とにかくでかいステータス
指数を表記するのに画像を使っているので画像表示をONにしておいてください。
クラスまるごと異世界に転移した。
『はいっ、2年A組のみなさんは死にました! 修学旅行のバスに反物質爆弾が仕掛けてあって、全員骨も残さずきれいに蒸発しました。見ものでしたね。それでですが、生前の情報をもとに皆さんの体を再構成させていただきました。特に理由はありません。私の気まぐれですね。これから皆さんはチートをもらって異世界に行って適当に暮らしてもらうことになります』
そんな声に我に返ると、そこは飾り柱で囲まれた広い円形の広場だった。
壁も天井も無く、広場の際に建つ柱の向こうで床は無くなっていて、言うなれば巨大な丸いテーブルの上にいるような状態だ。
まわりを見回すと、聞こえてきた言葉通り、クラス全員がそろっているようだ。
円形の広場の一方は柱がなくなっており、そこに語りかけてきた声の主がいた。
神だ。
一見してそう思う。見るからに神だ。
何せでかい。姿かたちは人間の女性と変わりなく見えるが、サイズがでかい。
俺たちがいる円形の広場の床の途切れた端から、上半身だけを出した状態で頬杖をついてこちらを見下ろしている。
うすら笑いを浮かべる巨大な顔は、見上げるような高い位置にある。
普通の人間の10倍では利かないだろう。20倍はありそうだ。
「キングダークみたいだな」
『キングダークって何ですか?』
「やべっ、心が読める系!?」
『声に出てましたよ?』
何と。
周りのクラスメイトが非難の目をむけてきて、俺は口を押さえて縮こまる。
ただでさえクラスでの俺の立ち位置は最底辺、いや同じ立場にいる奴はいないから最低点か。そんなスクールカーストはこんなところに連れてこられてもまだ続いていた。
『それにしてもみなさんおとなしいですねえ。こういうときは何か文句をつけてくる勇ましい方が出てくるものと思ってました。怖がってるのかな? いいですね、怖がられるのは好きですよ』
そりゃあ怖いさ。こんなでかい相手に強気に出られる奴はそうそういないだろう。
『でももうちょっと元気出して欲しいですね。そうだ、誰か殺しましょうか? きっと元気出ますよ!』
うつむいていたクラスメイトたちもギョッとして顔を上げる。
「だだ大丈夫です、元気でました」
「元気です、元気です」
必死で元気アピールを始める。
『あらそうですか? では話を進めましょうか。皆さんにチートを配ります。皆さんの前にそれぞれルーレットがありますね? 回してください』
言われて気づくと、いつの間にか目の前に円盤が浮いていた。
回してくださいと言っていたのに、ルーレットが何もしないうちに勝手に回り始める。
どうも扱いが雑な気がする。
神にとって俺たちは丁寧に扱うほどの存在ではないのかもしれない。
『では好きなタイミングでボールを投入してください』
そしてまた、勝手にボールが回るホイールに投入された。
「ちょっ……」
雑すぎるだろ。
まあ自分で投げ入れたところで出目をコントロールすることなんて出来ないんだから同じことなんだが。
だが周りを見てみるとどうも勝手に回り始めたのも勝手にボールが投入されたのも俺だけみたいだ。
他のクラスメイトたちは自分のタイミングで回し、投入している。
なんで俺だけ。
「20だ」
「私も20」
「おれは18だった」
「19だ」
「20!」
「17かー」
周りで次々に数字が確定していく。
みんな高めな気がする。ホイールの数字は20までしかなかったはずだ。
俺が最後だった。
円盤がゆっくりになっていき、止まる。
球が〔10〕で止まりそうになり、
(ちょっ、低いぞ!)
その隣の〔5〕に落ちて止まった。
「え……」
これは……大きい方が良いのか? 小さい方が良いのか?
