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第七十七話「リビルドシティからの使者」

 Side 緋田 キンジ


 敵拠点の襲撃――威力偵察ついでに物資を破壊して狭山 ヒロトの町へと戻った俺達。


 到着したころには朝になっていた。


 苦戦を強いられると思ったが少々拍子抜けだった。



 パワーローダーを町の整備工場に預け、

 狭山 ヒロトとミーティングしてひと眠り。


 眠り終えた頃には昼間になり、ふらりと立ち寄った整備工場前でキョウスケとバッタリ遭遇した。


「よお? もっと休んでなくて大丈夫かい?」


「そちらこそな――」


「なんだ? 浮かない顔だな?」


「昨日の夜襲、正直上手く行きすぎてなんだかなぁと思ってな……何かの罠か?」

 

 と、疑問をぶつけるようにキョウスケに言う。


「それだけ俺達が強くなったってことじゃねえのか?」


「そうか?」


 そうキョウスケに言われても今一実感が湧かないのだが。

 まあ油断せずにいこう。


「それで狭山君はなんて?」


「様子見だとよ。撤退か、あるいは奇襲を仕掛けるか、増援が来るまで待つか、自棄になって周辺の集落に破壊活動でもするのか――その4択だと踏んでる」


「撤退か、奇襲、増援待ちは考えてたが周辺の破壊活動は考えてなかったな」


 と、キョウスケは褒めるように言う。


「本当に平凡な高校生だったのかとちょっと疑わしく思える時があるな」


 俺がそう言うと、キョウスケは「この世界で俺達みたいに――あるいはそれ以上の過酷な体験を味わったんだろうぜ」と、返した。


「それで? これからどうするんだ?」


「相手の状況次第でまた増援頼む事になるかもしれん。一応現状は報告してるよ」


「大変だな隊長」


「まあな――正直、このままリビルドアーミーと全面戦争は避けたいが――相手が相手だしな」


「確かに難しいかと。でも希望はあります」


 と、ここでヴァネッサが登場する。


「ヴァネッサ、唐突に現れたな」


 キョウスケが俺の気持ちを代弁する。


「すいません、事が事だったので――」


 と、珍しく低姿勢で返事をするヴァネッサ。


「で、そこのお嬢さんは何者だ?」


 キョウスケはヴァネッサの横にいた白いワンピースに丸い帽子をつけた小奇麗な褐色肌で金髪のツインテールの少女に目をやる。

 ヴァネッサと行動を共にしていると言う事はただの少女ではないだろう。


 それに衣服も靴まで綺麗すぎるし髪の毛も丁寧に整っている。

 お洒落に気を遣う女学生のような女の子はこの世界では一部地域を除けば絶滅危惧種だ。

 それが出来る暮らしをしながらこの土地に来たと考えるべきだろう。


 俺とキョウスケを警戒しているとニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべて少女は「人間観察は楽しいか?」と尋ねてくる。


「悪い。珍しい背格好してたもんでね」


 と俺は警戒しながら言うと――


「まあそう言う事にしておくか――そうじゃな。あまり大声では言えんがリビルドシティの権力者の一人だ。使者として狭山 ヒロトやジエイタイの人間に会いに来た」


 その言葉を理解するのに少々時間を要した。



 場所を狭山 ヒロト君が使う応接室に移動し、俺とキョウスケを中心に主だったメンバーが集まった。


 ソファにはリビルドアーミーの使者を名乗る金髪ツインテールの褐色肌の少女がいる。


「妾の名はアーティス・ラドクリフ。気軽にアーティスでよいぞ」


 アーティスと名乗ったリビルドアーミーの少女はそう言ってニコッと笑う。


「これまでのリビルドアーミーの連中も色々といたが、とんでもない変わり種が来たな」


 呆れたようにキョウスケが言う。

 きっと皆も同じ気持ちだろう。


「本題に入ろう。何をしにここへ?」


 町の代表者の狭山君が意を決したように尋ねる。


「リビルドアーミーを、リビルドシティの暴走を止めるための算段じゃ」


「それで僕達やジエイタイの力を利用しようと」


「端的に言うとそうなるの」


「それで君に何のメリットが?」


 と、アーティスに尋ねる狭山君。

 口を挟まず俺は会話の流れを見守った。


「簡単じゃ。このままじゃとリビルドアーミーと全面戦争になるのは目に見えておるじゃろう。お主等もそれを前提で動いておるじゃろう。だが勝てたとしてもお互いはタダでは済まんじゃろ? だが話はそう簡単ではない」


 そう言ってアーティスは間を置いてこう続けた。


「知っての通り、リビルドアーミーは傲慢じゃ。話し合いなど応じるつもりもないじゃろう」


「だろうな。話し合いしても騙し討ちを平然と仕掛けて来やがったし」


 リビルドアーミーと出会った頃の事を思い出しながら俺は言った。


「それが大多数を占めておる。妾もなんとか色々と手を回して組織体制の改善を目指したがな――レジスタンスに支援したり、ヴァネッサ達と協力体制を築いたりと」


「いいのか? そんな重要情報をペラペラ喋って? 俺達がアンタらを売るかもし知れないぜ?」


 キョウスケが脅すように言うが――


「その時はその時じゃ。あの世で妾の見込み違いじゃったと嘲笑うとしよう」


「そうかい――まあヴァネッサと連れて来たんだしある程度は信頼できるか」


 少々罰が悪そうにキョウスケが言う。


「ヴァネッサ、お主信頼されとるのう?」


「ええ、まあ――緋田隊長の人徳が成せる技でしょうか」


 ヴァネッサに言われて「え? 俺?」などと俺はちょっとキョトンとなった。


「まあええわい。ともかくリビルドアーミーも一枚岩ではない――じゃがこの戦いを終わらせるにはどうにかして今の町の代表者とその取り巻き連中を倒さなければならない段階に来ておる」


「オタクらで暗殺なり、なんなりすればよろしいのでは?」


 と、狭山君の付き人のメイドアンドロイド、シズクさんが物騒な事を口走る。

 だがそれも当然だ。


「そうもいかんのじゃ。奴達のバックには得体の知れない何かがいる。そいつを倒さんかぎり、真の支配者にとって都合の良い奴がトップになるだけじゃ」


「フォボスの事か?」


 俺はそう尋ねた。


「いいや、別の奴じゃ――得体の知れなさ加減では同等じゃがな」


 と言った。


 そこで異常を知らせるサイレンが鳴り響く。



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