乗ってやるよぉ!! 」
今までに出会った全て敵の中で唯一こいつだけが乗ってくる。自分の中の殺害衝動を一切揺るがさない。お前はそういう奴だ。
肉眼で見たどの剛速球よりも、テレビで見るプロ選手たちのどのストレートの何十倍、何百倍もの速さで迫る人の身体。
眼球はその速度をとらえていた。タイミングを見計らって腰は自然と回転した。右肩の古傷は痛んでも体に染みついていた全身の連動は滞りなかった。
あの始めてダンジョンに潜った時から『素振り』は毎日欠かさなかったから。
迫る。来る。剣神の大剣が。でも狙いは【剣神】自身。奴の身体。
【棍棒術】がレベル50に至った時手に入れた新たな『技』
その『技』に威力はない。
その技で敵を滅ぼすことは出来ない。
ただひたすらに『遠くへ弾き飛ばす』。そんな使いどころが分らない技。
「ふぅ~……はぁ~……」
俺はこの瞬間、理解した。この技の唯一の使い道を。
戦いの余波を防ぐ【結界】はもうない。
近場にダンジョンも存在しない。
これ以上戦ってたら帝都に致命的な被害が出る。
だから今、俺はその悪い冗談みたいな名前を叫んだ。
「食らえ! 『ホームラン』!!!! 」
『グワキィーーン』という金属バットの甲高い音が帝都の端まで響いた。
【剣神】の身体は冗談のように吹き飛ばされる。青い空を飛び越えて、赤い空が広がる遥か彼方まで。
大歓声に引かれてチラリと後ろを振り返る。
全員が全員、飛び跳ねて喜ぶ中。一人だけ、リューカだけがまだ戦いが終わってないことを知っていた。
その揺れる目を真っすぐ見つめてから俺は声に出さずに呟いた。
『行ってくる! 』
「行ってらっしゃい……! 気を付けて……」
返って来た震える声を胸に抱え、俺は跳び立つ。
全ての戦いを終わらせに。