『皆さん数字が決まりましたね。その数は大きいほどいいです。次に、その数を使って、計算をしてもらいます。その計算結果が、皆さんに与えられるステータスポイントになります』
マジかー。大きい方が良いのかー。
だとすると他に16以下はいないっぽいクラスメイトの中で俺1人だけ〔5〕って、差が大きすぎないかい。
しかし計算って。
「なんでわざわざ計算なんか。まわりくどいな」
『まわりくどくてすみませんね。特に意味はないんですよ。全部私の気まぐれですから』
……また口に出てたらしい。周りから睨まれる。
気をつけないと。
『まずもらった数を二つに分けてもらいます。足して元の数になるように。〔10〕なら〔5と5〕とか〔1と9〕とかです。順番は関係ありません。〔10と0〕というのは無しです。どう分けるかは後からでも変えられますから、今決めなくてもいいですよ』
俺の場合は〔1と4〕〔2と3〕だけか。
どうもかなり不利な気がする。
『そしてその二つの数で計算をしてもらいます。皆さんの前に電卓がありますね?』
目の前に電卓が浮いていた。
さすがに今度は勝手に計算を始めたりはしないようだ。
『記入窓が3行あります。1行目に数、2行目に演算子、3行目に数が入ります。それで二つに分けた数を皆さんの好きなように計算してもらって、その計算結果があなたたちに与えられるステータスポイントになります。もちろん計算結果が大きければ大きいほど得ですよ』
電卓には0から9までの数字と、
プラス〔+〕
マイナス〔−〕
かける〔×〕
わる〔÷〕
小数点〔.〕
それと上向きの矢印〔↑〕のキーがあった。
この矢印はなんだ?
『矢印は累乗の演算子です。例えば、
1行目[5]
2行目[↑]
3行目[5]
とすれば、〔5↑5〕という式になり、これは5の5乗、〔5×5×5×5×5〕で〔3125〕になります』
累乗が使えるのか! だとしたらかなり大きい数を作れる……いや、ダメだ、〔1と4〕は論外として〔2と3〕しか俺は使えない。〔2の3乗〕は〔8〕にしかならないし、〔3の2乗〕も〔9〕にしかならない。
それに引き換え〔20〕の数をもらったやつは〔10と10〕に分けて〔10↑10〕とすれば、〔10の10乗〕で〔10000000000〕にすることもできる。
クソ、差が大きすぎるだろ。
「10↑10 で 10000000000 にするよりも 7↑13 で 96889010407 にした方が大きくなるな」
「私は 6↑11 で 362797056 が最大かな」
神の電卓にはなぜか計算結果を表示するところが無いので、クラスメイトたちはスマホの計算機で計算結果を確かめている。
まわりで次々に巨大な数が作られていく。
このまま俺だけ1桁なのか?
低い数字に苦悩する俺に、クラスカーストのトップの陽キャのテニス部の男がいつものように見下した目を向けてきた。
「底辺はどこにいっても底辺だな。どう計算しても1桁かよ」
「えーヒトケタ! ウケる! 残念賞ー」
「残念なのは本人だけ〜、オレらにはどーでもいいことでーす」
「あはははははは!」
『皆さん元気ですねえ、よかったよかった』
クソッ、クソッ、何とかならないのか!
歯を食いしばって電卓を見つめる。
にかけるさん……さんわる……よんひくいち……ダメだ、どうしたって小さい。
プラスとマイナスに分けるのは……ダメか、1行目と3行目には数字しか入れられないみたいだ。
答えがマイナスになると何か特別なことが起こるかもしれないと〔1−4〕と入れてみたが、エラー表示が出た。
『答えがマイナスになるのはナシですよー』
何かないか、何か……。
ふと気づいた。
記入窓がヤケに長い。
〔20〕が最大の数のはずなのにもっとずっと大きい桁を入れられるみたいに。
いや、小数点があったな。
俺の場合なら〔2.5と2.5〕とか〔1.000001と3.999999〕とかに分けることもできるのか。
でもそんな細かい分け方したところでたいして大きい数には……
……いや待て、小数?
10 を 5 で割れば 2 だ。
10 を 2 で割れば 5 だ。
10 を 1 で割れば 10 だ。
割る数が小さいほど、計算結果は大きくなり、1で割った場合は割られた数と計算結果は等しくなる。
では1より小さい数で割ったら?
