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乱入者

 この人数で使うには広すぎる闘技場にエルダの告発がこだまする。ほんの数秒だけ反応が遅れた13騎士団の面々は即座に反論を繰り出した。『あり得ない』、『そんな訳がない』、『団長が代表騎士に選ばれた我々への醜いやっかみだ』、第一『そんなことをする意味が無い』と。対してエルダは――――



「フフフ…………フハハハハハ…………ハハハハハハハハハ!! 」



 ――――哄笑した。



「本ッ当に……おめでたい方達ですねぇ! 13番は! 慈善活動ばかりしたせいで頭の方も随分おめでたくなってしまったようだ! 」



 くの字に折れ曲がり、腹を抱え、唾を飛ばした。


 その様子に連れてこられた民衆達はか細く悲鳴を上げ、エルダの部下達はニヤニヤと笑みを浮かべ、13騎士団は――――とうとう剣を抜き放った。



「言わせておけば! そのよく回る口ごと……! 」


「なんです? 怒るのですか? 」


「当然だ! 我ら13騎士団の誇りをここまで穢されて黙っていられるわけが無いだろう! 」


「面白いことを言う方々ですね……では聞きましょう。帝都の外からわざわざ連れて来た難民の子供の検査を我々も巻き込んで行ったのを皆さんはご存じですか?」


「……? 」


「知っていますか? さらにその後……昨晩二人が何をしていたのか? この数日間の彼ら二人のいつもとは違う奇妙な行動の数々を? まるで何かの準備をしているような」



「それは……」


「知らないですよね? 当然ですよ。アナタ達は騎士団幹部と一口に言っても、言ってしまえば『新入り』でしかないのですから……」



『新入り』の一言を言った瞬間、怒りに打ち震え腰の剣に手をかけていた騎士達にほんの少しの動揺が現れた。ある者は眉を顰め、ある者は剣柄を握る力を緩め、そしてある者は視線を後方(・・)へ一瞥した。



「長年、帝都防衛においての課題であった『迷路の迷宮』の攻略から始まり、【第二次大陸戦争】を始めとする全ての戦いで功績を上げてきた第13騎士団……私は理解していますよ。アナタ達がなした数々の功の偉大さ……そしてそれを為しうるためにどれほどの犠牲(・・)を払うことになったということも……」



 気づけばその場にいる全員がエルダの言葉に聞き入っている。この瞬間、この場の主導権は完全にエルダのモノとなった。そこからのエルダは止まらなかった。



「正直に言いますと私は13騎士団の団員の名前を覚える必要はないと思っています。どうせ2か月も経てばまるっと入れ替わりますからねぇ」


「結局、理解していないのです……いやできないのですよ。彼女がどのような人間なのかを理解する前にいなくなるのですから」


「思い出してみてください。聖女と呼ばれる彼女が歩んできた道のりにどれほど血が流れて来たか」


「それでも尚……時間の壁を越えて彼ら二人のことを真から信じ、その一挙手一投足を『理解』できているとアナタたちは言い切れるのですか? 」



 エルダの問に誰一人として返す者はいなかった。痛々しい無言。それが第13騎士団の幹部と呼ばれる面々に広がっているのを見てエルダは会心の一撃を加えることに決めた。



「さらに貴方たち13騎士団の『新規加入者』が信用されていない証拠を教えて差し上げましょう。アナタ達の団長。聖女殿は――――


        ―――あともって数日の命です。


この事実は確実に彼女自身も把握している筈です。アナタ達には一言でもその報告がありましたか? 」



 沈黙し停滞していた空気が凍てついた。


 手に持っていた剣を取り落とし、鎧をカタカタ震わせながら13騎士団の幹部たちはは後ろへ振り返る。終始一言も発することなく事態を後ろで静観していた白銀の鎧を纏うリューカ・ラインハルトに。



「……エルダ団長……誤解を招く言い回しは辞めてください」


「誤解ィ? そうですかな? 貴方が『代表騎士』に任命された本当の理由を誰もが知れば、涙すると思いますよ! 帝都中がねぇ! 」


「私に自殺する気はありません」


「人にはどうすることも出来ないときがあります。私も……神権を代行する我らが皇帝もそして……聖女と呼ばれるアナタでさえ」


「でも……私にできなくても……エルダ団長ならできることだってあります。お願いします。ウチの副団長と無実の人たちを解放してあげてください」


「それは出来ません。この者どもには殺人容疑そして……あなたの大事な副団長にはウチの大事なレドヴァンを痛めつけた疑いがあるのですから。それになによりお願いをするというのなら相応しい態度があるはずですよ?」


