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告発

 数百年の歴史を持つイヒト帝国の中心都市。帝都。極西大陸有数の超巨大城壁都市でありその人口は数百万を超える誰もが認める大都市だ。


 そんな帝都は3つの『芯』、3つの機能で成り立っていると言われている。


 一つ目は皇帝の住まう城、【天帝城】。2つ目は城の地下に併設されている政治の中枢であり、上級貴族のみが参加を許された【賢人会議】。


 そして3つ目は、帝国市民の中でも上澄みである貴族の中のさらに上澄みにのみ関係のある上記2つとは違い帝都に住まう全員が関与し参加(・・)できる施設。上記2つと同じ都市中心部に位置し、帝城にも引けを取らないほどの大きさを持つ。『帝国陸軍第一公開演習場』という長ったらしい正式名称をもつこの場所のことをごくまれに開かれる『とある催し』の影響(・・)もあって人々は【闘技場】と短く呼ぶ。 




「よくぞお集まり頂きました。第13騎士団の主要幹部の皆さま……」



【闘技場】に響く朗々としたエルダの声。最初に反応したのは幹部の一人の女性だった。



「エルダ団長……これ(・・)は何の真似ですか? 」



 その問いに無言のニヤニヤ笑いで返答するエルダ。そこから始まった沈黙は一分以上も続いた。


 そんな異様な雰囲気に包まれている【闘技場】の状況はまさに異常だった。


 広い円形の平面空間の中央で十数人が二つに分かれて対峙している。どちらの勢力もほとんどは騎士の鎧を纏っているもののエルダの方はその限りではない。エルダの足元に一人、傍らに布をかぶせられた一人という陣容だ。


 痛いほどの沈黙を破ったのは――――



「ぐぅ……がぁ……ッッ! 」



 エルダの足元で気を失っていたラウドのうめき声だった。鎧をはぎ取られ体中を痛めつけられている状態の。



「ラウドさん! 」


「副長! 」



 駆け寄ろうとする13騎士団の団員たちにエルダは剣を突き付けた。



「止まりなさい13騎士団。そこから一歩でも動けば貴方たちのことを丸ごと捕縛しますよ」


「……ッ!! 何を馬鹿な! 」


「一体なんの権利があるっていうんだ! 」



 当然の疑問をエルダに投げかける13騎士団の面々。怒りに打ち震える彼ら彼女らの表情を見てエルダは一層深い笑みを浮かべる。



「もちろん! お教えしましょう……! 貴方たちを呼んだのはそのためなのですからね……さあ! 入ってきてください! 」



 エルダ達第12騎士団と13騎士団の面々以外に人っ子一人いなかった闘技場に数人の集団が入ってくる。


 腕と足を鎖でつながれ、騎士に足蹴にされて入ってくる彼らの表情には絶望と不安と恐怖で満ち溢れていた。



「この人たちは……? 」


「彼ら……いやこの者らは最近帝都の下層街を賑わしているベット(ベッド)で縛り付けてから嬲り殺しにするという非常に猟奇的で凄惨な『婦女暴行殺人』を何度も行っていた集団です。ちょうど昨日、我ら12騎士団の一員である騎士の一人が彼らの犯罪を突き止めたのです」 



 朗々と説明するエルダと突如目の前に連れてこられた平民の犯罪者たちに13騎士団は一瞬だけ怒るのを忘れた。無言の彼らの表情は話すよりも雄弁に彼らの心情を物語っていた。『一体この人たちと副団長(ラウド)が何の関係があるんだ? 』と。


 その瞬間をエルダは見逃さなかった。まるで心の隙をつくようにまくしたてる。



「ですが……非常に残念極まりない事に……この下手人たちを検挙した私たちの騎士は犯人逮捕の寸前『何者』かに襲われたのです! はっきり言いましょう! 彼……レドヴァンをこのような無残な姿に変えたのはこの男……我らの同胞であり、貴方たちの上官であるラウドなのです! 」



 驚愕が数十人に伝播したのを見計らってからエルダは隣の人物にかぶさった布を剝ぎ取った。エルダの隣には体中を血に滲んだ包帯で巻かれた男が虚ろな目をして立っていた。まるで全裸の状態から何十時間(・・・・)も殴りつけられたようなアザと傷だらけの体。特に顔面の傷が酷い様で顔の下半分は殆ど見えていない。これでは自分の名前すらまともに話すことはできない(・・・・・・・・・)。見る者にそう思わせる状態だった。


 腐っても自分と同じ帝国騎士が何者かにこれほどまでに痛めつけられた。その衝撃に怒りを忘れ黙りこくってしまう13騎士団。そして思わず、エルダに誘われたままに、考えてしまった。一体()ならこの蛮行が可能なのかと。そこから長く続くと思われた沈黙は予想もしない人物に破られることになる。



「ち、違う! お、お、お……俺たちはやってねぇ! 殺したのは――――」


「口を慎め! ここはお前のような下賤の者が意見できるような場ではない! 」



 突然、声を張り上げる鎖でつながれた男。エルダの部下が顔を踏みつけて制しようとするが男は話すのをやめなかった。



「俺達はやってねぇ! 俺達じゃねぇんだ! 信じてくれ! 聖女様(・・・)! 」



 闘技場の地面に押し付けられた男が『聖女』と言った瞬間、うつむいたエルダの顔は『邪悪さ』の最高潮に達していた。その愉悦とも、感動とも、恋心を抱く少年とも言えないようなおぞましい表情は語っていた。全て『計画通り』と。



「聞きましたかな? 13騎士団の諸君。この犯罪集団の親玉であるウニロという男は窮地に立たされとうとう自分の親玉にすがろうとしました。ここに告発します! 第13騎士団団長リューカ・ラインハルトと副団長ラウド・イル・エストの両名は国家反逆の意思があると! 」 


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