10 を 0.5 で割れば 20 だ。
10 を 0.2 で割れば 50 だ。
10 を 0.1 で割れば 100 だ。
割られた数よりも大きくなるのだ。
0.1 で割るのは 10 を掛けることに等しい。
0.001 で割るのは 1000 を掛けることに等しい。
期待に震える手で、1行目に、
[4.9999999999999999999]
と打ち込んでいく。
20桁まで行けるらしい。
数値確定ボタンを押すと、自動的に3行目に
[0.0000000000000000001]
と表示された。足して〔5〕だ。
2行目に[÷]を入れる。
[4.9999999999999999999]
[÷]
[0.0000000000000000001]
0.0000000000000000001
で割ることは、
10000000000000000000
を掛けることに等しい。
これで計算結果は
49999999999999999999
になるはずだ。
〔20〕のやつが累乗で作ったせいぜい11桁の数よりずっと大きい20桁の数だ。
やったぞ。バカにしやがって。ざまあみろ。
「へえ〜」
俺のすぐ後ろで声がした。
ビクッとして振り返ると、クラスの不良が俺の電卓を覗き込んでいた。
見られた。
「あ、あの」
不良はニヤニヤと笑いながらクラスメイトの方に向くと。
「おーいみんな! こいつこっそりとでかい数字作ってるぜ! 自分だけ得する気だ!」
と叫んだ。
「はあ!? どうやるんだ?」
「1より小さい小数で割るんだよ。けっこー長い桁入れられるからそれででかい数字になる」
「あー、なるほど、言われてみれば」
「抜け駆けかよ」
「性格ワリィ〜、サイアク〜」
「クズが!」
クソ、なんとでも言え!
これで俺のステータスポイントもでかい数になる。
みんなが計算法を真似してくるだろうけど、これならそこまで格差は大きくならない。
1桁と11桁の差よりはずっとマシだ。
だが、そこで神が言ったことが空気を変えた。
『ちなみに皆さんの中で一番計算結果が小さかった方の能力が、これから行く異世界の人間の平均になるように調整されます』
え、じゃあ数字がどんなにデカくてもクラスの中でビリだったら異世界の平均にしかならない……?
そして。
ということは。
『ビリの方との計算結果の差が大きいほど、異世界平均からの差が大きく、異世界での能力が高くなるということですね』
クラス全員が一斉に俺を睨みつけた。
これまではみな自分の数字を大きくすることに注力していた。
それが、『ビリになる人間の数字を小さくすること』に目標が変わったのだ。
俺の数字が小さければ小さいほど、他の人間の能力が強くなる。
『ここでは暴力は禁止ですからね。言葉による説得でどうぞ。ちなみにみなさんが異世界で現れるポイントは、凶暴で強力なモンスターがウヨウヨいる危険な深い森の奥です。全員同じ場所に現れますよ』
「……おい、底辺、分かってんだろうな」
「言っとくが、もしその数字のまま変えなかったら、異世界行った時点でてめえをリンチにかける。オレら全員でな」
「そんな……!」
見回したクラスメイトたちの目には、実際にそうするという意志がみなぎっていた。
「どうせお前がビリなんだからどうしたってお前の強さは変わんねえんだよ! ここでの数字が低くたって同じだ。オレたちが強くねえとモンスターに勝てねえだろうが!」
「平均になれるだけマシでしょ! 異世界の底辺じゃないんだから! 贅沢言うな!」
「数字を小さくすれば向こうに行ってから守ってやる。しなかったらすぐ見捨てる。考えるまでもないだろう」
守ってくれる保証なんかあるもんか。
見捨てたってこいつらには何の損もない。
数を小さくしたって絶対に見捨てられる。
確信があった。
だがこのままでは。
この計算式のまま変えなかった場合だと、他の奴らとの能力差は俺の3〜4倍くらいだろう。
それが敵として30人。
『あちらの世界でみなさんが出現する場所ですけど、いきなりモンスターに襲われないように、出入口が一つしかない頑丈な建物の中です。そこにみなさん一緒に出現します。扉を開けるのにちょっと手間がかかる構造になってますよ』
絶望した。
逃げることすら無理だ。
くそ、くそ、女神も俺に不利なことばっかり言いやがって、ルーレットが勝手に回ったのもボールが勝手に入ったのもお前の仕業なのかよ。俺だけ数字が低いのはワザとなのか? くそ……
「さっさと小さい数字にしろ底辺!」
涙がボロボロこぼれた。
震える手で電卓に手を伸ばす。
1行目に[3]を入れる。
自動的に3行目に[2]が入る。
くそ、くそ、くそ、くそ……
何で2行目もヤケに長いんだ?