「私たちが昨晩見た時よりも彼は随分(・・)傷が増えているようですけど」


「その証拠はどこにもありませんよね? 」



 してやったりと言った顔のエルダと一瞬視線を合わせたリューカは目をつぶった。



「分かりました。エルダ団長。私に出来ることがあれば何でもします」



 リューカが放った一言で再び空気は凍り付く中、エルダだけが恍惚の表情を浮かべた。『その一言がずっと聞きたかった』とでも言うように。



「ならば………まずは…………………」



 エルダは言葉を溜めたまま息を深く吸った。まるで怒鳴り上げる準備をするように。



「……………土下座しろぉお!! 聖女おぉぉおぉおおおお!!! 」



 誰もが予想していたエルダの大爆発は広い闘技場の端から端まで震わせた。



「上級貴族もどきの没落家系の出がぁ俺に散々恥をかかせやがって! これまでの全ての不敬、不遜をまず! 今すぐ! ここでぇ! 謝罪しろぉお!! 」



 髭を逆立たせ、肩を怒らせ、顔面を赤熱させて絶叫するエルダ。対照的にリューカは顔色一つ変えずに無言のまま片膝をついた。



「団長! 」


「団長殿! 」


「リューカ様! 」



 口々に声を上げ駆け寄ってきた団員たちにリューカはまず謝罪した。



「ごめんなさい」


「顔を上げてください団長! あんな男の一言で我々の信頼が崩れ去ることなんてありえませんよ! 」


「だけど……皆に黙って2人で動いていたのは本当の事なの。私の個人的な事情だったから巻き込めないと思って」


「だからってそんな……! 」


「リューカ様が副長と行っていた行為は……私たちが信じる第13騎士団の誇りと理念に……積み重ねてきた行動に反するような行いのですか!? 」



 仲間からの問いにリューカは目を開き、喜びに満ちた柔らかい笑みを浮かべた。



「ラインハルトの家名に懸けて誓う。私たちは今までの全ての仲間たちに恥じる行いはしてない……。ありがとう。皆。私たちを信じてくれて」



 その瞬間、第13騎士団にはかつてあった結束と信頼が舞い戻る。そして今度はそれが二度と揺らぐことが無いほどに強く、結ばれた。



「おや……おやおや……おやおやおや…………聖女の軍勢はやはり宗教染みていますね……この国で信じられている教えはただ一つ『皇帝が絶対』ということだけですよ? 」


「それなら……今から謁見の場を設けましょうか? どちらが正しいかあの方に判断を仰ぐために」


「フフフ……それは駄目です……認めません。だからこう(・・)させてもらいます」



 エルダの合図とともに一斉に剣を抜き放つ第12騎士団。彼らは鎖でつながれた平民とラウドに一斉に剣を突き付けた。



「動くな。13騎士団とその団長。貴様ら反逆者は全て制圧する」


「エルダ団長……初めからそのつもりだったのではないですか? 」


「フフフ……どうでしょう……ただ一応(・・)念のため(・・・・)貴方たち13騎士団の幹部級全員を相手取れるくらいの手勢は用意してきました」



 言葉を切ると共に指を打ち鳴らすエルダ。同時に、闘技場に作られた4つの出口から一気に騎士たちが一斉になだれ込んでくる。あっという間にリューカたちは囲まれてしまった。



「この帝都中央部では諜報系統スキルの全てが無効化されているため気づかなかったでしょう? 第12騎士団勢ぞろいです。この数ではさすがの古今無双の貴方たちですら難しいでしょう…………そして……先述した通り【索敵】スキルの類は使えないので断言は出来かねますが……貴方たち13騎士団の本隊が現在は圏内警備をしていることは把握済みです……すなわち援軍は――――」



 髭面の団長が言葉を言い終える前。


 その間隙を突くように。 


『彼』は突然、空から現れた。


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