第47話 ボクシング対決②
「……あれ?」
「よく生きて帰ってこれたな。意識は大丈夫か?」
気が付くと第一ラウンドは終わっており、僕はコーナーに置かれた椅子に座っていた。
インターバルだろうか。
いつものように涼しい顔で僕を見ているリーゼ。
しかし……体中が痛い。
何があったんだ。
「お前、棒立ちになってボコボコにされてたんだぞ」
「ええっ!? 全然覚えていないんだけど……」
だからこんなに痛いのか……
と言うか、左目が見えない。
え? 失明しちゃったとか?
僕は寒気を覚え、震えながらリーゼの顔を見る。
「ひ、左目どうなってるの?」
「ああ、大丈夫だ。腫れ上がってるだけだから」
それもそれで問題ありでしょ。
まぁ失明していないのならよしとするか……いや、よくないけど。
「このまま戦えるのかな?」
「まぁ大丈夫じゃないか? あいつとお前に、そこまで差があるようにも見えないし」
「リーゼから見たら人類どれも似たようなものでしょ!?」
「細かい戦力も分析できるつもりだけどな。あいつは弱くはないだろうけど、耕太が勝てない相手でもない」
僕は一応リーゼに訊ねてみる。
「……本気で言ってる?」
「なんだ? 私の言うことが信じられないのか?」
「信じるね! 心から信じるね! リーゼが勝てると言ったら勝てる! 僕は勝ってくるよ!」
「ああ。期待してるよ……でも無理はするな」
カーンとゴングが鳴らされる。
元々勝つつもりだったけど、俄然やる気が湧いてきた。
一ラウンドの途中から意識は無かったけど……ここから巻き返す。
「なんだ、さっきよりは動きがマシになったみたいだね」
「おかげ様で。リーゼの愛のおかげさ」
「ふーん……イラつくね」
平山が僕の左側に左側に移動しながらジャブを放つ。
相手の攻撃は一切見えない。
ガードを固くして対処するしかないな。
僕は頭を防ぐように、顔のところでガードをガチガチに固める。
「んぐっ……」
しかし、今度は腹部に痛みが走る。
平山得意のボディーフック。
僕の内臓を抉る鋭い一撃が決まった。
「顔ばかり防いでくれていても構わないよ。その方が俺はやりやすいしね」
「このっ!」
カッとなった僕はパンチを繰り出す。
だがそれは空振りに終わる。
攻撃がまた来る。
そう感じた僕はガードを上げた。
また相手のフックがボディーに刺さる。
僕はガードを下げ、腹に対する攻撃に対処しようとした。
「面白いぐらいこっちの思い通りに動いてくれるんだな、君は!」
今度はアッパーカットが顎に入る。
頭がクラクラし、立っていられなくなった僕はダウンしてしまう。
「ダウン! ワン! ツー!」
レフリーのカウントが部室内にこだまする。
「立て! 旦那くん! まだまだいけるよ!」
「と、当然だよ……」
僕は震える足を叩き、無理矢理に起き上がる。
目は半分見えない。
足もまともに動かない。
肺も痛い。
それでも僕は負けないんだ。
心が勝利を掴めと燃えているんだ。
「しつこい奴だ――な!」
「がはっ!」
平山のフックが顎に当たる。
また眩暈を起こすが、今度は倒れない。
そのまま一歩前に足を踏み出す。
足を踏み出し、拳を振るう。
だが一向に当たる気配はない。
悉く、こちらの攻撃をさばかれる。
防御の技術が圧倒的だ。
僕の攻撃はまともに当たらない。
攻撃が単調すぎるんだ。
とは言ったものの、僕にはジャブとストレートしかない。
自分にある武器だけで闘うしかないんだ。
自分のやれることをするしかないんだ。
後僕にある物と言えば――リーゼへの想い。
これだけは誰にも負けない。
目の前にいる色男にも当然負けない。
負けてたまるか。
気持ちでは勝っているんだ。
だから僕は負けない。
勝機はいずれ訪れる。
ストイックな選手ではあるが、隙が無いわけではない。
攻撃をする瞬間、若干だがガードが下がる。
その隙を狙って――打つ!
相手のフックに合わせて右ストレートを打つ。
しかし、それは逆にカウンターとして、僕の顔面に当たってしまった。
ダウンする僕。
目の前がチカチカする。
寝ているとリングがひんやり冷たくて気持ちいい。
もう寝ている方が楽でいいかも。
「もういい。そのまま寝てろ」
リーゼが冷たく僕にそう言う。
僕は彼女のその言葉に少し寂しさを覚え、リーゼの方を見た。
冷たい声……しかし、それに反して燃えるような怒りの炎を瞳に宿しているリーゼ。
彼女は楓のことを全力で睨み付けていた。
きっとリーゼは色々と察しているんだろうな……
楓はリーゼの迫力に震えあがっている。
後はリーゼに任せておけば、全部大丈夫だ……
僕は安堵のため息をつく。
「…………」
でも。
でも、意地を張りたい。
僕は……自分の力で指輪を取り戻す。
限界だ。
だけど限界ぐらい超えていけ。
この勝負に勝つんだ。
勝って大事な物を取り戻すんだ。
僕はロープを使い、起き上がる。
「おい……もう寝てろ」
「いいや……寝ていられないよ。僕はあいつに勝つんだからね」
そこでカーンとゴングが鳴る。
倒れそうな僕をリーゼが駆けつけて抱き抱えてくれた。
リーゼに支えられてコーナーに移動すると、彼女はため息をついて僕を見つめた。
「バカだな……でも、殴られたらもっとバカになるぞ」
「僕はリーゼバカだからね……それが酷くなるなら本望だ」
「……本当にバカだな」
リーゼは本当に呆れたように。
でも、僕のことを愛おしそうに見つめていた。