〔+〕とか〔×〕とかの演算子しか入らない2行目だ。
1文字入れば十分のはずだ。
小数で割ることに気づいた時よりも遥かに強い興奮が身体中を熱くする。
まさか、まさか?
悔しさではなく、期待と高揚感に震える手で、2行目に[↑]と入れる。
「ああ!? 何やってんだ! マイナス入れろよ!」
「せめてもの抵抗か? まあ、1 が 9 になったところでたいして変わらん。比じゃなくて差で決まるみたいだからな。だがちょっとばかり守る気が失せたな」
『そろそろ時間切れということにします! 皆さんも式を見直してくださいね! 時間がきたら計算結果が確定です!』
突然、女神が大きな声で宣言した。
ハッとして見上げると、女神は意味深な笑顔でこちらを見下ろしている。
このタイミングで? 何にせよ都合がいい。
まだ小数での割り算に直してなかったクラスの奴らがあわてて式を書き直し始める。
俺は待つ。
他の奴らが真似できないタイミングを待つ。
『計算の見直しは終わりましたか? では終わりにしますよ!』
ここだ。
俺はすかさず、演算子を入れる2行目に[↑]をさらに入れ始めた。
[↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑]
よしっ! 入れられるぞ!
「てめえ、何やってやがる!」
怒鳴る不良に構わず、続ける。
[↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑]
『時間切れです! 計算結果が確定しました!』
20個目の[↑]を入れると同時に、女神が宣言した。
クラスメイトたちは俺が何をしたのか分からず、ポカンとしている。
俺の計算式は、
[3]
[↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑]
[2]
で確定した。
『ぷくくくく、あはははははははははは! では皆さん、それぞれ個室でステータスポイントの振り分けを行なってください。もう、たまりませんね、この瞬間は。理解してない顔がまた最高です。くくっ』
「いったい……」
何か言いかけたクラスメイトたちの姿が消えた。
『無駄な振り分け頑張ってくださいねー』
俺だけが残った。
「……それで、本当にこんな巨大数をステータスに実装できるのかよ」
弄ばれたという気分が強くて、口調はぶっきらぼうになる。
『もちろんできますよー。君もどれくらいの数になったのか把握できてないでしょうけど。『それ』の計算結果より私はもっと大きい存在ですからね。ふふ、絶望からの反転はやはり気持ちいいですね。では君もステータスポイントの振り分け、楽しんでくださいね』
【クヌースの矢印表記】というものがある。
これは、極めて巨大な数を表すための表記法だ。
累乗を繰り返す操作、その操作を繰り返す操作、その操作を繰り返す操作、みたいな感じで表現される。
基本的なところから見ていくと、
まず足し算を繰り返す操作は掛け算になる。
例えば 3 を 5回 足せば
3+3+3+3+3 = 3×5
掛け算を繰り返す操作は累乗になる。
例えば 3 を 5回 掛ければ
3×3×3×3×3 = 3↑5
そして累乗を繰り返す操作は、テトレーションと呼ばれるものになる。
例えば 3 を 5回 累乗すれば
3↑3↑3↑3↑3 = 3↑↑5
この 3↑3↑3↑3↑3 を一般的な指数の表記で書くと
このようになる。
累乗の繰り返しで注意しなければならない点は、左から計算していく四則演算とは違って、『右から計算していく』ということだ。
例えば 3↑3↑3 であれば、
3↑3↑3
=3↑(3↑3)
=3↑27
=7625597484987
が正しい計算順序である。
これを左から計算してしまうと、
3↑3↑3
=(3↑3)↑3
=27↑3
=19683
と、全く違う結果になる。
同じようにテトレーションの繰り返し、その繰り返し、その繰り返しと、矢印を増やすことでいくらでも続けていくことができる。
3↑↑3↑↑3↑↑3↑↑3 = 3↑↑↑5
3↑↑↑3↑↑↑3↑↑↑3↑↑↑3 = 3↑↑↑↑5
3↑↑↑↑3↑↑↑↑3↑↑↑↑3↑↑↑↑3 = 3↑↑↑↑↑5
これらも計算の順序は右からである。
さて、俺が作ったステータスポイントの計算式は、
3↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑2
である。
これはどれくらいの大きさの数になるだろうか。
試しに、3↑2 から順に矢印を増やして行って、実際に計算してどうなるか見てみよう。
3↑2 は単なる 3 の 2乗 で、
3↑2 = 3×3 = 9
次に矢印2本は
3↑↑2 = 3↑3 = 3×3×3 = 27
矢印3本なら
3↑↑↑2
=3↑↑3
=3↑3↑3
=3↑27
= 3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3×3
=7625597484987
いきなりでかくなった。
矢印4本だと
3↑↑↑↑2
=3↑↑↑3
=3↑↑3↑↑3
=3↑↑3↑3↑3
=3↑↑3↑27
=3↑↑7625597484987
=3↑3↑3↑3↑………………↑3↑3↑3↑3
(7625597484987回の累乗の繰り返し)
ここですでに計算しきれない。
とりあえずできるところまで計算してみよう。
右から計算していくのは変わらない。
3↑3↑3↑3↑………………↑3↑(3↑3↑3)
カッコ内の 3↑3↑3 は上で出てきたように 7625597484987 になる。
3↑3↑3↑…………↑3↑3↑7625597484987
次はまた右端から 3↑7625597484987 を計算しなくてはいけないのだが、 ここでもう無理だ。
3 の 7625597484987乗。
3 を 7625597484987回掛けたもの。
