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ただの金属バット

「拾っててくれたのか! すげえな、無くした時そのまんまだ。でも何で今? 何のために? 」



 疑問は絶えない。沸き上がった質問はそのままリューカにぶつける。



「その武器は世界を移動するためのいわゆる触媒」


「触媒……?」


「向こうの世界から来たモノを身に着けることで世界の移動をしやすくする狙いなの。この丘にずっと置いていたのは触媒としての機能を維持するためだね。この世界の中で最も剣太郎が居た場所に近いのはこの場所だから」



 化学実験の時にしか聞かない『触媒』という単語に一瞬動揺したが、言いたいことは分かった。ダンジョンを攻略するだけではもはや戻れない俺を無理やりに元居た世界へつなぎ合わせるための道具なんだろう。



 ――感心している俺は気づかない。気づけない。思い出せない。俺がこの場所の名前のどこに引っかかりを覚えてたのかを。完全に忘れてしまっていた。まるで何らかの【魔法】で記憶から消されてしまったように。――



「なるほどなぁ……。実は今、手元に【棍棒】が無くて困ってたんだ。最後の一本もホラ。この通り」



 ポケットから取り出したのはこの世界に持ち込んだ最後の金属バット。宝石騎士レドヴァンとの戦いの中で(グリップ)だけになったそれにもはや【棍棒術】の条件を満たすための武器としての機能は一切なかった。


【鑑定】してみてもその事実がはっきりするだけだろう。今、実際にやってみても変わらないはずだ。



「【鑑定】」



『壊れた金属バット(SSF バランス・スラッガー 3DNG-MF)

 製造年数:西暦2015年 

 製造場所:岐阜県・千駄木村山市・AZA金属加工場

 製造者 :無

 装備品種:[武器]棍棒

 前使用者:城本剣太郎


 [武器耐久力]: 10+78601(破損したため0)

 [武器攻撃力]: 10+69192(破損したため0)


 装備概要:

 ・野球用具

 ・金属製

 ・スキルレベル20を超える【強化】の魔法で[耐久力]と[攻撃力]を  

 底上げされている。

 ・しかし破損しているため武器としての体裁は満たしていない。   』



「そのバットにも【強化】の魔法が使われてるんだね」


「そうなんだ。知り合いに1人この手の魔法が得意な奴がいてさ。ソイツに武器のためのバットを何本か支給してもらっているんだ。俺の使い方が荒いせいですぐに壊れちゃうんだけど」


「なるほど……そういうわけ(・・・・・・)だったの。それなら、こっちのバットはもっと早く渡すべきだったね。ごめん」


「いやいいんだ。そのバットは何の【魔法】も『武装強化液』も使われていない正真正銘のただの(・・・)バット。元から今の俺はそれを武器としては使えない」



 リューカはなぜか謝りながらバットを渡してきて、俺がそれを両手で受け取る。グリップを握ると懐かしい感触と共にこのバットで撃破した様々なモンスターの思い出が浮かび上がってくる。


 最初は爺ちゃん家の部屋の中でたまたま目に入ったその一本を幽霊トンネルの噂を確かめに持って行ったんだっけ? 本当に懐かしい。瞼を閉じれば今でもあの鬼怒笠村での戦いを思い出せる。


 手元のバットはそんな幾つもの戦いのことなんて素知らぬ様子で、傷一つない表面の照り返しを俺に向かって放っていた。


 よくもまあここまで壊れずにもったな。あんな雑な使い方をしてたのに。



「理由はどうであれ……本当にありがとう。異世界に行って帰って来たお土産としては十分すぎるよ」



 頭が上がらない。この異世界放浪の間はリューカに感謝してもしきれないほどに助けられた。



「お互い様だよ。私もそっちの世界に行ったとき剣太郎に沢山助けられたから」


「そう言ってくれると……素直にうれしい」



 俺達はお互いに笑いあった。


 最初はリューカが俺のことを自己暗示で忘れてしまったりなどして大きな『すれ違い』が起きてしまったモノの、最後はこうして笑顔で2度目の別れの挨拶を言えるようになったことは喜ぶべきことだろう。


 俺はリューカの指示に従い小高い丘の頂上、遺跡の中心に立った。



「それじゃあ始めるね」


「おう、頼んだ」



 リューカが何らかのハンドサインと共に、遺跡の一部に手を当てて何かを呟く。すると、ただでさえ濃かった丘に満ちた魔力が一気に高まっていく。


 丘が、大地が揺れ始めていた。


 空気が、大気中がビリビリと震えた。


 空間が徐々にゆっくりと辺り一帯を巻き添えに歪み始めた。



「リューカ。やべぇ! 俺のバットが! 」



 右手に持った俺のバットはトンネルからダンジョンに向かう際のエネルギーを遥かに上回る今回の移動には耐えられそうになかった。右腕ごとブルブル震えながら荒れ狂い、今にもバラバラになりそうな――――気がした。



「……? 大丈夫! このまま行こう! 」



 リューカはなぜか小首をかしげていた。轟轟と吹く暴風の中、彼女だけは恐ろしいほどに冷静だった。


 対して俺は心配性を発動させて、慌てふためいていた。



「いや! でもバットが……触媒が……! 」


「その強度なら壊れることは絶対ないよ! 」


「……ッッ!? いや! 見てくれリューカ! このバットはただの……」



 ――爺ちゃんの家にあっただけのただの『金属バット』なんだ。――



 確認のために【鑑定】スキルを使うことに迷いは無かった。



『金属バット(エスエスアイ ジーニアスシリーズ 3DNG-AFK)

 製造年数:西暦2004年 

 製造場所:岐阜県・千駄木村山市・相沢金属加工場

 製造者 :無

 装備品種:[武器]棍棒

 前使用者:城本剣太郎



 スキルレベルが上がったことで前よりも遥かに情報量が増えている。流れるようにそのまま装備概要を確認した。



 装備概要:

 ・野球用具

 ・金属製



 そうだった。このやる気の無い説明に見覚えがある。懐かしい。これこそ俺の知っている、かゆいところに全く手が届かない昔の【鑑定】スキルだ。


 そうだ。もうこれ以上、情報は……………………



 [武器耐久力]: 9+999995

 [武器攻撃力]: 8+790321


 ・スキルレベル99の【伝説武装】のスキルによって強化されている。


 ・スキルレベル99の【破壊の御子の加護】が付与されている。


 ・スキルレベル99の【硬化】の力が与えられている。


 ・スキルレベル99の【偽装】によって力が隠されている。


 ・スキルレベル99の……………――――――











「は?」 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いですね。 [気になる点] 「は?」w [一言] この作品が大好きです。 毎日更新してくれてありがとう。
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