これはとんでもなく大きい数で、十進法で書くと小説家になろうにある全小説の全文の文字を並べたものより長い数字になる。
参考までに、
3↑7625597484987
よりもずっと小さい数である
3↑10000
を実際に計算してみよう。
3↑10000
=16313501853426258743032567291811547168121324535825379939348203261918257308143190787480155630847848309673252045223235795433405582999177203852381479145368112501453192355166224391025423628843556686559659645012014177448275529990373274425446425751235537341867387607813619937225616872862016504805593174059909520461668500663118926911571773452255850626968526251879139867085080472539640933730243410152186914328917354576854457274195562218013337745628502470673059426999114202540773175988199842487276183685299388927825296786440252999444785694183675323521704432195785806270123388382931770198990841300861506996108944782065015163410344894945809337689156807686673462563038164792190665340124344133980763205594364754963451564072340502606377790585114123814919001637177034457385019939060232925194471114235892978565322415628344142184842892083466227875760501276009801530703037525839157893875741192497705300469691062454369926795975456340236777734354667139072601574969834312769653557184396147587071260443947944862235744459711204473062937764153770030210332183635531818173456618022745975055313212598514429587545547296534609597194836036546870491771927625214352957503454948403635822345728774885175809500158451837389413798095329711993092101417428406774326126450005467888736546254948658602484494535938888656542746977424368385335496083164921318601934977025095780370104307980276356857350349205866078371806065542393536101673402017980951598946980664330391505845803674248348878071010412918667335823849899623486215050304052577789848512410263834811719236949311423411823585316405085306164936671137456985394285677324771775046050970865520893596151687017153855755197348199659070192954771308347627111052471134476325986362838585959552209645382089055182871854866744633737533217524880118401787595094060855717010144087136495532418544241489437080074716158404895914136451802032446707961058757633345691696743293869623745410870051851590672859347061212573446572045088465460616826082579731686004585218284333452396157730036306379421822435818001505905203918209206969662326706952623512427380240468784114535101496733983401240219840048956733689309620321613793757156727562461651933397540266795963865921590913322060572673349849253303397874242381960775337182730037783698708748781738419747698880321601186310506332869704931303076839444790968339306301273371014087248060946851793697973114432706759288546077622831002526800554849696867710280945946603669593797354642136622231192695027321229511912952940320879763123151760555959496961163141455688278842949587288399100273691880018774147568892650186152065335219113072582417699616901995530249937735219099786758954892534365835235843156112799728164123461219817343904782402517111603206575330527850752564642995318064985900815557979945885931124351303252811255254295797082281946658798705979077492469849644183166585950844953164726896146168297808178398470451561320526180542310840744843107469368959707726836608471817060598771730170755446473440774031371227437651048421606224757527085958515947273151027400662948161111284777828103531499488913672800783167888051177155427285103861736658069404797695900758820465238673970882660162285107599221418743657006872537842677883708807515850397691812433880561772652364847297019508025848964833883225165668986935081274596293983121864046277268590401580209059988500511262470167150495261908136688693861324081559046336288963037090312033522400722360882494928182809075406914319957044927504420797278117837677431446979085756432990753582588102440240611039084516401089948868433353748444104639734074519165067632941419347985624435567342072815910754484123812917487312938280670403228188813003978384081332242484646571417574404852962675165616101527367425654869508712001788393846171780457455963045764943565964887518396481296159902471996735508854292964536796779404377230965723361625182030798297734785854606060323419091646711138678490928840107449923456834763763114226000770316931243666699425694828181155048843161380832067845480569758457751090640996007242018255400627276908188082601795520167054701327802366989747082835481105543878446889896230696091881643547476154998574015907396059478684978574180486798918438643164618541351689258379042326487669479733384712996754251703808037828636599654447727795924596382283226723503386540591321268603222892807562509801015765174359627788357881606366119032951829868274617539946921221330284257027058653162292482686679275266764009881985590648534544939224296689791195355783205968492422636277656735338488299104238060289209390654467316291591219712866052661347026855261289381236881063068219249064767086495184176816629077103667131505064964190910450196502178972477361881300608688593782509793781457170396897496908861893034634895715117114601514654381347139092345833472226493656930996045016355808162984965203661519182202145414866559662218796964329217241498105206552200001
無茶苦茶な数字になった。
改めて言うが、これは 3↑10000 である。
3↑7625597484987 は、これよりもはるかに、はるかに大きい。
累乗の繰り返しの、たかが4回目でこのザマである。
次の5回目は、 3を (3↑7625597484987)回掛けなければいけない。
3↑↑↑↑2 を最後まで計算するには、3の累乗を 7625597484987回も繰り返さなければならないのだ。
その数の大きさは、地球上の全てのコンピューターのメモリを使っても、ただ格納しておくことすらできない。
それどころか、宇宙と同じ大きさのメモリを用意できたとしても、まるで足りない。
一般に巨大な数と呼ばれるものは色々とあるだろうが、それらはせいぜい阿僧祇(10↑56)とか那由他(10↑60)とか無量大数(10↑68)とか観測可能な宇宙の原子の数(10↑80)とか不可説不可説転(10↑37218383881977644441306597687849648128)とかインフレーション直後の宇宙の大きさ(10↑10↑10↑122)とか、そんな『小さな』数でしかない。
それらは 3↑↑↑↑2 と比べれば、塵ほどの大きさもない。
そして落ち着いて欲しい。
まだ矢印4本の段階である。
俺のステータスポイントは
3↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑2
矢印 20本だ。
女神が言った通り、もう自分でもどれくらいの大きさの数になったか把握できない巨大な数だ。
当然、もはやビリではない。クラスメイトに真似できたやつはいないはずだ。
他の誰かがビリになって異世界の人間の平均の強さに固定されただろうけど、それが億だろうが兆だろうが不可説不可説転だろうがどうでもいいくらい、俺のステータスポイントとの差は開いている。
異世界人間の平均がどれくらいかも分からないが、それが蟻ほどの力しかなくても、銀河系を一瞬で破壊するほどの力があっても、俺のステータスポイントから見ればどちらも同じようなものでしかない。
人間以外の存在の強さは分からないが、想像しうる限りではまず間違いなく俺は異世界最強になるだろう。
まだニヤニヤしながら俺を見下ろしてる女神はもっと強いらしいから増長はできないが。
『振り分けしないんですかー?。とりあえず素早さとかに〔3↑↑↑↑↑↑↑2〕くらいどうです?』
振り分け先のステータスは能力値だけではなく、スキルとか魔法とか技とか所持金とかアイテムとか称号とか地位とか身分とか色々とあるようだ。
『全部で5000個くらいの振り分け先がありますね』
とりあえず重要なのは、器用さと堅牢さへの極振りかな。
これが無いと自分の能力で自滅しかねない。
というか間違いなく自滅するだろう。異世界全てを道連れにして。
【器用】に〔3↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑2〕
【堅牢】に〔3↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑2〕
振り分けた。
あとはまあ、5000個くらいの振り分け先の全てに
〔3↑↑↑↑↑↑↑2〕
ずつ振り分けた。
もう考えるのも面倒になってどんぶり勘定である。
凄まじい量のポイントを消費したが、
〔3↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑2〕
から比べると減った気すらしない。
『今ここでステータスポイントを全部消費しなくても異世界に行ってからでも振り分けできますし、人にあげたりもできますよ。何をしようが使い切れるものでもないでしょうけど』
何をしようが使い切れるものでもないだろうな。
『ちなみにこれから行ってもらう異世界で今のところ最強なのは、アルティメット邪王極魔神インフェラーという方で、ステータスポイント換算で
99999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999
くらいの強さになります』
「それっぽっちかあ」
『これっぽっちです』
普通の十進法で表記しきれるくらいの小さな数などもう何の問題にもならない。
息を吹きかけるほどの手間もかけずに倒せるだろう。
「うん、振り分けはこんなもんでいいや」
『そんなもんでいいですか。ではクラスメイトの皆さんの振り分けが終わったら一緒に異世界に送りますね。今みなさん必死になって頭を絞ってますからまだまだかかりそうです』
5000も振り分け先があるんじゃ悩むだろね。
もうクラスメイトなんかどうでもいいけど。
小数で割る計算方式だと〔20〕の人も〔17〕の人も計算結果の差はあまり大きくならない。
みんな異世界人平均とそれほど変わらない強さになるだろう。
異世界で最初に俺たちが出現する場所にウヨウヨいるという凶暴なモンスターにはたぶん勝てない。
俺がもらったステータスポイントがデカすぎて、ざまぁするのもバカバカしいくらいだ。
安全な街まで護衛するくらいはしてやってもいいかな。
瞬間移動かなんかで送ってやれば早いか。
これから行く異世界で俺はとりあえず無敵で最強で、苦労することはまずなさそうだ。
つまらん異世界人生になるかもしれない。
だが増長はしない。
そこにいる女神みたいなもっと強いらしい存在がいるというのもあるが、なんといってもクヌースの矢印表記などは巨大数の入り口にすぎないのだ。
巨大数の世界はまだまだ先がある。
超階乗、アッカーマン関数、コンウェイチェーン、スタインハウスの多角形、モーザーの多角形、BEAF、巨大数の象徴のような存在であるグラハム数。
矢印表記よりもはるかに巨大な数を表せるものも色々ある。
矢印20本おっ立てたくらいでキャッキャと喜んではいられないのだ。
謙虚に行くさ。
こんな、とにかくでかいステータスでもね。
「おにいちゃーん、わたし隕石に当たって死んじゃった! そしたら異世界に来て女神からステータスポイントを G (4) くらいもらったよ!」
ほらね。
妹がグラハム数ポイントもらって転移してきた。